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70 ゼムド一派海を目指す。

 ダンジョンを出て、山超え、その先は。

 ダンジョン攻略は、無事に帰るまでがダンジョン攻略です。

 とりわけ「停滞」のダンジョンは安全な街までの帰り道がないので、非常に困難だ。

「いやー、便利だわ、このスキル。」

 「炎残」のダンジョンで解放された、「ドリームマリオネット」、それの拡張機能でプログラミングされた、鎧は魔導車の運転だけでなく、ダンジョンへたどり着くまでのルートを逆再生して、サナダの村まで車を走らせるというとんでも機能まであった。

 なので本来なら過酷な雪山踏破の続きとなるはずが、ルートという一番厄介な問題を気にせずのんびりとした道中になっている。あのクレパスですら安全に回避しているので、後部座席で寛ぎながらメンバーであとのことを話している余裕まである。

「しかし、今回のダンジョンはハードだった。」

「そうですねー、なんだかんだー「停滞」さんは他のダンジョンさんにも社交的とは言えませんから。」

「タイムズもそうですが、自己中心的な芸術家タイプの職員があのマスターを支えている、いやマスターの作る空間を利用しているといったところですからねー。癖の強いダンジョンの中でもあそこは格別ですよ。」

 俺の不満にのほほんと意見を返すダンジョン関係者、1人は緑の髪をしたほわほわした美少女でレプラコーンのキアリーさん、最も簡単に行ける地獄と言われる「試練の塔」で働く魔物で、現在がダンジョンマスターの指令で5大ダンジョンを巡って、貸し出しているアイテムを回収するために旅をしている。のほほんとしているが、レプラコーンは人間よりもはるかに優れた感覚をもっており、探知系スキルの多くが彼女がいると不要になってしまう、一度頼ると手放せなくなる便利で親切な人だ。

 そんな彼女の膝であくびを小動物は、カーバンクルのエーフィ。もっとも攻略者の多い「壊群」のダンジョンの幹部の希少生物だ。高い魔力をもちダンジョンマスターの一撃すらしのぐ結界をはるほどの魔法の使い手であり、マッドサイエンティスト。気を抜くと俺のアイテムを魔改造する困った癖がある享楽主義者だ。現在のオートドライブもこいつの魔改造の成果の一つだ。

「ははは、傭兵の立場からはなんともコメントがしづらいですけど。ダンジョンって基本的に挑戦者を歓迎してないものという認識だったので。」

 そんな二人に苦笑しているのは付与術師のグレイスだ。とんでもない腕前の付与術師で傭兵としてもなかなかに優秀なのだが、とある町で詐欺まがいのブラックな依頼に従事し過労で倒れていたのをスカウトした。地味にいい働きをしてくれるし、金銭感覚以外は傭兵としてまっとうなので、ダンジョン関係者の非常識な考えに引っ張られそうになるたび色々と助けられている。すぐに眠りたがり、一度寝ると中々起きないという欠点がなければ相当な傭兵となるだろう。

 そんな闇鍋染みたパーティーで旅をするのもだいぶ長い。それだけダンジョン間の旅は長く険しい。そしてダンジョン攻略、とりわけ最近の「停滞」のダンジョンン攻略はお互いの知恵と力を結集したものだった。立場は違えどそれなりの信頼関係も築けるというものだ。

「しかし、これで3つか。」

 今までのことを思い出しながら俺はふと思う。前情報やダル消費無制限というズル技にダンジョン関係者との交渉という反則を使ったとはいえ、これは過去に中々ない偉業だ。この功績やダンジョン攻略の報酬だけでしばらく遊んで暮らせる。慎ましく生きれば一生でもいけるかもしれない。

「次は、海なんですよねー。」

「「アビス」ですか、あそこもなかなか癖がありますけど、社交的ですから楽しみです。」

「海へ行くのは初めてなので楽しみです。」

 三者三様。次のダンジョンである「アビス」へ向かうことに何一つ疑問を持っていない。そう俺の仕事は「5大ダンジョン」を巡るキアリーさんたちの護衛で、グレイスはそのために俺が雇った傭兵なのだ。コウほのぼのした空気になると忘れそうになるが、ダンジョンを踏破する必要も本来はない、攻略はあくまでおまけだ。

「海かー、久しぶりに蟹が食べたいなー。」

「蟹ですかー。美味しいですよね、素揚げにすると美味しいですよねー。」

「それは沢蟹だよ。海に行けばダラボクラブや、クラッシャークラブもいる、何よりうまいのはツインテールクラブだな。どれもうまいが、ツインテールは足が早いから海辺でしか食べられない。」

 ゆでても美味いけど、刺身にしても美味いんだよなーあれ。

「生で食うとうまいんだよ、海の幸は。」

「生でですか、お腹壊しちゃうんじゃ。」

「新鮮だから大丈夫だよ。まあ最初の一口は勇気がいるかな。」

 とれたての海の幸を職人が加工すると、生のままでも美味しく食べることができる。海の近くで食せるそれらは、ご当地の名産として味も栄養価もある。次のダンジョンに向かったらとりあえずはそんな美味しいものを食べるのもいいかもしれない。

「刺身といえば、私はオクトパスがいいですねー。吸盤がコリコリしておいしいんですよ。」

「おっ、エーフィは体験済みか。オクトパスを食べるとはなかなか通だねー。俺は初見では遠慮してしまったよ。ごねて口に放り込まれたときは殺意を覚えたけど、めっちゃうまいんだよなあれ。」

「はい、ぜひとも刺身は食べたいですねー、あとはイソ焼きも食べところ。」

「イソ焼きってーなんですかー。」

「ああ、イソ焼きってのは、鉄板で麺と一緒に炒めた魚介だ。魚の出汁を吸った麺がうまいんだよ。」

「へえー。」 

 そのまま海の幸の味について盛り上がる車内。気の抜け過ぎなような気もするけれど、緩急は大事だ。

 そう言い訳しながら俺たちは、山越えの先にある海の幸に思いをはせるのであった。



ゼムド「海は遠いぞー、広いんだー。」

グレイス「海の魚はおいしいですよー。」


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