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消えた女子生徒のうわさ

作者: ウォーカー
掲載日:2024/07/28

 怖がりな女子中学生がいた。

その女子中学生はいつもビクビクしていて、

ちょっとした物音にも飛び上がるほど。

その理由は、幽霊だの怪奇現象だのというものが大の苦手だったから。

背後に感じるこの気配は、幽霊のものでは。

原因不明のこの物音は、ポルターガイスト現象なのでは。

いつもそんなことを考えているせいで、気が休まる間もない。

幸い、成績は良かったので、進学先に困ることは無いのだが、

このまま進学した後もビクビクと過ごしていたくない。

懸命の願いで、その女子中学生は進学先選びに苦慮していた。


 今日もその女子中学生は、進学先の候補である、

ある高校の学校見学に来ていた。

大事な進学先だから、前もって実際の学校を見ておきたい、

というのは表向きの理由。

本当の理由は、学校に幽霊や怪奇現象の類が無いか確認するため。

学校といえば七不思議などの怪談やうわさはつきもの。

それを確認するには、在校生に聞くのが最も確実で手っ取り早い。

だから今日もその女子中学生は、見学に来た学校の生徒たちを相手に、

聞き取り調査をしていた。

「あのう、すみません。

 こちらの学校に、幽霊とか怪奇現象のうわさってありませんか?」

「幽霊?そういえば体育館のトイレに、

 幽霊の花子さんが出るってうわさがあるなぁ。」

「そうですか、ありがとうございます。」

この学校は幽霊のうわさがある。進学先として不適当。

その女子中学生は手帳にメモを取って、次の学校へ向かう。

次の学校は、比較的、校舎が新しい学校だった。

学校見学を装い校内に侵入し、適当な生徒を捕まえて話しかける。

「こんにちは。学校見学で来ました。

 こちらの学校では、何か珍しいうわさとかはありませんか?」

すると話しかけられた女子生徒は、顎に指を当てて上を見た。

「珍しいうわさ?芸能人とか、そういう人はいないと思うよ。」

「えっと、そういうのじゃなくて、例えば幽霊とか・・・」

「ああ、そういう話。

 それだったら、誰もいない音楽室のピアノが鳴るって噂があるね。

 それがどうかした?」

「あっ、いえ、一応聞いてみただけです。」

微笑んで返しながら、その女子中学生は手帳に、

この学校も進学先として不適当の烙印を押した。


 そんな様子で、その女子中学生は、学校と勉強の傍ら、

学校見学の名目で、学校に伝わる幽霊や怪奇現象のうわさを調べていった。

探しているのは、幽霊や怪奇現象のうわさが全く無い、安全な学校。

しかし学校といえば、幽霊や怪奇現象の類はつきもの。

うわさというものは、些細な出来事からでも作り出されていく。

その女子中学生はいくつもいくつも学校見学をするのだが、

その度に出てくるのは、聞きたくもない幽霊や怪奇現象のうわさだった。

「うちの学校にはね、歴代の校長先生の肖像画があるんだけど、

 それが夜になると、こっちをギョロッと見つめてくるって、

 うわさがあるんだよ。」

「幽霊のうわさ?近所で亡くなったお婆さんの幽霊が、

 授業中の教室の窓から顔を出して覗いてるってうわさがあるんだよ。」

出るわ出るわ、学校の怪談、うわさ話の数々。

その女子中学生は、幽霊や怪奇現象が怖くて調査をしているのに、

これでは返って自分から、

その苦手なものに首を突っ込んでいるようなものだった。

「あー、もう!こんな話、聞きたくない!

 こんなことをしていたら、返って幽霊を呼び寄せちゃう。

 でも、学校に入学してから、怖いうわさを聞いても手遅れだし・・・。

 頑張って、次の学校に行ってみよう。」

そうしてその女子中学生は自分自身を奮い立たせ、次の学校に向かった。


 次にその女子中学生がたどり着いたのは、古い学校だった。

校舎は見るからに古くボロボロの木造の建物。

生徒たちが着ている制服は古いデザインで色彩も乏しかった。

「こんな学校、どう考えても幽霊のうわさがあるに決まってるよね。

 怖そうだから、ここは調べなくてもいいか。」

学校の外見で不適当と結論付けようとした時、

その女子中学生に気が付いた生徒の一人が話しかけてきた。

「君、もしかして学校見学に来たの?」

「あっ、はい。そうなんですけど・・・。」

「それなら、君は制服を着ているから、自由に入って構わないよ。

 うちの学校はいつでも学校見学を受け付けてるからね。

 中学の制服を着ていれば、特に届け出もいらないはずだよ。

 生徒に気軽に来てもらいたいって学校の方針なんだ。

 よければ案内してあげるよ。」

「そ、そうなんですか。

 それじゃあ、お言葉に甘えて、見学させてもらいます・・・」

今更、断るわけにも行かず、その女子中学生は流されるままに、

その古い学校の学校見学をすることになった。

建付けの悪い玄関の扉を開くと、中には古い建物のすえた臭いがした。

先程の生徒が先導しながら話をしてくれている。

「この学校はね、校舎は古いけど、あえて修繕は最小限にしてるんだ。

 柱の傷一つでも、生徒が残したものは学校の歴史の一部だってね。

 部活動や課外活動の記録も、たくさん残ってるんだよ。」

話の流れがうわさ話について聞きやすくなったところで、

その女子中学生は本題を切り出した。

「そんな歴史がある学校なら、うわさもたくさんありそうですね。

 例えば、幽霊とか怪奇現象のうわさとか・・・。」

すると案内している生徒は、意外そうな顔で答えた。

「幽霊や怪奇現象のうわさ?そういうのは聞かないなぁ。

 僕はこの学校の生徒会に所属してるから、

 学校内のうわさなら大抵のことは知っているつもりだけど。」

幽霊や怪奇現象のうわさが無い。

待ちに待った答えに、その女子中学生は飛びついた。

「本当ですか!?

 トイレの花子さんのうわさも、ひとりでに鳴るピアノのうわさも、

 幽霊や怪奇現象のうわさはない!?」

「あ、ああ。僕は聞いたことがないよ。

 君、急にどうしたんだい?」

「いいえ、いいんです。こちらの事情です。

 この学校、素敵だと思います!」

「そ、そうかい?気に入ってもらえたのなら嬉しいよ。」

驚いて苦笑いを浮かべる生徒に、

その女子中学生は喜びにキラキラと目を輝かせて、

食いつくように手を握っていた。

こうして、その女子中学生の進学先は、既に決まったようなものだった。


 月日は過ぎて、厳しい受験の冬がやって来て、春になって。

あの女子中学生は、見事、志望校の入学試験に合格。高校生となった。

古いけれども、幽霊や怪奇現象のうわさがないというあの古い学校に、

新入生として通うことになった。

桜の花びらが舞い散る下、歴史ある古い校門をくぐった。

新入生の歓迎と諸々の手続きは終わり、間もなく授業が始まった。

あの女子中学生だった女子高校生にとって、

その高校の授業は難しくもあるが有意義な時間だった。

同じクラスで友人もできて、恵まれた高校生活のスタートだった。

しかし、その女子高校生には、気になることがあった。

この学校にいると、いつも誰かに見られてる気がする。

どこかから、正体不明の物音が頻繁に聞こえてくる。

事前の学校見学で、この学校に幽霊や怪奇現象のうわさがないのは調査済み。

だから、これらの現象は全て気の所為、そのはず。

頭ではわかっているのだが、しかし体が反応するのを止めることはできない。

その女子高校生はやがて、またビクビクと怯える生活を送っていた。

どうにもおかしい。

そう思って他の生徒に尋ねてみたのだが。

「幽霊や怪奇現象のうわさ?そんなの聞かないよ。」

「何か怖いうわさを知らないかって?

 わたしは知らないなぁ。」

「物音がする?そりゃあ古い校舎だからね。

 床や壁がきしんだりもするだろう。」

誰に尋ねても、答えは変わらない。

おかしなことは何もない、ということだった。

やはり自分の気の所為なのだろうか。

その答え合わせは、前触れもなく突然やってきた。


 ある日、その女子高校生は、授業の合間にトイレに入った。

何気なく、トイレの個室のドアを開けて、そして見てしまった。

便器の中から、真っ白な腕が伸びている。

「紙をくれぇ~。紙をくれぇ~。」

便器の中からは、恨みがましい声が聞こえる。

そんな声をかき消すように、その女子高校生は悲鳴を上げた。

「きゃあああああああ!お化け!」

悲鳴に負けんばかりの勢いで、その女子高校生はトイレを飛び出した。

「助けて!誰か!」

こんな時に限って、廊下には誰もいない。

教室に戻るが、次は移動教室なのでやはり誰もいない。

いや、いた。

その女子高校生の席に、見知らぬ生徒が座っている。

「助けて!トイレに幽霊が・・・」

そう話しかけて、その女子高校生は気が付いた。

席に座っている生徒の体が透けている。向こう側が見えている。

ゆっくりと振り返るその顔はのっぺらぼう。

「いやあああああ!」

全てを確認する前に、その女子高校生は教室から逃げ出した。

こんな時に限って他のクラスも移動教室なのか人の姿がない。

いや、人ではない何かの姿はあるのだが、確認する気にもならない。

その女子高校生は、震える足腰で必死に駆け回り、

次の授業の場所である音楽室にたどり着いた。

「あら?そんなに慌ててどうしたの?」

不思議がる生徒たち。

音楽室にはクラスメイトたちが既に揃っていた。

その女子高校生はほっとしたのも束の間、気が付いてしまった。

音楽室のピアノが、ひとりでに鳴っている。

音楽室に並んでいる音楽家の肖像画が、こちらをギロリと見ている。

そうしてその女子高校生は、膝から崩れ落ちてしまった。

「ピアノがひとりでに鳴ってる。

 肖像画の目が動いてる。

 トイレにはお化け。

 みんな、どうして平気な顔をしているの?」

震えるその女子高校生に、逆にクラスメイトたちが不思議そうな顔を向けた。

「ピアノがひとりでに鳴っている?

 だからどうしたんだい?」

「肖像画の目が動いて、何か害がある?」

「トイレにお化けだって?

 そりゃあ古い学校なんだから、お化けくらい出るだろう。」

みんなが口を揃えて言う。

それがどうかしたの?と。

そうして、その女子高校生は気が付いた。

うわさとは、人が不思議に思ったことを他人に伝えることで広まる。

学校の幽霊や怪奇現象のうわさは、それを生徒が不思議に思うからこそ、

学校のうわさとして広まり残っていく。

この学校は違うのだ。

古い学校だから、幽霊くらいいても当たり前。

怪奇現象など、実害がなければ気にもしない。

そんな人達が集まっているから、

この学校には幽霊や怪奇現象のうわさがなかったのだ。

その女子高校生は、うわさを調べることに熱心で、

幽霊や怪奇現象の有無そのものを調べていなかった。

ただでさえ怖がりなその女子高校生には、

もうこの場にいることすら恐ろしい。

その女子高校生はすぐに学校を飛び出すと、

とにかくどこでもいいとすぐに転校の手続きをして、

もう二度とその学校の門をくぐることはなかったのだった。



 その女子高校生が転校してしばらくの後。

あの古い学校に、一つのうわさが広まっていた。

入学して間もなく、一人の女子生徒が忽然と姿を消した。

事情を尋ねても、誰も知らない、教えてくれない。

あれはもしかして、この世のものではない、怪奇現象なのではないか。

生徒が突然消えるなど、校舎の古い新しいに関わらず、

在校する生徒たちにとってはおかしな現象に他ならない。

そうして、あの女子高校生は、自らが学校の怪奇現象のうわさの主になった。

もちろん、本人は、そんなことは夢にも思ってはいなかった。



終わり。


 夏のホラー2024企画のテーマ、うわさに関する話を書きました。


学校といえば幽霊や怪奇現象のうわさはつきもの。

むしろ怪談の類が一切ない学校があったら不自然、

特に古い学校であれば、なおさらのことではないかと思います。


探しものを探す時は、つい結果に飛びついてしまうもの。

作中の女子生徒は、結果を求める余りそのことを見落として、

逆に自分自身がうわさの元になってしまいました。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
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[良い点] オカルトを気にしない人が影響を受けない点 噂にこだわるあまり、主人公が現実の危機を見過ごしてしまった点 どちらも日常生活で似たようなことがあるなあと思いました [一言] 見学に行った時には…
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