21 拝金主義者 ダンジョンからの使者に出会う。
もうちょっとだけ潜る前の話です。
美味しい食事に楽しい会話。一人ではなかなか味わえない贅沢な時間を過ごしているときに俺はふと思い出した。
「そういえば、「壊群」いやキアリーさん的にはビルドダンジョンだっけ?今回はそこに貸してあるアイテムを引き取るのが依頼でいいんだよね。」
「ああ、そういえばそうでした。すっかりダンジョンを攻略する話になってましたねー。」
もともとは「試練の塔」のダンジョンマスターからの依頼でキアリーさんをダンジョンまで護衛するのが俺の仕事だ。だから、ダンジョンを攻略する必要はないことを今更思い出したんだ。
「恐らくですけどー、そろそろ向こうから接触があると思います。」
「なるほど。」
魔族には魔族のルールというものがあるらしい。ということは待つしかないというわけだけど。
「そういうことですよ、ゼムド殿。だから攻撃しないでくださいね。」
「うん?」
そんなタイミングでそいつは俺たちのテーブルに現れた。
「あらー、お久しぶりです。何年ぶりでしょうか?」
「何十年じゃないですか、キアリー様。覚えていてくれて光栄です。改めまして「壊群」ダンジョンのエーフィ―と言います。いごお見知りおきを。」
「ああ、よろしく。」
すごく丁寧な口調で話すそれに驚きつつ俺は挨拶を返した。そして、
「インテリジェンスラビット、いやカーバンクルか?」
「後者です。自衛のために宝玉は隠させていただいていますが。」
テーブルに立っているそれは、エメラルドカラーのウサギだった。ただ普通のウサギよりもシュッとしてスタイリッシュでネコのようなイメージがある。だがウサギ特有の長い耳と赤く光る瞳がウサギであることを主張していた。
ダンジョンラビットやフォレストラビットのようにウサギ系の魔物は種類が多い。そんな中でも高い知性で言語を理解したり魔法を使ったりする上位のウサギをインテリジェンスラビットという。そしてその中に稀に高い魔力のこもった宝玉を額に宿すレアーなラビットをカーバンクルという。
「なるぼど、カーバンクルがダンジョンの管理をしているというのなら、納得だな。」
「ふふ、どうやらゼムド殿は見識が高いお方のようだ。まあダンジョンマスターが依頼をなさるほどの人ですから当然といえば当然ですけどね。」
話のわかる魔族らしい。カーバンクルといえばレア中のレアな魔族で姿を見れば幸運になれるとも言われているし、額の宝形を持てば寿命が延びるとまで噂されている。もっともこの愛くるしい見た目に騙された愚か者の運命は教訓になるほどだが。
「エーフィさん、こんなところに来て大丈夫なんですか?」
「はい、この宿の主人とは知己ですので。」
えっへんというエーフィだが言葉通り、宿の主人を含めた他の客もエーフィの存在に注目していない。いやあえて無視してくれているといったところだろう。一見お断りの理由がこれだったのか。俺の知らないところでダンジョンと人間はつながっていたらしい。
「で、エーフィさん。あんたがダンジョンへ案内してくれるってことでいいのか?」
キアリーさんがダンジョンに入るのは従業員用の入り口らしい。だからダンジョンを安全に見学できるという特典がこの依頼にはあった。
「ああ、その話ですね。はい、キアリー様がそれを望まれるのでしたら、明日一番にご案内できるのですが・・・。」
どこか言いずらそうそうにエーフィさんが顔を下に向ける。ただあれだ顔を洗っているネコに見えて微笑ましい。
「実のところ、ダンジョンマスターからですね、ゼムド様とキアリー様にご依頼をお伝えに来たんですよ。」
「依頼?」
ダンジョンマスターからの依頼となれば、それはまた。
「ゼムド様、よろしければ、「壊群」のダンジョンの踏破にチャレンジしていただけないでしょうか?」
「予想の斜め上だな。」
てっきり何か面倒なことかと思ったら。
「はい、実のところ、ここ何十年の間「壊群」のダンジョンの踏破者は現れていません。というか5大ダンジョンのほとんどがそうです。」
「難攻不落という意味ではいいダンジョンだと思うけど。」
「それは、人間さんの都合ですよ、ゼムド様。」
エーフィさんは耳をピンと立てて俺の言葉を否定しした。
「ダンジョンは難攻不落、それは大変すばらしいのです。ですが、コスパゆえに攻略を断念させるのは違うのです。互いに死力を尽くして防衛と攻略を行い、その上で進化していく。それこそがダンジョンのあるべき姿なんです。」
「そうなの?」
「間違ってはいませんね。」
キアリーさんに水を向ければやんわりと返される。どうやらか会話は俺任せということらしい。
「まあ、たしかに「壊群」が昔おれが挑戦したときと同じなら。コスパの問題だよなー。」
「そこなんです。さすがゼムド様、うちの事情をご存知で。」
「事情っていうか第7層のことじゃないのか?あの無理ゲー。」
あそこは、ソロだとかなりめんどくさい。
「めんどくさい、そうゼムド様ならめんどくさいで済むんですよね、あそこも。」
鬼気迫る(それども愛らしい)顔で詰め寄るエーフィ―さん。
「ぶちゃけまして、ダンジョン一同あの階層はやりすぎだと思っているんですよ。過去に一度しか踏破してもらえないどころか、最近では踏み入れる挑戦者もいないんです。あれです、若気の至りと深夜テンションでこれだけやったら最強ですみたいなノリで造られたのものんだので、私たちとしては黒歴史いや今すぐにでも解体して作り直したいんです。」
「そうすればいいのでは?_」
「それはそれ、これはこれなんです。せっかく作ったからもったいないんです。自分たちだとどうしても。」
なるほど、たしかにあの階層はそういう階層である。コストはすごいかかってそう。
「だからこそです。ゼムド様、経費はこちらで持ちますので、あの階層をもうこれでもかってくらいぼこぼこに攻略していただけないでしょうか?」
「へえ、知ってるんだ。」
第七階層の攻略法というのは、実は考えられている。だがそのコストがバカにならないので収支が合わずに誰もやりたがらない。仮に達成しても名誉は薄い。それゆえに「壊群」のダンジョンの評価は低いのだ。うん、実用性という意味では一番なんだけどね。
「はい、ゼムド様が想定している方法で構いません。経費は請求してた抱いて構いません。あとは、ダンジョンを正面から攻略していただいて感想をいただければ。」
「いわゆるテストプレイってやつですね。難易度調整をしてリフォームするんですか。」
「はい、この機会を逃してはならないとダンジョンマスターもお考えです。」
なんだか急に親近感を感じるな―。だが忘れてはいけないことだけど。
「でも命懸けなんでしょう。」
「報酬のために命を惜しむので?」
「いうねー。」
そんなことを言われたら俺もほんきになっちゃうぞ。
「たぶん、かなり掛かるぞ。少なくともこれぐらい。」
そっとエーフィ―さんに今考えている経費を耳打ちする。
「なるほど、その倍ぐらいまでは大丈夫です。ゼムドさまのスキルと合わせて必要と思われるものはすべて保証いたします。」
「乗った。」
ここまで言われて引き下がるのは傭兵ではない。とんでもない金額だけどダンジョンマスターならはした金らしい。
「とりあえず、手持ちでどうにかなると思うから、あとで請求させてもらう。あれだ、ピンハネなんてしないから信用してくれ。」
「はい、こうして話してみてもゼムド殿は信用に値します。」
すっと出された前足と握手を交わし、契約は完了する。書面?そんなの信用でいいんだよ。
こうして、俺たちは「壊群」のダンジョンへ正面から挑むことが決まったのだった。
いよいよダンジョンアタック。




