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2 拝金主義者 雇われる

 主人公のスキル発表

 目を覚ましたときに最初に襲ってきたのはどぶのようなにおいだった。長いこと処理していない下水を圧縮したような目にも来る激臭だ。

「ぺっ、最悪。」

 どうやら落とし穴は最下層の下水施設に堕としてくれたらしい。即死系とかスライム系じゃなかっただけましだが状況は最悪だ。わき腹の傷は痛むしこんな環境では悪化して命に係わる。まあそれなりの高さから落ちて命があっただけでも黒字だ。

 ともあれしびれのせいでまともに動くこともかなわない。このままだとネズミか何かの餌食になるか壊死するかしないわけだ。せめて甲虫人との戦いで使い切ったアイテムが何かしらあればなんとかなるかもしれないが。

「あのー、大丈夫ですか。」

 そんなことを思っていると上から声が降ってきた。

「大丈夫にみえるか?」

「みえませんーねー。」

 何とか首を動かして上を見上げればメンテナンス用に設置されたと思われるキャットウォークから俺を覗き込んでいる少女がいた。やや褐色気味の肌に緑の髪、コケティッシュな可愛らしい顔をしているが、眉間にしわがよっている。彼女からしてもここの匂いは耐え難いものがあるらしい。

「あんた、ダンジョンマスターか?」

「いいえ、残念ながらただの下っ端です。」

「そうだろうね。」

 ダンジョンにはダンジョンマスターという管理者がいる。モンスターや宝箱の配置、マナーの悪い挑戦者を駆除する権限を持っていて、この状況で出会えたならヨワール達のルール違反を伝えてグッドエンドなのだけれども。そうはいかないらしい。

「あっ、私、キアリーと言います。」

「・・・ゼムドだ。」

 自己紹介は大事だ。だがこの状況ですることだろうか?

「なあ、あんた。」

 ただ光明は見えた。

「金持ってないか?」

 ヘルムの下で俺はにんまりと笑って訪ねた。

「ええと、欠片ダルしかないですけどいいですか?」

「ああ、もしよかったらそれを貸してくれ、うまくいったら百倍にして返す。」

 欠片ダルというのはクズダルと言われているダルのかけらだ。価値は10ダルにもならない。だが無一文の今の俺には白ダルよりも価値がある。

「ええっとかまわないんですけど。これ私のお小遣いなんですよ。」

「だったら、それでおれを雇ってくれ、今なら格安でなんでもしてやる。」

 おっとそろそろ意識がやばい。こんなことを言うほど弱気になっている。

「ううーん、あと私レプラコーンですよ。」

「それは知ってる。」

 彼女の髪の色とこんなところにいる時点で、彼女が人間じゃなく魔族であることなんてことはわかりきっている。

「うん、どのみち回収するように言われてますし、できたら自分でそこからでれますか?」

「ああ、それをくれたらな、そのままこっちに落としてくれ。」

 ほんの僅かでもダルがあれば、今はどうとでもなる。ならば相手がクズでも魔族でもレプラコーンでも俺は喜んで頭を下げよう。そしてヨワールのくそ野郎から取り立てる。

「わかりまーしたー。じゃあそこから自分ででてきてくださいねー。」

 疑うこともなくキアリーは手にしていた欠片ダルを俺に向かって落とす。

「はは、恩に着る。絶対に黒字にしてやるからな。」

 落ちてくるダルに歓喜する。

 そして「スキル」を発動させる。

『スキル「金利」の発動を確認しました、御用件をお申し付けください。』

「引き落としと両替だ。身体を癒してくれ。」

『了解です、現状の状態からの復帰は30万ダルを消費しますが、構いませんか?」

「ああ、預金は十分だろ。」

『はい、現在の預金は40万ダルです。本取引後の預金残高は10万となります。」

「頼む。」

 システムメッセージとの短いやり取りを終えると俺の身体が金色に輝き、次の瞬間には体の不調はうそのようになくなり俺は立ち上がる。

「おお、それがゼムドさんのスキルですか?」

「ああ、燃費が悪いし隙が大きいからあまり使いたくないんだけどな。」

 スキル「金利」は習得したダルを保管したり、引き出したりすることができる。大金を安全に持ち運ぶこともできるし、今のような回復効果やブーストなどの効果という形でダルを消費することができる。だが、保管する場合はダル限定なうえに、発動するたびに法外なダルが必要となる。我ながらメンドクサイスキルだし、俺が拝金主義になっているのもこのスキルの影響が大きい。

「でもまあ、よかったです。正直そこに入るのはあれだったので。」

 うん、すごくわかるわ。でも助かったのでよし。すっかり復調した身体の調子の確認をしながらキャットウォークへと這い上がる。だが、少女は微妙に距離を置いて俺を待っていた。

「ええっとキアリーさんだったか。」

「ああ、あれです、正直ゼムドさん匂いがきついですよ。」

「すまん。」

 こればかりはどうしようもない。匂いまで取り除いていたらいくら掛かるかわからないからだ。

「まあいいや、とりあえず行くか。」

 気を取り直して俺はキャットウォークの出口を目指して歩き出す。そう今頃ダンジョンの最奥でいきり散らしているヨワールのクズをぼこぼこにするためにだ。

「あっそっちじゃなくて、こっちの方が早いですよ。」

 キアリーさんの指摘にユータンしたのでかっこがつかない。

 さて次回は逆襲回です。

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