53 ゼムド一派 またダンジョンマスター代理と会う。
新たな強者の登場です。
するどい攻撃と警告にピタリと足を止めると、声の主はすぐに表れた。
燃えるように真っ赤なローブをまとい、髪も瞳も赤い。冷静にこちらを見ながら、雪の壁の上からゆっくりと降りてくる姿はまるで魔女だ。そして知り合いだった。
「レプラコーンがダンジョン以外にいるのは珍しいな、そして、そっちのお前は何の種族だ。」
「アイスの食いすぎでついにボケたかブース。」
「なっその遠慮のない言い方。もしかしてゼムドか。見違えたじゃないか。」
ゆるりと着地して近づく顔はこちらを睨んでいるようにみえるが、単純に目が悪いのでそう見えるだけだ。整った顔に圧倒的な気配。
こいつの名前はブース、リーフィアやサンダースと同じギドマスター代理で、二人の姉らしい。卓越した魔法の使い手で、基本的にはこの地域で活動している。本人曰く、魔法を派手に使っても怒られないからとのことだが、暑いのが苦手なのが一番の理由だと思う。
「久しぶりだな、なぜここに?」
「近くの村の雪祭りの手伝いだ。アイスラビットが出たとなれば、人手がいるだろ?」
「それは感心だー、おまえも少しは人様のお役に立とうと思ったというわけか。」
言いながら飛んでくる氷のつぶてをとっさに手で払う。
「とか、言うと思ったか、このドラ息子。お姉ちゃんは悲しいぞ、何を企んでいる。」
言葉よりも先に手がでるのは姉妹共通なんだろうか。思い込みが激しく、基本的に話を聞かない。
「致し方ない。」
仕方なく俺はアイテム袋から、アイスを取り出して掲げる。
「ほら、土産だ。「炎残」のダンジョン産の特性バニラ。」
「アイ―スー。」
話を聞かせるには、アイスか甘味を与えて大人しくさせる必要がある。こいつの脳みそは魔法を使うこととアイスで占められているのだろう。
「そういえば、リーフィアから連絡が着ていたな、なんでもついに5大ダンジョンの攻略にチャレンジするとか。」
「ちがう、依頼で5大ダンジョンをめぐっているだけだ。」
「そんなの詭弁だろ。」
アイスを食べて落ち着いたのかブースはにやりと笑う。お替りを請求する手がなければそれなりに絵になっただろうけど、それでもこいつは俺よりも強くてかしこい。
「依頼にかまけて5大ダンジョンの攻略に挑戦しているんだろ。私たちの教え子の仲でも一番傭兵らしいお前が、お宝を前に大人しくなんてできないだろう。」
「敵わないなー。」
よくよく考えればこの地域で、ギルドが信頼する傭兵といえばこいつが真っ先にあがるよな。我ながらうかつな鼓動をしてしまった。サナダの件で思った以上に責任を感じているのかもしれない。
基本的に俺はギルド代理のお姉さま方が苦手だ。特に、ブースとは、できる限り出会いたくなかった。昔のネタでからかわれることもそうだけど、未だに俺を教え子と呼んで鍛えようとしてくるからだ。
「そうなると、そちらのレプラコーンはダンジョン関係者かな?」
「はい、キアリーと言います、普段は「試練の塔」で働いています。」
「ああ、あそこか。なつかしいなー。」
2個目のアイスを食べながらどこか遠くを見るブース。魔法使いとして優秀な彼女なら一度ならず何度も挑戦しているのだろう。代理である以上どこかの5大ダンジョンも踏破しているはずだし。
「まあ、話の前にアイスラビットをどうにかしよう。いやもう終わってるのか。」
長くなりそうなので強引に話題を戻すことにした。実際アイスラビットの対処は優先事項でもある。
「ああ、そうだった。ちょうど囲い終わったところでお前たちが来たから忘れてた。一応囲ってあるからあとは適当に殲滅すればいいんだが・・・。」
中の様子を思い出しているのかブースは俺とキアリーさんと雪の壁を交互に見て首をかしげる。
「どうすっかなー?魔法で一気に燃やしてもいいけどめんどくさい。」
そう言ってアイスのコーンをバリバリと食べだす。
「なんだか、ゼムドさんに似てる人ですねー。」
「キアリーさん、それは失礼。」
俺はこんな変人じゃないぞ。
「そうだ、ゼムド、お前に任せるわ。」
そしてこんな理不尽じゃない。
「まてまて、何を。」
「ちょうどアイスラビットの素材が欲しかったんだ。燃やすとだめになるからなー、適当に細切れにしてこい。」
「ちょっとまてえええ。」
抗議の声は突発的な上昇気流によってかき消され、俺の身体は天高く舞い上がった。
「任せたぞー。」
能天気な声は魔法で届けられたもの。鎧をまとった俺を軽々と持ち上げる威力とささやかに声を届ける技量、どれをとっても一級品の魔法使いの業だが。
「覚えてろーーーーー。」
届かないとわかっている怨嗟の声。そんなことをしている間に俺はアイスラビットのコロニーの中心部へと落とされる。
「があああ。こうなる気がしてた自分が憎い。」
即座に武器を構え、群がるアイスラビットへ対処を始めた自分は偉いと思う。
「アイスお好きなんですか。」
「ああ、甘い物は脳の栄養になるからな、魔法使いの主食なんだ。」
「そーなんですか。アッ私も持ってますけどいりますか?」
「おまえ、いいやつだな。キアリーだったな覚えたぞ。」
その裏でキアリーさんに懐柔されたギルドマスター代理がいたらしいが、そんなことを考える余裕はなかった。
結論だけ言っておくが、死ななかったけど、死ぬほどひどい目にはあった。
ゼムド「どいつも碌な奴じゃない。」
リーフィア「美少女です、ただし怪力です。」
サンダース「有能です、でもめんどくさい。」
ブース 「魔法は一流。肉体労働は嫌いだ。」




