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32 拝金主義者 東を目指す。

次のダンジョンへと向かい道、トラブルなんてないさー

 大陸に置いてダンジョンは危険地帯であると同時に資源の鉱山であると言える。だからこそダンジョンを中心に集落や国ができる。逆にいえばダンジョンがない場所は自然任せなところが多い。山道なんてものはその最たるもので、むき出しの地面を旅人や獣が踏み固めたものがダラダラと続いている。

「思った以上に揺れませんねー。」

「まあ、いい車だからね。」

 ダンジョンを旅立って数日、次のダンジョンを目指すために俺たちは山道を進んでいた。天気こそいいが枯れ山の山道にはほかに旅人の姿は見えない。最短距離をとった俺たちに対して、一般的な旅人はこの山を迂回して次の街を目指すからだ。

「小型の馬車とかなら山にあるトンネルを抜けることもできるんだけどねー。」

「トンネルですか?」

「ああ、大昔に作られた遺跡の跡地らしいけど、山や海を貫く形で何本もトンネルがあるんだ。」

 そのルーツは分からないが、大陸の各所には不自然に整備された道や洞窟がある。大型の魔導車は通ることができないことが多いが魔物の姿もなく安全なルートとして重宝されている。

「拡張するなり、整備するなりされればいいのに、人間様達は非効率なことがお好きなようで。」

 座席中央でふわーとあくびをしながら小動物がそんな評価を下すが人間は魔族ほどリソースも技術もないんだよ。

「ビルドダンジョン出身としては、気になりますかエーフィさん。」

 キアリーさんがそう尋ねるとエーフィはそうですねと車内を見回す。

「この魔導車や道を見る限りだと、魔族と人間の考え方は根本的に違うように思います。我々は住処を居心地の良い場所にしようとします。一方で人間さんたちは、居心地の良い場所を探している。そのように思います。」

「なるほえどねえ。」

「まあ、魔族が引きこもりというだけですが。」

 さも当然のようにいるエーフィだが、彼は新しい旅仲間だ。「壊群」のダンジョンの攻略後しれっと車に乗り込み、自分も見聞を広めたいとのことで護衛を依頼された。

『人畜無害な小動物ですから。適当な置物だと思ってください。』

 とのことだが、魔導車の構造などについて質問攻めにしたり、こうして会話に加わったりしてくるだけで人畜無害な小動物を演じているわけだ。

「ちなみにですが、そのトンネルなどについてもっと詳しく聞いてもよろしいですか?」

 こんな感じだ。

「ここだと、月見のトンネルと言われている場所が有名だな。山の中腹と頂上、そして反対側を繋いだトンネルというか迷路があるんだ。」

「ほほう。」

「そんなに複雑ではないんだが、トンネルを抜けたあたりにストーンボールやムーンラビがでてくるからそこだけは警戒しないといけない。ただ魔物たちはトンネルの中には入ってこないのでお互いに縄張りに気を付けていれば安全に山を越えられるんだ。」

「へえ、ほかには?」

「そうだな、中腹と山頂でたまに、ライトストーンというダルもどきが拾えるぐらいだな。」

「ライトストーン、ああ軽石のことですね。」

 軽くて丈夫、それでいてダルのように光輝く石は装飾品や工業製品の材料となる。ほかの場所でも採取は可能だがそれなりに貴重な石で、拾えれば幸運になるという言い伝えもある。

「なるほどー、先ほどから時々感じる気配は、きっとそのライトストーンの塊なんですね。」

「えっなにそれ詳しく。」

「ざんねーん、山の奥ですから車では無理ですよー。」 

 ぐぬぬ、まあそこまで金になるものじゃないから寄り道するほどでもないけど。

「たぶん、そのトンネルダンジョンですねー。」

「はっ?」

 エーフィさん急にとんでもないこと言わないでほしいなあ。

「いやだって、拡張とかもできないし、道中に魔物がでるんですよね。おそらくダンジョンですよ、そのトンネル。」

「まじか、どこもかしこもダンジョンだな。」

 この世の不思議はダンジョン全部ダンジョンでいいんじゃないだろうか。

「しかし、納得だな。だから拡張も採掘もできないのか。」

「ですね、ダンジョンの壁をいじれるのはそのダンジョンの関係者かよほどに力の強い人じゃないと難しいですよ。だからこそ微細な調整のために爪やすりをお借りしていたぐらいですから。」

「なるほどねー、だがあまり聞きたくなかったな。」

 どんどん世の中の裏側に詳しくなっていくのが怖いんだが。

「まあまあ、知識は持っているだけなら無害なものですから。」

 そういって笑うエーフィもなかなかいい性格をしているらしい。

 

 車で超える山道は二日ほどかかる。月見のトンネル、もといダンジョンの場合もそのくらいかかる。が人の足と車の違いを考えれば距離の違いは明らかだろう。

 そして長いとそれだけトラブルが起こるわけで。

「あっ、前方に何匹かいますねー。」

 最初に気づいたのは探知力の高いキアリーさんだった。

「ああ、あれは ヘビか?」

「あれはストーンスネークゴーレムですよ。」

「知らん、何それ?」

 車の速度を緩めると道を塞ぐように数匹の蛇が戸愚呂を巻いて寛いでいるのがわかった。

「ストーンスネークゴーレムはその名の通り石で作られたゴーレムです。材料が豊富な山間部で運用されることが多いタイプのものです。」

 エーフィ曰く、ゴーレムらしいそれらは確かに質感が石そのものだった。そういった彫刻だと言われても納得できるそんな質感だ。

「美術品として金持ちが喜びそうだ。」

「実際、ダンジョンの調度品として採用している場所もあるらしいですよ。」

 そうなのとキアリーさんの方を見るが首を振られる。

「ちなみにですが警戒範囲にはいると攻撃してきますよ。」

「詳しいなーおい。」

 なら一旦車を止めて迎撃すべきなんだろうな。

「いえ、ここは加速して轢いてしまいましょう。大丈夫です、アレはだいぶ脆いですから。」

 だが、エーフィはそういって足元に潜り込んでアクセルを踏み込む。

「おいこら、やめろ。」

 とっさにハンドルを握り車の挙動を制御できたらいいが、一歩間違えれば大事故だ。

「あっ、ヘビさんが動きました。」

 あっさりと警戒範囲に入ってしまい後にも引けなくなった。あきらめて俺は更に車を加速させる。

「ちっ、覚えてろよ。」

「まあまあ、なんとでもなりますよ。」

 なぜか自信満々なエーフィだが、此方としてはひやひやものだ。魔導車は頑丈だが精密機械だ、少しの事故で動かなくなることもある。

「あれ、山賊はひいてませんでした?」

「あれは生もの、あっちは石だから。」

 万が一傷がついたら修理費は請求させてもらおう。

 だが、結果はエーフィの言う通りになった。

 ゴーレムらしく鳴き声もなく車に突進してきた蛇たちは、車と衝突すると同時に木っ端みじんになった。いや、まて今のってぶつかる前に砕けてなかったか?

「お見事です。」

「木端微塵ですから、再生にも時間がかかりそう―ですねー。」

 のほほんとした賞賛を受けながら車を止める。パット見た限りで車に支障はない。

「ねっだいじょう、ぐえ。」

 それを確認したうえで、誇らしげなエーフィの頭を力一杯握りしめる。

「おい、人畜無害な小動物。」

「はい、なんでしょう。あと痛いです。」

「俺の車に何をした。」

 衝突して砕けたならわかる。だが破片の一つも車にかかっていないのならそれは異常だ。

「はは、気づきましたか。実は護衛の代金の代わりに魔導車のほうを私のほうで改造させていただきまして、足回りやエンジンの性能を向上させました。ついでに簡易結界装置を搭載させたので、あのくらいの魔物なら無傷で倒せますよ。」

「そういうことは、先に言えええええええええ。」

 さらっと魔導車の価値が、エリートな傭兵レベルから国宝レベルになってるじゃないか。

「なんですか、いいじゃないですか。アッ御礼は結構ですよ。この車のシステムは実に興味深かったので。」

 わかっていないエーフィを殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいであったが、俺は手を離した。うん、認識の違いによる善意の暴力って厄介だよねー。

「つまり、今の蛇くらいだったら車を止める必要はないというわけだな。」

 切り替えよう。うん、タダで魔導車を整備してくれる道連れができたと思えばいんだ。それに、

「だったらもう少し速度を上げてみるか。」

「そうしましょう、おそらく3割マシでも大丈夫です。」

「ドキドキしますねー。」

 開き直ってしまえば、俺もワクワクしていた。安全とか負荷を考えて速度は抑えめだったけど、こんな道をかっ飛ばすのはさぞかし気分がいいだろう。

「飛ばすぜー。」

「「ヒャッハー。」」

 加速する景色。正直に言えばかなり楽しかった。


 なお道中で数度魔物をひき殺すことになったが、山を越えても愛車に支障はなかった。


メンツが増えてもやることは変わらない。

ライトストーンのイメージはアルミニウム

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