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17 拝金主義者 すっとぼける。

キョーエイ国へいざ入国。

「さて、どうなることやら。」

 いつもより少し物々しい気配を感じ取りながらハンドルを切って、誘導に従う。

 関所と言っても基本的には顔パスなところが多い。車持ちの傭兵となればそれだけでそこそこの実力者で、なんらかの依頼を受けている可能性が高い。だからこそ必要以上に足止めして依頼主や傭兵の機嫌を損ねるなんてことがないように証明書やらも発行されるし、必要以上に追求はされないはずである。

「身分証をお願いします。」

「はいよ、あと通行証も。」

 検問にいる衛兵さんに、身分証とギルド発行の通行証を見せる。これはリーからの迷惑料替わりに発行してもらった特別依頼中であることを示すもので、これを下手にちょっかいをだせば傭兵ギルドを敵に回すことになる。という非常に便利な書類だ。

「なるほど、そうか。あんた凄腕なんだな。」

「凄腕はどうかは知らないが信用はあるほうだと自負している。」

 通行証に驚いたがすぐに持ち直した衛兵さんは俺を見返して尋ねる。

「そうか、通行証も身分証も本物のようだけど、正直。」

 身分証を返すために車に近寄った衛兵さんは、そっと

「今はこの国に入ることをお勧めしないよ。というかこの関所も通るなら二日ばかしまったほうがいい?」

「トラブルか?」

「ああ、メンドクサイのが関所で陣取ってるんだ。今日にも引き上げるって話だけど、何日も居座れて居心地が悪いってことないよ。」

 わざわざ小声で伝えたということは、中には伝わっていないということ。今なら引き返せるといったところだろう。

「おい、貴様。そこで何をしている。」

「しまった、悪いな兄ちゃん。」

「いいや、忠告感謝するよ。」

 と思っていたら、問題のタネらしきだみ声が検問所に響く。

「こ、これはミカーケ王子。通行所の確認をしていたところであります。はい。」

 衛兵さんが気を付けの姿勢で事情を説明していると、小太りの男が数名の部下を引きつれて俺の車によってきた。

「ふん、どうせこっそり賄賂でももらって違法なものでも通そうとしたんだろ。全く油断も隙もない。」

 ふんふん、うるせえなあこの豚。うん、フラグだよなーこれ。

「い、いえ書類は正式なものです。確認なされますか。」

「きさま、俺の言うことに歯向かうのか。」

「し、失礼しました。」

 いやそこは歯向かえよ、衛兵さん。ホントこの国は王家に甘いなー。

「ゼムドさん、この人って。」

「ああ、さっき話したバカ王子の1人。」

 衛兵に夢中な王子の様子に夢中な隙にキアリーさんは俺に訪ねてきたがその通りだった。無駄に美化された絵姿が出回ってるから顔だけは知られている。

「づん、で、貴様があれか、ふん、傭兵にしてはずいぶんと立派なものに乗っているんだな。ずいぶんと阿漕に稼いでいるようだ。これだから下賤な輩は。」

 おお、喧嘩なら買うぞ。

「ゼムドさん、落ち着いてください。」

 おっと失礼、一応お忍びだからおとなしくしないと。

「で、何のようだ。こっちはきちんと身分証も通行証もあるんだけどな。」

 受け取ったままになっていたそれらをひらひらと見せれば、部下らしき連中は書類の見た目からそれがただものではないこと気づいたらしく、目に見えて怯む、どうやらバカではないらしい。

「なんだ、そんな紙切れで、俺を誰だと思っている。」

「キョーエイ国の王子の1人、ミカーケだろ。ヨワールよりはまともそうじゃないか。」

「なっ貴様。」

 車から降りて俺は見下ろすとミカーケは黙る。ご立派な部下も衛兵も俺から見れば見下ろすような体格差だ。少なくともヨワールのように考えなしに噛みつくようなバカではないらしい。

「今の依頼とは関係ないが、ヨワールのバカのバカな依頼を受けた傭兵の1人だ。だからヨワールの顛末も知っているし、やつが王位継承権がなくなるってことも知っている。」

「そ、そうなのか、あの野郎!」

 無礼も恐怖も何もかも忘れてミカーケは下品な顔で俺に訪ねる。

「ふん、つまりあれか、あいつの試練の塔攻略は失敗したのか。」

「ああ、大失敗、今頃ゴブリン便で送り返されているはずだぞ。」

「はははは。こいつは傑作だ。」

 ミカーケはどこまで下品にゲラゲラと笑う。笑い方はヨワールに似ているなー、見た目豚だけど。

「朗報だ、これ以上ないほどの朗報だぞ。傭兵、よくやった、よく知らせてくれた。」

 がはははとうるさいなー、あと肩を叩こうとしようとして届かなくて腰をたたくんじゃないよ。

「あいつはな、ヨワールはな、ちょっとばかし身体がいいからって、それを自慢することしかでかないぼんくらだったんだ。だから試練の塔の攻略なんて誇大妄想を喧伝して、人気取りをしていたからな。結局は傭兵だよりの修学旅行にもならなかったってことだな。」

「そうだな、ダンジョンではあいつも取り巻きもボスにびびって何もできなくて、傭兵が攻略するのを隅っこで見ているだけだった。」

 あいつがどうしようもない雑魚だったこと、そこだけは同意しよう。

「いいぞ、いいぞ。これであんな当てにならない雑魚の帰りを待ってなくていいってことだ。ふん、お前ら引き返すぞ。すぐにでもかえってヨワールの泣きっ面を見に行くぞ。」

 そして来た時とどうように、ドタドタとうるさい足音を立ててミカーケは去っていく。

「何がしたかったんだ?あいつは?」

「さあな、お偉いさんの考えることはわからん。」

 残された俺は衛兵さんと揃って肩をすくめた。まあ、深く絡まれなかったから良しとしよう。

「ところで、アレは何日くらいかかる?」

「一日置いておけば大丈夫だろう。何なら宿舎もあるだ。」

「頼む、払いはケチらない。」

 後追いして無駄に絡まれることを避けるために、俺は関所に一泊することを決めるのであった。



 すっとぼけるのはネコババとも言えるし、ばれなければ犯罪じゃないのです。

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