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第6話 とある窓ふきにて

「あ、始業のベルね」

「俺たちが持ってるのはバケツと雑巾だけど」

「流石はデイヴィッドだな。寮前にしっかり置いてあったぞ」

第2寮(ウチ)も。なんか逃げたら殺されそうでやるしかなかったよね」


焦って走る生徒や堂々と遅れていく生徒、明らかに教室ではない場所に向かう生徒など、様々な生徒を見送りながら4人は校門に向かった。


「ここ全然人がいないのな」

「そりゃそうよ。寮が門の中にあるし、わざわざここまで来ないでしょ」


アドラーとシャーロットはそんなことを話しながら早速掃除を始めた。

校門には窓などもちろんないが、用意されていたバケツの中に、ありがたいことに校門の掃除も追加するとのメッセージが入っていたからだ。


「うわ、結構汚れてるね」

「汚すやつはいても掃除する奴なんかいないからな」


校門には雨風云々よりも、落書きの汚れが大半を占めていた。

入学時には見る時間が無かったが、校門の周りにはたくさんの立て看板がありいかにも治安が悪い。


「なんだこれ」


ルカは門のすぐ横の落書きを見つけた。

いや、落書きというには魔法で保護がかかっているし、立て看板というにはもう門の壁に埋め込まれてしまっている。


「『この先ライデンカレッジ。いかなる国の憲法および法律通用せず』なにこれ怖!」

「あーそれ初代卒業生が作ったらしいぞ」


レイモンドがさして驚いた様子もなく言った。

会話を聞いていたシャーロットとアドラーも似たような反応だ。


「いやいやいや!おかしいだろ、なんでびっくりしないんだ!?」


ルカがそう声を上げると、アドラーは手を止めて振り返った。


「僕の兄貴たちもここのOBなんだ。だから話はいつも聞いてたし、特に驚くこともないかな」

「え!?」

「やっぱりー!だと思ってたんだよね!」


驚くルカを他所にこれまたシャーロットとレイモンドはやっぱりと言った様子だ。


「え、2人共知ってたのか!?なんで!?」

「なんでって……アラン・ルイスとジャレット・ルイスは今の夏の隊長と副隊長じゃないか」


なんで知らないんだと言わんばかりにレイモンドは言った。


「え?夏?隊長?」

「は?ルカ、俺の兄貴たちどころが聖騎士も知らないの?嘘でしょ?」

「いや、聖騎士は分かるけど……俺そもそも聖騎士志望じゃないし」


聖騎士とは、太陽王ことセントセヴィア帝国皇帝とその皇室直属の魔法師であり、魔法職者育成学校を卒業した後に受ける魔法職者ライセンス試験において、最高ランクを獲得した者のみがなることを許されるエリート中のエリートのことである。名門ライデンカレッジからも毎年採用者は出るものの、200人近い卒業生のうち、最高ランクを獲得するのは10人もいない。


「聖騎士はそれぞれの役割によって部署が4つに分かれてるの。アドラーのお兄さんはそのうちの夏って呼ばれるところの隊長と副隊長。分かりやすく言えばナンバー1と2ね」

「え!?すごいエリートじゃん!」


校門の掃除を終えると、すっかりお昼時になってしまったので、シャーロットたちは食堂で昼食をとることにした。


「時間ずらした方が良かったかもな」


レイモンドの言う通り、食堂は座れないほどではないが混雑しており、何より昨日の一件やレイモンドたち第0寮の生徒がいると言うこともあって中々に視線が痛い。

彼らはなんとかその視線に耐え、人気のない奥の席に座る。


「ここもどっかの特等席とか言わないよな?」

「ちょっとルカ。それフラグになるから言っちゃだめよ」


軽口を叩きながら、彼らはハンバーグやカレーと言った食堂の人気メニューを頬張った。


「それにしてもルカには驚いたわ」

「確かにライデン生で聖騎士についてあそこまで知らないのは少数派だな」

「しかもジャレット兄は100期生だよ?知らないとかある?」

「100期生?なんだよそれ」


アドラーは再び信じられないと言った表情でルカを見つめる。

しかし、これに関してはシャーロットとレイモンドも目を丸くしていた。もしかして知らない方が普通なのではという疑問がルカの頭に浮かんだところで、シャーロットはルカに向かって「流石に知ってるわ」と言った。


「陽光の国のテロ事件は知ってるだろ?」

「あ、それ習ったことある」


ルカの問いにやっと答えられると安堵した。


「いや、常識だから。……で、その事件に学生ながら派遣されて大活躍したのが幻の100期生って言われてるこの学校の100期生」

「なんで幻?」


普通、黄金世代とかじゃないのか?


「その100期生はライデンカレッジ開校以来の実力者揃いで、事件の時も数十人の死者は出たけど、状況を見ればそれでも奇跡だった。卒業試験も全員パスして、その後のライセンス試験でも最高ランクの獲得者数はぶっちぎりの歴代最高の50人。でも、そのうちの3人以外は聖騎士にはならなかった。それどころか、大半が魔法職者にすらならず姿を消したんだ。だから幻の100期生って言われてる」


アドラーはカッコいいよなぁと瞳を輝かせる。


「え?受かったのに蹴るやつとかいるのか?」

「それはまぁ、いないこともないわね。例えばどこかの王族とか企業の跡継ぎとか。ライセンスだけ取れば、外でも割と自由に魔法使えたりするし。まぁでも、そんなのは例年全体の5パーセントにも満たないわ」

「最高ランクとったのに聖騎士にならなかった人って何してんの?」

「流石に個人情報だし、一般には公開されてないぞ。ルカが分かるのはデイヴィッドくらいじゃないか?」

「え!?マーフィー先生が?」

「ほんとほんと。だからあんまり逆らわない方がいいわよ。絶対勝てないから」


恐ろしい話を聞いた、とルカは開いた口にカレーを突っ込む。


「校門の掃除終わったし、午後からは手分けしましょうか」

「そうだな」


1000枚もあるとなると、大体一人あたり250枚。手作業でやるのは流石に骨が折れそうだ。


「それ魔法かなんかでパパっと出来ないわけ?」


アドラーが縋るように杖を眺める。


「別に禁止されてないし、やってもいいだろうが掃除用の魔法なんて知ってるのか?」

「あ……」


レイモンドの問いに知らない、と肩を落とした。


「でも俺もそっちの方がいい。校門の掃除だけでびっくりするほど疲れたし」

「でも窓掃除の魔法って意外と難しいよ?ガラスが割れないように力加減のコントロールもしなきゃだし」


キーンコーンカーンコーン


「予鈴だな。じゃあそれぞれとりあえずは振り分けられたところでやるってことで」


レイモンドの言葉に一同同意した。

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