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第5話 とある事件にて

「アドラー?」

「お友達?」

「うん。というかルームメイトで……」


おそらく第1寮のやつらは上級生だ。一体何をしたのか。

周りの人間もその様子を伺っているが、上級生たちはいつものことだと我関せずだし、数少ない新入生は見ているだけで上級生相手に助ける勇気はないらしい。

彼は浮遊魔法を掛けられ上級生たちに代わる代わるサンドバッグのように殴られながらも杖を奪われなす術もなく血を流していた。


「アドラー!!」

「……ルカ」


その様子に思わず近づくと彼は消え入りそうな声でルカの名前を呼んだ。


「おー!オトモダチの登場か?」

「ヤベー俺涙が出てきちまう!」

「俺たちはここのルールをこの坊に教えてやってたんだよ、センパイとしてな?」


聞けば食堂の中央付近。おしゃれなソファーのあるエリアは、第1寮の上級生の特等席なのだという。そこに知らずに座っていたアドラーに教育的指導をしていた、と。

あまりにも理不尽すぎる。


「うわ最低ね」

「ゴミクズ以下だな」


先輩相手に2人は臆することなく言葉を発した。


「おいてめぇらなめてんじゃねーぞ!」

「噂の新入生じゃん」

「お前らにもここのルールを叩きこんでやるよ」


あっという間にターゲットがルカたちに移り、彼らはこちらに向かって杖を向けた。

流石にマズいとルカは杖を取り出すが、後の2人はピクリとも動かなかった。

しかし腐っても名門校の教育を受けた上級生に入ったばかりの新入生が魔法で勝てるわけがない。

繰り出される攻撃魔法をルカは防ぐことが出来ずなけなしの魔法を放つ。

しかしそれは焦りからか違う方に飛んでしまいこのままだと直撃する、そう思った時。


「おいおい。ウチの1年をいじめないでもらおうか」


魔法は軌道を変え、こちらには当たらなかった。そしてルカの魔法は近くにあったソファを破壊した。

真っ青になる上級生を他所に、シャーロットとレイモンドは誰だ?と頭に疑問符を浮かべている。

同じ1年でもルカにはもちろん見覚えがある。


「ふ、副寮長……」

「無事か?えーっと……ルカだったな」


もう寮生の名前を憶えているのか。

驚きと感動がルカの脳内を支配する。


「あ、それよりアドラーが……」

「おい貴様ら!何をしている!」


怒鳴り声と共にズンズンと遠くから何かが近づいてくる。


「あらデイヴィッド。ごきげんよう」

「またお前らか……」


何があったんだと尋ねるマーフィーに副寮長が説明する。


「なるほど。今年は歓迎会が静かだったからおかしいと思ってたんだ……とりあえずそこの1年4人、罰として校内の窓ふきを命ずる。2年は俺と来い」

「話聞いてました先生!?」


ルカは思わず声を荒げる。


「あぁ聞いたとも。これでもお前の勇気に免じて優しくしたつもりだが?」

「校内の窓って何枚あると思ってるんですか!?しかも俺ら悪くないし」

「悪い悪くないではない。いいか、この世は結果論だ。理解していないのはお前だけだぞ?……レイ」


説明しろと言わんばかりにレイモンドの名前を呼ぶと、レイモンドはめんどくさそうに口を開いた。


「ルカが先輩たちに対抗して放った魔法が当たってソファが燃えた。ついているプレートから察するに、OBの先輩からの寄贈品かな。生地とデザインから見ても、売れば数億はくだらない。というかおそらく特注品だから値段をつけられるものじゃない」

「その通り。これは今や超有名デザイナーとなった卒業生が手掛けたものだ。オークションに掛ければいくらにでも化ける。そしてそれが破損された。その原因はルイスと2年の揉め事にあり、フェイマスの魔法を止めなかったレイとシャルにも責任がある。むしろこのくらいの罰で済んで感謝して欲しいくらいだ。拭き終わるまで授業には参加しないように」


そう言ってマーフィーは副寮長と共に上級生を拘束して何処かへ行ってしまった。


「大丈夫ー?」


魔法が解除され地面に落とされたアドラーにシャーロットが声を掛ける。

彼は血を拭って立とうとするが、上手く立ち上がることが出来ない。レイモンドが肩を貸して立ち上がらせた。


「とりあえず保健室に行こう」

「……あー、そうだな」


微妙な返事をするレイモンドをルカは疑問に感じつつも、4人でゆっくりと保健室に向かった。


「……保健室とは?」


思わずルカの口からこぼれたその言葉はおそらくここに来た全員が思うだろう。

広い保健室にはたくさんのベットと保健医。


保健室には椅子に腰かけてスキットルからウイスキーを煽る老人が1人。彼がライデンの保険医なのだという。彼はアドラーを見て開口一番、生きてるなら帰れと言った。え?死体専用なの?そのベット。しかしそんなふざけている場合ではないので、アドラーをベットに寝かせると、レイモンドは治療用の魔法薬が無いかと尋ねた。


この世界では打撲や擦り傷と言った怪我は魔法薬で簡単に直すことが出来る。もちろん怪我の程度にもよるが。そのため保健室にはそう言った類の魔法薬を常備しているのが当然であり、ルカはレイモンドがどうしてそのような質問をするのか分からなかった。


「あるわけないじゃろそんなもん」


何言ってんだこのジジイ。アドラーは今も痛みで苦しそうにしてるんだぞ?早く出せ。


思わず口調が荒くなってしまったのは仕方ない。しかし、どれだけ言ってもないものはないとしか言わないし、シャーロットやレイモンドも諦めた様子で机にある紙を漁り始めた。


「ここには性病と薬物依存症の治療薬しかないんじゃ!」


それは果たして堂々と言って良いことなのか。

ルカが呆れて言い返す気力もなくなっていると、シャーロットが嬉しそうな声を上げた。


「今やってる2年生の魔法薬学の課題、打撲傷の治療薬だわ!」

「あぁ、そう言えばそうじゃったな」

「私もらってくる」


相手は上級生。特に2年生はさっきのように気性の荒いものも多いと言う。そんな簡単に行くのか?しかしその十数分後。シャーロットは宣言通り魔法薬を持ち帰り、アドラーの傷は嘘のように消え去った。


「起きるまで20分てとこじゃな」


副作用でしばらく眠っているアドラーを囲って雑談をする。


「入学早々授業出られないってヤバいよな。俺置いて行かれそうだ」

「大丈夫よ、この学校留年多いから。それに貴方首席でしょう?」

「……それは大丈夫なのか?」

「そう言えばレイ。アドラーって……」

「あぁ、おそらく……」

「……ん?」

「あ、目覚ました!」

「うるさいな……」

「何だよ命の恩人に向かって!」


目を覚ましたアドラーはルカのその言葉で意識が覚醒したのか、シャーロットとレイモンドを見て目を見開いた。


「はじめまして。シャーロットです。長いからシャルって呼んでね」

「俺はレイモンド、レイでいいよ。よろしくな」

「アドラー・ルイス。えっと……よろしく噂のお二人さん」

「ねぇ、アドラーって……」

「あ、次の授業なんだっけ!?ルカ。助けてくれてありがとう」


それだけ言うとアドラーはベットから降りようとする。


「もう少しゆっくりした方がいいよ」

「レイ、でも授業もあるし……」


その瞬間、静寂が賑やかな保健室を支配した。

シャーロットはレイモンドにアイコンタクトを送る。


アドラーも聞いてたよね?

いや、意識朦朧としてたから……


2人はルカに説明しろと目線をやった。

ルカは気まずそうに口を開く。


「アドラー。あのさ……俺たち今日の件で先生から罰として校内の窓ふきしろって言われてて、それが終わるまで授業には出られないんだよ」

「……は?」

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