76 拝金主義者 海狩りに参加する。
ダンジョンアタック開始です。
目の前に広がるのは、朝日に照らされて白く輝く海と、砂浜。そして砂浜に並べられた無数の船だった。
「これより、海狩りを行う。今更、説明はしないが、参加は自由意志だ。損害について当方が一切配慮しない。」
声高にそう宣言するのは、リオンの街議会の議長、つまりベスタ―の父親である。
「代わりに拾得物については街で責任をもって買い取ろう。それと海魔の討伐はこちらでカウントして報酬がでる。」
おおお、と野太い歓声が議長の言葉に答える。
「すごいですねーー。」
「まあ、これが海狩りだから。」
先日手に入れた魔導船の調子を確かめながら俺たちは、そんな様子を見学していた。
リオンの街を始め、東海岸の海は定期的に海の魔族の襲撃を受ける。タイラントフィッシュやエビやカニのような食用になる低級の魔物が来ることもあれば知恵をもち、船を扱う知能の高い魔物までその範囲は様々だが、数日前から兆候が表れ、結構な規模の襲撃が起こるのだ。
街はそれらの襲撃の大して広く傭兵や漁師を雇い、時には船を貸し出してこれらを迎撃する。狩りという名目だが、やっていることは防衛戦である。
「お偉いさんたちは、防衛陣地の向こうから双眼鏡で観測。危ない橋は傭兵任せってわけだ。」
「なるほどー、だからみなさん強そうなんですねー。」
「だねー。」
端っこに待機する俺たちから見える範囲でも、傭兵たちは鍛えられているのが分かる。海魔の襲撃を定期的に相手をしているからこそ、東海岸の傭兵は強い。そして
「あれて、タイラントフィッシュの店長さんでは。」
「確かに、服装は違いますけど、匂いが同じです。」
リオンの街の住人の上澄みな人達も強いらしい。
カーンカーンカーン
なんとなくで浜に集まる船や人を見ているうちに高らかに鐘が打ち鳴らされ、場の緊張感がぐっとます。そして水平線の向こうから、いくつかの船が飛び出してくる。
「マーマンですね、操船技術もすごいと聞きますが。早く試したいです。」
ニタリと笑うエーフィに促されてエンジンをかけると、浜の船も一斉に動き出す。
「いけーーー、魚人どもを根絶やしにするんだーーー。」
「きしゃあああ、略奪だー、うばえーーー。」
マーマン、魚人とも言われる魔物であり、言語を操る知性があると言われている。習性はどう猛で、船を使って海賊行為をすることで有名。
「「あの人達下品なんですよねー。」」
ダンジョン関係者からのコメントはこんな感じ。
ともあれ数中の船で襲撃するマーマンは、海狩りの中でも危険度が高く、そして得るものが多いといわれている。
「いけー、乗っとれ。」
先行する船の多くは、速度重視で軽装なものだ。そしてマーマンの船に近づくと船員が乗り込んでマーマンを切り捨てていく。船のサイズはお互いにボートサイズなのだが、マーマンが扱っているのはすべて魔導船だ。鹵獲できれば儲けは大きい。
「とりかえせー」
もっともマーマンも黙って船を渡すわけがなく近くの船から乗り込んでくるので、船上での乱戦となっているわけだが。
正面は速度重視の特攻戦による乱戦になり、タイラントフィッシュの店長や俺たちのような船が目的じゃない船はその乱戦を避けるように大きく迂回し、それに対応する船で戦場はどんどん広がっていく。
「おう、兄ちゃん、兄ちゃんたちも参加していたのか頼もしい。」
こちらに気づいた店主が挨拶をしながら投げた、銛がマーマンの船に突き刺さり大穴をあける。
「な、貴様―。」
激昂してマーマンが泳いで近づいてくるが、他の船の船員が鉄棒でたたき落としていく。うん、なかなかいい連携だ。
「やるな店主、見事な連携だ。」
「船に穴が開いちゃうから、修理が大変だけどな。」
空になった船を手繰り寄せる店主たちのグループを賞賛して俺たちは更に船を加速させる。
「ゼムドさん、突出してませんか?」
「エーフィ、信頼してるぞー。」
カタログスペックは事前に説明されている。エンジンをふかせがほかの船を置き去りにする速さと圧倒的な頑丈さ。
「ばかがいるぞー。」
「囲め―。」
わざと突出した俺たちを囲む様にマーマンの船が動き出す。だが。
「おらー。」
気合とともに一隻に向かって船を向けて突撃させる。そしてハンドルについているスイッチを押す。
「ぎゃあ。」
正面からの衝突、吹き飛んだのは、マーマンの魔導船だった。それこそ壁に激突したかのように派手に吹っ飛んで船は残骸となる。
「ははは、どうだ、まるでゴミのようだ。」
強化した船首によるラムアタック。エーフィ特性のバリアー付きです。
「なにあの船。」
突然の暴力に驚くマーマンたち。だが待ってあげる義理はない。
「そらそら。」
方位を抜けたタイミングでターンを決めて、集まった船に向かって再び突っ込む。
がりがり、ばりばり。
まるで魚群を食い破るサメのごとく破壊活動。
「おい、なんだあれ。ふざけんなー。」
「あれじゃ船が使い物にならないだろ。」
遠目で見ていたほかの船から苦情が聞こえるが気にしない。魔物による被害を防ぐ、鹵獲品は二の次だろ。
「悪い顔してますねー。」
「ノリノリです。」
なかなかにスリリングな運転だが、それ以上にパニックなのはマーマンたちだろ。
「やべえー逃げろ。」
何度か突撃を繰り返すうちに、生き残った船が反転して逃げ出し始める。
「よし、ここまでは計画通り。」
その一隻をロックオンして、少しだけ速度を緩めて追いかける。
「な、なんだ、ダンジョン挑戦者か、はた迷惑な。」
すれ違う船のつぶやきに片手を上げて挨拶をする。
そう、これは「アビス」ダンジョンの攻略に必要な工程なのだ。
海狩りの海魔どもは、「アビス」出身のものが多い。そして、圧倒的な火力で蹂躙するとダンジョンへと逃げかえるという習性がある。
圧倒的というぐらいだから、今回の海狩りの4割程度の船を沈めたことになり、収益は減ってしまうだろう。それは金稼ぎを考えている連中向けなので、俺には関係ない。
「さて、案内してもらおうか。もっともフレンドリーなダンジョンへ。」
パニックなってこちらの存在に気づかないマーマンの船を見ながら、俺はどう猛な笑みを浮かべるのであった。
ゼムド「武力差で蹂躙するが、何か問題でも?」
グレイス「僕はお休みです。」
昔の開戦では、船を側面に着けて大砲を打ち込んだり、横っ腹の脆い部分に船首をぶつけたりしたそうですが、ゼムドさんたちは性能差で蹂躙しています。




