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29 拝金主義者 ダンジョンマスターに会う。

 ダンジョンクリアー

「これは、ひどい。」

「まさか一歩も入ることもなく攻略されるとは。哀れですね。」

「私、ダンジョンで負けるとしてもこんな目にはあいたくないです。」

 なぜか第7層に来ていた三人の身勝手な感想は無視して俺は周囲を確認する。

 足元が埋まるほど積もった何かの灰と黒焦げになってかろうじて形を保っている6本足の何か。

「あれって、コックローダーですか?」

「せや、少ない魔素で爆発的に増えるうえに、何でも食う悪食の魔物や。」

「ともかく数を増やすという目的で大量に発生させたのが馬鹿みたいに増えたんです。」

 キアリーさんの気づきに、マザーとエーフィが解説をする。

「フロアーからあふれ出るほどのコックローダーの群れによる物量で、開けた瞬間挑戦者は洪水に飲まれたみたいに流されるんや。」

「途中まではよかったんですが、気づいたら制御不可能なほどに。」

 結果としてダンジョンフロアーを封印し、立ち入らないと襲われない仕様になったらしい。たしか10年前も扉を開けときもコックローダーの壁がびっしりで立ち入るのもあきらめたほどだ。

「生産数を制御しようとか思わなかったのか?」

「うーーんそれはな、一度攻略されたときに、むきになってしまったんよ。」

 当時はそれほどの数で管理をしていたらしい。しかし、踏破されて怒り狂って地獄のようなありさまになったそうな。

「むきになったのはダンジョンマスターが?」

「いや、ここの主はあれや、奥の?」

 そういってマザーが足を向ける先、第七層の最奥の場所を見れば、灰が山のように積もっている。何か大きなものがそこにいたのだろう。

 ブルブル。

 と思ったら突然山が震えて灰が舞う。

「なんだ?」

「大丈夫ですよ、アレは直接の戦闘能力はないですから。」

 思わず武器を構えるが、エーフィ―さんがやんわりと止める。まあこの人達がいる時点でこのダンジョンは攻略したことになっているらしい。

「ブーーーー、我求。説明。」

「あなたは負けたんですよ、ミミック。」

 灰が晴れた先にいたのは大きな宝箱だった。ただ宝箱には足が生え、宝が入っているであろう中には鋭い牙が生えていた。

「ミミックゴーレムか?」

「はい、よくご存じで。」

 ミミックゴーレムとはダンジョンや洞窟の奥地で偶に見かけるレアモンスターだ。普段は宝箱に擬態しているが、その実態は魔素で動くゴーレムで宝箱と思って近づいた獲物を攻撃する。

「なるほど。そういうことか。」

 ミミックゴーレムにはその特性として、自身の体内に取り込んだものを増殖させるというものがある。

金貨を入れれば金貨が、水を入れれば水が。どういう原理なのかは知らないがそれはダンジョンなどでしか機能せず、捕獲して持ち帰っても効果はない。ミミックゴーレムは見つけたら、貴金属を入れて手出しはしないというのが傭兵たちの暗黙の了解だ。

 今回は、つまり。

「排出。限界。」

 そういってミミックの口からでてきたのは、大型のコックローダーの死体だった。どうやら殺虫剤で中のやつも倒せていたのだろう。

「そうやで、コックローダーの再生力とミミックゴーレムの増殖能力、それを使って無限増殖するモンスターハウスという当時的には画期的なものだったんですが。」

「困難欠陥や、ゴーレムは動けなくなるし、溢れないように第7層は隔離しないとあかんかったやで。」

 なぜこんなものを作ったんだ。

「そりゃ、お前。」

「できるかなって。」

「挑戦。大事。」

 懲りてないなこれ。

「いやーでも助かったで。強制廃棄は可能やったらしいけど、ミミックもおるし、何より自分らで処理するのはもったいないやん。」

「いやそこは廃棄しろよ。そんなんだから、攻略不可能ってレッテルが貼られるんだよ。」

「それは困りますねー。お客さんがいないのはダンジョンとしてはあれです。」

 と俺たちはあきれるが。

「別空間に保管しておいて、此方のタイミングで引き込む仕様はどうかね?」

「非効率。魔素、無駄。」

「二か所に分けてしまうとそれだけリソースがかかりますからねー。ここは魔物の種類を変えてみるべきかと。」

「せやかて、モンスターハウスは非効率なもんやろ、強い魔物にしたら今度は餌が足りんやろ。」

「根本、改善。」

 集まって何やら話し込んでいるダンジョン組。自分で壊すことはためらいがあるが、壊れたものに執着はしないらしい。

「新しい物が作れることが楽しくてしょうがないってかんじですねー。」

「だねー。よくわからんが、すごいやる気だ。」

 しばらくは帰ってこないだろう。

「まあ、ここのダンジョンはそういう人たちの集まりですから。」

「なるほどね、ここにきて納得だよ。」

 あらかじめ聞いていたことだが、ダンジョンは物好きな魔族の集まりらしい。

 例えば試練の塔は、強い相手と戦いたいという魔族が集まり、お互いに全力で戦える条件が整っているらし。たいしてここは、ダンジョンを作ることが好きな魔族たちの集まりということなんだろう。

「スクラップ&ビルド。一番変化がある活気的なダンジョンというのはこういうことなんですねー。」

「あんまり知りたくはなかったかな。」

 なんだか俗っぽくてなんとも言い難い。

 あれだよなーダンジョンってもっとこう過酷で、ロマンと危険がいっぱいな場所だったはずなんだけど。

「まあまあ、それだけゼムドさんが優秀ってことですよ。」

「そうなのかねー。」

「そうですよ、ダンジョンアタックの最速記録をたたき出しておいて、そんな態度ではこちらとしてもうかばれませんって。」

「そうだな、っておおおお。」

 びびった。

「失礼、ゼムド殿、キアリー殿。」

 いつの間にか背後にいた二足歩行するアリ。それは慇懃無礼に俺たちに礼をする。

「この度は、「壊群」のダンジョンの攻略おめでとうございます。そして、はじめまして、本ダンジョンのダンジョンマスターをしております、クイーンビルドアントの、ヒルデガルドと言います。以後お見知りおきを。」

「ははは、これは光栄だな。」

 うん、なめていた自分を反省しよう。目の前に立つ礼儀正しい魔族の姿に俺はそう思いなおす。

 ダンジョンはやはり化け物の巣窟でしかない。

 

 これだけのことをしてもダンジョンマスターは怒りません。というか感謝されてます。

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