13 拝金主義者 森をいく。
ささっと旅にでる。
セカンドの街で準備を整えること数日。街を出発した俺たちは次の目的地であるキョーエイ国を目指して旅を再開した。
「うんうん、木がたくさんというんも新鮮ですねー。」
「試練の塔のあたりは荒野だからね。」
のんびりと車を走らせながら森の中を進む。キアリーさんにとっては人間も木もともかくたくさんあることが珍しいのだろう。飽きずに窓の外を見ている。
「通称セカンドの森。セカンドの街とキョーエイ国の国境の代わりの大森林だけど、こうして道を進む分には危険はない。」
声には出さないが道は森の比較的安全なルートを開拓してできた道なのでやや遠回り。急ぐ場合は森を突っ切ることになるがそこまでするメリットはない。
「住み分けができているというのはうらやましいですねー。」
「まあ、大物の縄張りに好き好んでいくやつはいないだろうね。」
実際森の奥は魔族の領域であり、マンイーターと呼ばれる魔物の群れが巣くっている。その素材を求めて踏み入る傭兵がいないでもないが稼ぎとしては微妙だ。
「銛の実りはそれほど深くに入らなくても獲れるし、何より旨味を求めるならほかにいったほうがいい。セカンドの街や森周辺の集落の人間の生活の糧以上は手つかずな自然だね。」
それこそ人通りはあるので道は整備されている。そして森の獣や魔物たちもわざわざ街道まで来て獲物を狙わなくても十分に実りがあるので危険は冒さない。実によくできたバランスだ。
「まあ、例外はあるけどね。フォレストベアで一攫千金を狙うやつなんかは森を騒がせてることがある。」
「フォレストベアーですか?」
「ああ、あいつらは金になるんだ。」
フォレストベアというのはこの森特有の魔物で、まず肉がうまい。毛皮の質もいいし何より内臓が薬になる。その分大型で狂暴なのでハイリスクハイリターンな獲物。それこそ「愚か者のクマ狙い」なんて言葉があるくらいだ。
と思っていたら急に道に集団が飛び込んできた。
「なんだー。」
イライラしつつもブレーキをかけて車を止める。引いても大丈夫だけどさすがにね。
「どうしたんでしょう、傷だらけですね?」
「大方、魔物から逃げてきたんだろ。素人め。」
見た限り傭兵と思える3人はボロボロでその手に武器はなかった。
「お、おい、助けてくれ、その車に乗せてくれ。」
「に、逃げないと、奴が、奴が。」
目ざとく俺の姿に気づいて走り寄ってくる傭兵たちだが俺は躊躇なく足蹴にする。
「汚い手で触るな。それだけ元気なら自力で逃げろ。」
その言葉に愕然とする傭兵たちだが俺からすれば、最低のマナーである。
「トレインの可能性があるならまずは詳細を話せ。それくらいはできるだろ。」
そう、魔物と遭遇して逃げる場合。一旦は人里を避けるのはマナーだ。逃げ込んだ先に魔物を引き込んだり、他の傭兵に擦り付ける行為はトレインと言われ、それを行った傭兵の信用は失墜する。
その上で、車に乗せろだとほざく、どれだけ厚顔なんだ。
「ふぉ、フォレストクラウンベアーがでたんだ。早く逃げなないとまずいんだ。」
「そ、そうだ、あんただって逃げたほうがいい。だから乗せてくれ。」
まだいうか、クズども。口々に何かいう傭兵三人にむかつきつつ俺は再度足蹴にする。
「だまれ、クズ。大方味方も見捨てただろ。」
「なっ。」
都合のいいことしか言わない。実力も頼りない。それなのにこんな森の深くにいる。駆け出しの傭兵か、それともただの雑魚なのか。見ていてむかむかする。
「キアリーさん、鍵はかけたね。」
車の中にいるキアリーさんにそう声をかければ、大きく丸を作って合図をくれる。うん、こういう理解の早さにはほっこりするなー。それにポーズも可愛い。
「な、見捨てるのかお前。」
「あとでギルドに訴えてやる。」
まだ何か言っている傭兵たちは無視して俺はアイテム袋から愛用の大剣を取り出す。さすがに森を進むということで今は鎧もフル装備。
「おお、来るねー。」
傭兵のことはもうどうでもいい。それよりも木の向こうから伝わってくる大物気配に俺は舌なめずりをする。スキルを使うまでもなく経験で、相手は大物であることは分かる。
「ぐああああああああ。」
ほどなくして傭兵たちの来た方向から木々をなぎ倒しながら巨大なクマが現れる。
「おいおい、マジでクラウンじゃないか。」
大きさだけなら俺の魔導車よりも大きいかもしれない巨大なクマ。やや黄身がかった毛皮に鋭い爪、そして特徴的なのは頭部の盛り上がったトサカだろう。まるで王冠のように発達したそれは、フォレストベアーのオスが成熟した証。フォレストクラウンベアーと呼ばれる森のヌシの象徴だ。
「や、やべえ、助けてくれ。」
「あけろ、あけてくれ。」
「だめだ、おしまいだ。」
背後では傭兵たちが魔導車の陰に隠れて何か言っている。まあ一般的にフォレストベアは合えば命をあきらめろと言われている。傭兵にしてもクラウンに出会った場合はすべての装備を捨てて注意をそらして逃げろと習う。なおかつ人のいる方向には逃げずに森の奥に逃げて被害を抑えろとも。
「まあ、関係ないけどな。」
ためらいなどない。たかが大きな熊だ。
無造作に振るわれた大剣に対してクラウンベアーは右手の爪を突き出して迎撃しようとする。その爪はおろか毛皮ですら生半可な武器では傷一つつかない。
「だからこそ、爪が金になる。」
あっさりと爪を切り捨てて、懐に潜り込む。
「ぐあ?」
野生の強者であるクラウンベアーにとって人間はただの獲物である。だからこそ爪を切り捨てられたことに驚き動きが止まる。それは戦いにおいては致命的な隙だ。
「残念。」
スパンと首を切り落としたとき、クラウンベアーは己の死を理解していなかった。
ばたん。
大きな音を立てて倒れるクラウンベアーから素早く離れて俺は一息つく。
「や、やったぞ。」
「す、すげえ。」
「お前ら、そこから動いたら殺す。獲物に触っても殺す。車に何かしても殺す。わかったな。」
歓声を上げそうな傭兵たちに素早く釘をさす。
「す、すいません。」
「騒ぐな。」
うるさくされて、せっかくの獲物が逃げたらどうしてくれるんだ。
「ぎゃああああああああああああ。」
と思っていたら向こうから来てくれた。
「いいね、ぼろもうけだ。」
クラウンベアーを見たら逃げろと言われている理由。それは必ず番であることだ。
「クイーンベアーもいるとはついてる。」
フォレストベアーが成長し、番になって親になる。するとオスは王冠のようなトサカができ、メスの方は体格が大きくなり、厚くなった毛皮がケープのように見える。そしてオスよりも狂暴で頑丈。
「そして金になる。」
目の前の化け物にぶるぶると傭兵たちが震えるが。俺にとっては獲物でしかない。
「ははは、こいつはいい臨時収入だ。」
本来ならば道に出てくることはない。バカな旅人や傭兵がちょっかいを出したあとに逃げ込んでこなければ出会うこともない。
広い森の中を探すほどではないが、出会ったならば番ごと狩る。腕のある傭兵ならば臨時収入でしかない。
「ぎゃ?」
番の死体と己を獲物としかみていない人間。それに驚くクイーンベアーの寿命が短かった。
銛には危険がいっぱいだ。でも一番危ないのはゼムドさん




