第7話 とある罰にて
「いつまでやるんだこれ」
「今日で3日目だっけ?」
「……進捗は?」
「俺全然進んでない」
校内の窓は天井の高さに比例して大きく高い位置まである。加えて教室などは授業中には掃除できないためただでさえ校内を把握しきれていない新入生には作業は困難を極めた。
「問題を起こした新入生には恒例の罰だそうよ」
「へぇ。ちなみに終わったのは?」
「基本真面目にやる人は少ないらしいけど、頑張っても1週間。魔法で監視されてるらしくて、やらなかったら全部バレるって」
「しかもマーフィー先生だろ?俺逆らう気にもなれないわ」
シャーロットの話にアドラーは項垂れた。
1週間ということはまだ折り返し地点ですらないじゃないか。
賑やかなはずの食堂の空気がここだけ重い。なんだって入学早々こんなことをされているのか。
「午後からは講堂のステンドグラスを全員でやろう」
「そうね」
レイモンドの提案にシャーロットが賛成する。
講堂とは入学式や卒業式などの式典や集会などが行われる場所で、そこは全学年の生徒を収容できる広さを持ち、壇上の向かって左側の壁には一面のステンドグラスが輝いている。
ステンドグラスは掃除しなくてもいいと思い誰も掃除していなかったが、先ほど通りかかったマーフィーに忘れてないだろうなと釘を刺されたのだ。あれはおそらく見ているぞと言いたかったのもあるだろう。
あまりにも大きいので1人でやるのは難しいと判断し、彼らは4人で行動に向かった。
「なぁ、この学校って開校から何年だっけ?」
「僕らが113期生だから、113年?」
「だよなぁ……」
「どうしたの?」
「このステンドグラスめっちゃ新しくないか?他のところと違って掃除されてる様子もないのに綺麗だし、淵とかも錆びついてないし」
後から寄贈したとかにしては馴染み過ぎてるって言うか……
ルカが純粋な疑問をぶつけた。
「あーそれね。買い替えられてるのよ」
「え、でもこの学校って建物とか開校当時のままなんだろ?」
「壊したんだ。アドラーの言ってた例の100期生がな」
「へぇー。エリート100期生にも問題児居たんだ」
「僕も初めて知った。兄貴そんなこと言ってなかったんだけどな」
「そんな事細かに言わないでしょ?普通」
デイヴィッドが言ってたわ。
ひとまず雑巾を使って拭き始めるが、高いところは勿論手が届かないし、そもそも幅が広すぎて埒が明かない。
「もう魔法使わないか?」
「そうね」
「お、意外。シャルは賛成なんだ?」
「ここに関しては俺も賛成だ。ここのステンドグラスは割れないように魔法で強化されてるからな」
講堂は毎年戦争が起きる場所。
室内にもかかわらず花火やら攻撃魔法やらを仕掛ける奴らからステンドグラスを守るため、ここだけは保護魔法が掛けられているのだ。
「2人が言うなら俺もいいよ」
「おい、ルカ!俺は!?」
「うるさい。やるなら早く魔法書探さないと」
「俺もう図書室で借りてきた。流石に手作業は限界」
ルカは魔法書にしては薄い本を掲げた。
タイトルは『お手軽!窓掃除入門編』と書いてある。そんなピンポイントの魔法書などあるのか、とアドラーは感心したが、シャーロットとレイモンドはそれを見て目を見開いた。
「ルカ、それどこで?」
「え?普通に図書室に置いてあったけど。あーでも大分奥の方」
え?なんかマズかったか?
そう言うルカに2人はいっそ清々しい表情を見せる。
「いや、それが1番早い。思いっきりやっていいぞ」
「え?」
「それ使えば多分窓掃除もすぐ終わるわ」
「わかった!」
何かおかしい。
アドラーがそう言って止めようとした瞬間、ルカの杖から放たれた魔法はステンドグラスに向かって真っすぐ軌道を描いて行き、ステンドグラスに触れた瞬間。
鮮やかなステンドグラスはとてつもなく大きな音を立てて、崩れ去った。