60 歓迎されない「停滞」のダンジョンの攻略法
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迷路のような第一層を超えて、第二層に上がると、そこには真っ白な雪原があった。
第二層は、第一層と同じく魔物の巣だが、まるで外のような広々とした真っ白な空間だった。
「これはきれいですねー。」
「一面雪だらけ、それも新雪のようにふかふかです。」
はしゃぐダンジョン組に対して、俺とグレイスは顔をしかめていた。
「これは予想以上ですねー。」
「なー。どこが出口かわからないのがいやらしい。」
第二層の攻略は基本的に第一層と変わらない。この雪原にはスノーフィッシュという魔物が群れを作って潜んでおり、これまた適切なルートを見極めないと魚の群れに襲われることになる。
「このフロアーは、宝物の気配もありませんねー。」
はい、お得な情報が何もないことがでましたー。
「なんだよ、ここ。なんなんだよー。」
もともと近接戦闘タイプな俺には、こういうスカウト的な攻略は得意じゃない。できないことはないが、めんどくさいと思ってしまう。それでいてダンジョンでありながらリスクしかなく、リターンがこれでもかとないという状況が腹立たしくてしょうがない。
なんというか、ルールやマナーの厳しい料理屋で、好きでもない料理を食べさせられているようなそんな感覚だ。静かに、刺激せずに進む、それがルールというならしょうがない。そう割り切れてしまえばいいのだろうが。それが傭兵のすることか?
「なんというか、傭兵の戦い方に似てますよねー。」
ふと漏らしたグレイスの言葉に、俺は視線を向ける。
「いやだって、ゼムドさんも習いませんでした。傭兵は騎士でも正義の味方でもないってやつ。」
「ああ。」
時々忘れそうになるけどグレイスは、きちんと教育を受けている凄腕の傭兵だ。付与術師という戦闘向きのスキルを持たないが、その動きは無駄が少なく、仲間の邪魔をしないうえで身の安全をしっかりと確保している。ひょろりとしているが体力もあり、肉弾戦もきっとそこそこできる。
「うーん、最近はソロだったから忘れてたけど、俺たちは傭兵だったな。」
「はい、傭兵です。だから報酬が少ないこのダンジョンにイライラしているんですよ。」
ニコニコというグレイス、これはきっと彼なりの気遣いなんだろう。
「そうだな、そうだよなー。」
やはり毒されていたらだしい。この俺がダンジョンに配慮した攻略なんてものを考えて頭をなやませるなんて。
「グレイス、キアリーさんたちを連れて第一層に戻っていてくれ。合図をしたら10分後に降りてきてくれ。いけるな。」
「お任せを、リーダー。」
思考が切り替わった瞬間に、浮かんだ悪辣な方法を使うことに迷いなんてものはなかった。
相手の嫌がることを徹底してする。勝つために手段を選ばない。善悪はなく報酬に見合った仕事をする。それが傭兵だ。
「くっくく。わはははは。」
こらえきれず俺は笑いだしてしまった。
そうだ、何をいい子ちゃんをしているんだろう。ダンジョンのルール、被害とか赤字を出さない。何を甘いことを考えていたのだろう。
「さあさあ、怒らせて、びびらせて、嫌がらせてやろう。」
グレイスがキアリーさんたちを連れ立っていくのを確認して、雪原を歩き、アイテム袋から次々に丸いアイテムを取り出して雪の中に放り投げていく。念のためと思ってバカみたいにため込んでいたそれをここで使い切るぐらいの気持ちでためらいなくなくポイポイ投げていく。ある程度投げたら今度は俺の嬢は真ぐらいの大きさの樽をだしておき、再びポイポイしていく。一時間ほど繰り返せば第二層の入り口から半径十数メートルのエリアに巻き終えることができた。
「準備完了。」
次は金利を発動させる。
『スキル『金利』の発動を確認しました。ご用件を。』
「引き出しだ、脚力強化、挑発、気配強化を頼む。」
『スキル引き出しには合計で、45万ダル必要で効果は15分です。』
「構わない、自動延長もいつも通り頼む。」
『了解しました。スキル発動を確認。ご武運を。」
「へいへい。」
スキルで体が軽くなったことを確認して、俺は改めてアイテム袋からアイテムを取り出し、スイッチを入れてそれを力の限り放り投げる。放物線を描きながら遠くまで行ったアイテムは、
どがーーん
爆発とともに耳を塞ぎたくなるような大きな音が響き渡る。
音厳禁?ちがうね、これはただの嫌がらせだ。
「ぎやぎゃぎゃぎゃー。」
音とともに周囲が一気に騒がしくなるのを確認して俺はアイテムをばら撒いたエリアに向かって走り出す。雪に足を取られるかとおもったが、「ドリームマリオネット」と「脚力強化」のおかげすいすい走れる。「ドリームマリオネット」、実は動きをアシストする機能もあったらしい。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃー。」
俺がいた場所に時間差で大量のスノーフィッシュが殺到する。どうやら安眠妨害の犯人が俺だとはきっちり分かっているらしい。
「ほらほら、こっちだ魚ども。」
大声で叫びながら、大量の魚を引きつ入れて逃げる。大剣や武器で処理していたら飲み込まれていただろう大群だが、こいつらの動きはそんなに速くない。逃げるだけなら余裕だ。
「ふははは、襲い、遅いぞ。」
大量の魚を引き連れての疾走はかなりの騒音となる。魚の群れはお互いを刺激し、気づけば見渡す限りが魚たちに埋め尽くされる。
「いい感じ、いい感じ。」
9分ほど走り回り、俺は第一層へとつながる階段を駆け上がる。
「エーフィ」
「心得ました。」
打ち合わせをしたわけでもないが、俺の行動で何かを察していたらしきエーフィの放つ雷撃。それが魚たちを薙ぎ払い、俺がまいておいたアイテムに着火し。
「グレイス。」
「はいはい、防音ですねー。」
グレイスの防音結界にすべりこんだタイミングで、周囲が赤く白く染まる。
「うわー、えげつなーい。」
持てる爆薬の大半をつぎ込んだ、爆破トラップ。俺がこのフロアーで選んだ選択はこれだった。
「火薬多すぎたな、この半分でもよかったかもしれない。」
ゴーゴーと燃える第二層は炎と連鎖する爆発で地獄絵図となっていた。ダンジョン内は不思議な物で視覚的な情報は確認できるのに、熱量や生物は基本的に移動できない。
「なるほど、だからあのえげつない爆発でも私たちは安心なんですね。」
「音がすごいから、対策をしないとそれだけで気絶しそうな気がしますねー。」
ダンジョン関係者たちにはなかった発想らしく二人はとても感心していた。でもね、これってそれで終わりじゃないんだよねー。
「おっと、火が弱まってきたな。よし。」
安全圏まで火が弱まったのを確認して俺はキアリーさんを小脇に抱える。
「グレイスは?」
「ええっとお願いします。多分その方が速いですよねー。」
「任せろ。念のため付与を頼む。」
了解をとってグレイスを反対に抱えるとエーフィが肩にのる。
「無茶をしますねー。」
「嫌がらせだからな、堕ちるなよ。」
「大丈夫です、満喫させていただきます。」
グレイスとエーフィは即座に俺の意図を理解して鎧にしがみ付く。
「ええっとこれはどういう。」
「しゃべると舌噛むよ。」
「ちょ、えええええ。」
確認を取るタイミングを惜しんで俺は第二層に躍り出て焼け焦げた地面を全力疾走で走り抜ける。
「があああああああ。」
そのタイミングで、第一層の入り口から大量の魔物がなだれ込んでくる。まああれだけの大音量をだしたらそうなるよねー。
「ははは、命懸けの追いかけっこだ。覚悟しろー。」
「「「ーーーーーーー。」」」
声にならない悲鳴をあげる3人を抱えて俺は全力で走り抜ける。熱量で魚も雪もない地面は走りやすく、背後に迫る魔物や魚の生き残りを引き離してなお余裕をもって、第二層を走り回る。
「あそこか。」
そして、第三層の入り口を見つけて、そこに滑り込む。
「ははは、やったぞ、こんちくしょうー。」
階段を滑り落ちながら俺は勝利の雄たけびを上げる。
「無茶しますねー。」
「いやー、怖かったー。」
「いたいです。」
投げ出した3人も無事な様子でなにより、そして第三層に魔物たちは降りてこれないようで、安全も確保。
「くくく、攻略完了だ。」
きっと二度とやらない。でも思いのほかすっきりしたのは内緒。
ゼムド「すっきりしました。」
キアリー「舌噛んで痛いです。」
グレイス「なんとも居心地がいい場所ですねー。」




