【SF小噺】バカ社長をAIでソリューショーン
自分を呼び出した社長は、ずっとゴルフクラブを磨いていた。
「知ってるか」
何をだ。
「知りません」
「だからお前はダメなんだ。一を聞いて十を知ろうという姿勢がない」
一どころか、情報量ゼロの中から、どう膨らませて十を創作しろというのだろう。
しかしニートからパソコン係として雇われた恩義が少しはある。大人しく話を聞くとしよう。
ただ、その恩義も日頃のサビ残、パワハラ、休日出勤により恨みの方が上回りつつあるのだが。
「前のゴルフ大会で、よその社長が言っとったのよ。これからはAIだと!」
うわ来た。
サボり魔のくせして、ミーハーなんだよな。
「それで考えた。この儂の経営判断をAI化すれば、いちいちお前らが判断を待たずに済む!」
サボりたいだけだろ。そもそもAIの何たるかを知っているのか。
横では太鼓持ちの課長が「その通り!」と合いの手を入れている。
というわけで社長AIを作ることになってしまった。
えっと、つまりは社長の仕事中における行動パターンを再現すれば良いんだよな?
そして開発はどうにかなった。我ながら凄いな!?
開発が完了したことを社長に報告する。
「なんだそれ?」
あっ、これ絶対に忘れているやつ。仕方ないので、一から説明した。これで社長の経営判断は全て代替できますよ。
すると社長は「そうか、そうか」ガハハと笑いながら帰ってしまった。これで自分が会社にいる必要はないからな、と。
……まあ、いいや。
AI社長は想像以上に完璧だった。そもそも社長は大した仕事なんてしてなかった。業績が微妙に下がり続けているのも、社長の経営判断通りだ。
どのみち、あの邪魔な置物がないだけ、静かで良いよね、とは全社員の一致した意見だ。
ところがある日、久しぶりに社長が出社した。怒り狂って怒鳴り散らす。
「接待費でゴルフクラブが落ちなくなってるぞ。どうなってるんだ!」
ああ、やっぱりこの人、会社の金を使い込んでたのか。
仕方ない。自分が解説する。
「それはAI社長の判断ですね。AIにはゴルフクラブが不必要だから、そういう使い込みがなくなったんです」
そもそも金の使い込みは「経営」に入らないからな。そこまでAIには組み込まなかった。
そしてAI社長になってからも、業績は下がり続けていた。だが使い込みがなくなった分、実は下がり方は緩やかになっている。
AI社長より、リアルの社長の方が無能だったということだ。
「どこのどいつだ、このAIの元になったバカは!」
そのセリフで、さすがに事務所中が大爆笑に包まれた。
結局、AIも道具。使う人がバカなら、ろくなことにならないということだ。
後日談。
独学でAIを作れるのは凄いな、ということでヘッドハンティングされ、転職しましたとさ。