38 ギルドマスターはうそがつけない。
ざまあ回、その2
(サンダース視点)
ギルドマスターは傭兵の中でも最強の存在である。そのギルドマスターから直々に任命されたのがギルドマスター代理であり、実力や性格、なにより実務能力が高い人間が選ばれる。
「・・・向いてない。」
だからこそサンダースは自分がギルドマスター代理には向いてないと思っている。
最低上限として5大ダンジョンの攻略は達成しているし実力は自信がある。細々した書類仕事とかも嫌いじゃないが。彼女はともかくコミュニケーションが苦手だった。
「あのサンダース代理?」
「査察。」
なぜかめちゃくちゃ緊張している出張所の職員を前に、自分が何を言えばいいか考えてしまう。姉であるリーフィアと比べると大きく不愛想な自分が怖がれやすいことは経験上わかっているが、どうすればいいかわからない。だからコミュニケーションは苦手だ。
「査察ですか、そのような連絡は?」
「抜き打ち、私も不本意。」
予定もない行動だったので嘘ではない。できることなら素通りして姉のいる街へ帰りたかったが、ゼムドという古なじみと顔を合わせたのが運の尽きでこうして仕事が増えた。
「最近の依頼、見せて。」
多岐にわたるギルドマスター代理の仕事として各支部や出張所が健全に機能しているか査察がある。査察のタイミングは計画的に行われたり代理の裁量で決められることもある。がサンダースはイレギュラーな査察とかアドリブが苦手だった。
「最近のですか、そういってもかなり数があるのですが。」
「面倒、うん町役場とかでいい。」
こうして淡々と話しているが、その内容はゼムドに考えさせ、それをなぞっている。
「ま、町役場ですか。」
「どうせ問題なんてない、早く済ませたい。」
本人としては必死にそれをなぞっているが、不愛想かつ巨体での威圧でいやいやしているように見えてしょうがない。
(これは、たしかに)
後ろ暗い気持ちがあったからこそ出張所の職員はその態度に安堵した。査察において一番問題ない公共機関の依頼を確認するのは無難な選択だし、早く終わるものだ。
代理ではなくても過去に査察が入った場合も表面をさらっと確認しただけで、不正は見つからずにすんだ。
(そうだ、ばれても問題はない。)
もしかしたら注意勧告はあるかもしれないが、問題の依頼も表だって悪いことはしていない。このやる気のない女性がそこまでするとも思えない。
小悪党で小銭を稼ぐようなことはほかでもしている。そんな自分勝手な価値観で働いているからこそ、気だるげに見えて真剣に書類を精査しているサンダースの姿に気づかなかった。
「面倒、だけど相手にも確認。」
「そ、そうなんですか?」
「問題?」
「い、いえ。」
査察の一環で依頼人に実績が本当か確認することはある。だが、前回の。
「いいから行く。早く終わらせたい。」
そういった前例で時間を稼ごうなんて甘い考えを捨てたくなるほど、ギルドマスター代理は不機嫌に見えた。
出張所と町役場は10分も離れていない。職員は一時的に受付を閉めてサンダースをそこまで案内することにした。この時点で自分のしている不正は指摘されていない。
(あとはムサの旦那と無難に口裏を合わせられれば。)
依頼範囲や期間に対して明らかに安すぎる依頼だが、役場とギルドは持ちつ持たれつな部分もありそういうことがないわけじゃない。というムサの言葉通り。だからそこを指摘されたらそのように言ってお茶を濁す。もっとも金額的な問題などがサンダースにばれているとは思えない。
そのくらいに職員はサンダースをなめていた。
「案内。」
「はい、こちらです。」
受付で話をしてぼろをだしてもまずいので、軽く挨拶をして、安全管理局の執務室へとマスターを案内する。そこでムサと話を合わせて終わらせる。
(焦った、今日は酒をおごらせよう。)
自分の役割は終わり。日頃の悪さも顧みない職員は。
「だめだよ。」
「えっ。」
「そんな簡単じゃない。」
そういったサンダースの言葉に首をかしげながら執務室をノックするが。
「あれ、いない、ムサさんはどこに?」
勤務時間はここにこもってさぼっているムサがいない。そんなイレギュラーに驚くムサは、背後でサンダースがにんまりと笑っていることに気づかない。
(ゼムド視点)
予想通り、30分もしないうちにムサは1人の傭兵を伴って戻ってきた。
「ゼムド殿、紹介します。こちらが付与術師を統括している傭兵のロン君です。」
「はじめまして、ロンと言います。」
にこやかに握手を求めてくるロンに冷めた目を向けながら、俺は対面のソーファに視線を送る。まずは座れという合図に、ロンは一瞬顔をしかめるが素直に従う。
(あの人って傭兵なんですか?)
(いや、雑魚だよ。)
こそっと耳打ちしてきたキアリーさんにそう返す。ロンという傭兵は身綺麗な恰好をしているが、実力はグレイスどころかほかの街の付与術師と比べても数段落ちる。
「握手は契約が成立してからするものだろ。」
傭兵の流儀も忘れて握手を求める時点で3下決定。そういっても気づかないくらいぼんくらだ。
「ははは、大きな仕事だと聞いて気がせいてしまいました。」
苦笑するロンだが、自分が選ばれることを疑っていない。まあ、ムサは役場でもそれなりの地位を持っているらしいし、ギルドの仲介した依頼による実績に不正はない。
(曇っている目はえぐらるけどな。)
そんな物騒なことを考えながら俺は兜をトントンと叩く。
「まずは、確認だ。月見のトンネルから街までの街道。あそこに魔物よけの付与をしているのはお前か?」
「ええ。」
「お前が1人で。」
「まさか、私を含めた付与術師で行っていますが、私が指揮をとらせていただいていますよ。」
はーい、真っ赤なウソ。真顔で言い切ったよ、こいつ。
「じゃあ、実際の付与は?」
「重要なポイントは私が現地で?」
「なるほどねー。」
値踏みするように観察するとロンは緊張か、イラつきなのか緊張なのか、顔が赤くなっていく。
「ず、ずいぶんと疑われるのですね。」
「そりゃ、そうだ仕事の相手は慎重に選ぶ。その実力や性格をな。」
「ぐっ。」
「ゼムド殿、ロンは別の仕事の合間を抜けてきたので少々お疲れでして。」
「へえ、なんの仕事?」
「い、いえそれは守秘義務がありまして。」
どうせ酒場か宿屋でさぼっていたんだろうに見栄を張るロンを俺はあざける。うん、これはダメだ。喜劇が過ぎる。
「じゃあ、もう一度確認するが、ロン。お前さんがあの付与をしたんだな。」
「そういってるでしょ。」
「そう怒るなって。あれだけの付与ができるならこんな町で働くのはもったいないと思っただけだ。」
そうやって煽てればロンはにんまりと笑い、ムサも緊張を隠しつつも笑みを浮かべている。
ギルドマスター代理の推薦所をもった傭兵。それの仕事に関れたのならば傭兵として箔がつくだけじゃなく報酬もかなり高い。そしてそれを紹介したムサの評価も上がるだろう。
(自分の手柄でもないのに、よく誇れるな。)
付与はだれにでもできるそんな認識があるからこういうことが起こる。
「さて、じゃあ契約を。」
「失礼します。」
もっと追い詰めてやろうと思ったら執務室に職員が駆け込んでくる。
「な、なにを急に、今は来客中だぞ。」
「で、ですが、執務室にギルドマスター代理の人がいらしゃっていまして。」
「な、なんだってーー。」
どうやら時間切れらしい。遊びはここまでだ。
(サンダース視点)
執務室で待つこと数分、緊張でトントンと床を叩いていると職員が怯えてびくっとなる。
「もうすぐいらっしゃると思います。」
「了解。」
サンダースの様子に怯えてそっぽを向く職員にあきれつつサンダースはキョロキョロと視線を送って執務室を見る。町役場の役員程度では買えない豪華な調度品と明らかに怪しい額縁の絵。
悪いことを考える人間の部屋ってどこも変わらないなーって思いながら、動きをシミュレートして手を動かすと職員がまたびっくとする。
早く来てほしい。としみじみと思う。
「お、お待たせしました。」
そう思っていたら慌てて扉を開けておっさんが飛び込んでくる。
「こ、こちらの部署の担当をしているムサと言います。代理殿。」
「サンダース。」
「はっ。」
「名前。」
「サンダース殿ですな。以後御見知りおきを。」
走るほどの距離じゃないはずなのに、ぜーぜーと息を切らす様子にサンダースは眉を顰める。
「い、いえ。じつはちょっとした案件に取り組んでおりまして。い、いえ時間にはゆとりがあるので大丈夫です。」
不意打ちの査察なんてものは嫌われる。少なくとも計画的に行われる場合も事前に連絡はしてから行う。真面目に仕事をしているならかなり迷惑なんだろうけど。
「依頼、確認。すぐ終わる。」
「は、はい。」
暗に忙しいから配慮しろなんてアピールがサンダースに通じるわけがなく、サンダースは何枚かある依頼書をもって読み上げる。
「ますは、先月の10日・・・」
淡々と読み上げる依頼内容にムサは目を白黒させた。
実際の活動は1人の傭兵に丸投げして、依頼内容はそれっぽく作って調整はギルドに丸投げ。かろうじて覚えている書類の文面にただうなづくことしかできない。
「では、直近の依頼はグレイスという傭兵でOK。」
「はい。」
「そう。」
一気に読み上げても全く疲れた様子のないサンダースの様子に得たいの知れなさを感じるムサであったが、同時に安堵していた。
(やはり細かい内容までは検証する気がないんだな。)
思えばムサがこの悪さを始めたのは些細な記入ミスだった。雇う付与術師の人数を各書類の数字ミスがあり予算が余った。魔が差してそれを懐に入れたがバレなかった。
その後も徐々に数字をいじり、気づけばギルドの職員を巻き込んで大きな金額が懐にはいるようになった。
特に景気が良かったのは最近、グレイスというバカな傭兵がサナダの街に流れてきてからだ。世間知らずで付与の腕は凡庸だが、根気があり、他の傭兵から仕事を押し付けれられも平気な顔でやり遂げる。ロウを中心とた数名の付与術師が仲間に加わるきっかけになり、金額は更に大きくなった。
(馬鹿正直に働くやつに対して確認もしない上司、まったくバカばかりだ。)
他人を食い物にしながら、まったく顧みることもなく、偶然の積み重ねで罪を逃れてきただけの男は自分が賢いと思い込んでいた。
「ははは、グレイスは割と優秀ですよ。」
だからそんなことを口にした。
「へえ、グレイスって言うのは知ってたんだな?」
それが自分の破滅を招く言葉になるとも知らず。
(ゼムド視点)
「ぜ、ゼムドどの。どうしてここに。」
「いや、ギルドマスター代理殿が着ているというなら、ここの部署の仕事を俺の口からも伝えようと思ってな。」
驚くムサに答える俺の態度はまるで白々しい。
「たしか付与の依頼を受けていたのはロウじゃなかったっけ?」
仲良く肩を組んだロウ君にそう尋ねるが、なーぜーか顔を真っ青にして震えている。
「い、いやロウは付与術師のまとめ役で、グレイスというのは最近はいった新人なんです。」
「ロウなんて名前がなかった。」
俺に対する言い訳に、サンダースが揚げ足をとる。
「え、ロウどういうことだ。」
「ええ、ええっと。」
「ロウ君はちゃんと自分の名前で依頼を受けたって、ギルドに行けば依頼表もあるって言ってたよねー。あれれおかしいなー。」
「書類不備?」
「いえ、そんなはずは?」
顔を青くして首を振るギルド職員。ははは地獄絵図だ。
「ねえ、ゼムド、ここからどうするんだっけ?}
「って、おおーーい。」
なにあっさりばらしてくれちゃうんですかサンダースさん。
関係をバラスのはもっと証言をひきだしてからでしょ。
「面倒。飽きた。」
「お前が穏便に片づけたいって言ったんだよね。」
言いながらロウ君をしめて気絶させるあたり俺もわかっていたことかもしれない。
「なっどういうことですか?」
「問答無用 ギルドマスター代理の権限によりこの場を強制査察します。」
言いながら額縁に手をかけて引きはがす。
べり。
うわー、結構なお値段がするのに。
「や、やめろ。」
「おっと、ギルドマスター代理の権限は、バカなあんたもわかってるだろ。」
巻き込まれてしまえばただでは済まないので、俺は親切心でムサの襟首をつかんでそっとその場を離れる。
「やめろ、やめてくれ、その壺は高かったんだ。」
「やはり、ここ。みんな同じ。」
額縁を引きはがせば隠し金庫。そのカギは壺の中。なんだって小ずるい儲けをしている奴はこんな隠し方をするんだろうか?
そしてサンダースよ。
二手に分かれて証拠を集める作戦を立てたのはお前じゃないの?
そんな破壊活動をするなら、最初から俺いらなかったよね?
サンダース「めんどくさい。」
ゼムド「お前が提案した作戦だよねー。」
サンダース「ぷい。」
ゼムド「可愛い子ぶるな、年を考えろ。」
サンダース「むか。」
ゼムド「ぎゃあああああ。」
キアリー「仲良しですねー。




