第3話 とある新入生歓迎会にて
ここはアスカニア帝国に属する離島、ロスト島。その中心に位置するライデン魔法魔術学校。
序列第2位の名門高等魔法職者育成学校だ。全寮制のライデンカレッジには若き才能が世界中から集められ、彼らは年不相応の大きすぎる才能故に、自尊心が高く思春期も相まってとにかく問題しか起こさない。
それは今日の新入生歓迎会も同じで、例年入学式では優しい先輩方が大人のつまらない話を聞かされ退屈している新入生のために会場に打ち上げ花火を上げたり、バーベキューを催したりしてくれる。そこで済めばまだ教師たちも注意だけで良いのだが、問題はここからだ。
花火で楽しくなった新入生が自分もやると出来もしない発火魔法を使い爆発騒ぎを起こしたり、バーベキューの煙が式典服につくと怒った第1寮の生徒が第2寮の生徒と小競り合いを引き起こし、しまいには全ての寮を巻き込んだ大戦争へと発展したりする。
ライデンにおいて新入生歓迎会とは災害にも等しいイベントなのである。
もちろんこれに対し教師たちは毎年あらゆる手を尽くして新入生歓迎会に備える。
生徒たちに武器や危険物の持ち込みを禁ずることは勿論、暴れる生徒たちを止めるために魔法薬や魔法陣、武器と言ったものを片っ端から用意する。
特に今年は去年過去最高レベルの負傷者が出たこともあって、マーフィーは他の教師たちを説き伏せ嬉々としてロケットランチャーを持ち込んだ。
新入生たちはそんなことなどつゆ知らず、先輩たちに会えることを楽しみにやって来る。まだまだ着慣れない制服を見に纏い、寮ごとに入場して拍手で迎えられる。新入生たちはまだまだ純粋で多少のやんちゃはすれどもライデンの教師からすれば人畜無害な可愛いひよこ同然だ。
「すごい人数……」
「だね。それにやっぱり先輩たちみんな大人っぽい」
ルカとアドラーは花道を歩きながらキョロキョロと辺りを見回した。
あちこちに自分でも名前を知っているような有名人が立っている。
貴族王族、スポーツ選手に芸能人。魔法職者としてだけでなく多方面から見ても優秀な生徒の多いこの学校は、ときたま治安が最低な学校だと報じられることもあるが、ちょっとワルイことに憧れるローティーンの男の子たちからすればまさに憧れの学校である。
新入生たちは何やら歓迎会に漂う緊張感に違和感を抱きつつ、やはりその大半は憧れのライデンに入学できたことを改めて感じ一様に目を輝かせていた。
大抵歓迎会での問題は新入生が入場し終わった後、学園長の話が始まった時に起こる。学園町の話は退屈なので。新入生が入場しそれを上級生が見守っている間、教師たちは用意していたプラン通り陣形を組みマーク済みの生徒たちを優先的にそれとなく取り囲む。
あと残るは第4寮のみ。これが終われば絶対戦争が起きる。
教師たちの緊張とは裏腹に、新入生への善意100パーセントの上級生たちはニコニコと楽しい企画を披露するときを今か今かと待ちわびている。
第4寮の生徒たちが入場する。
全員が入場しきった瞬間に花火を打ち上げようと杖を構える生徒たちに教師も杖を構える。
しかし、その杖から火花が散ることは無かった。
「あれって、どこの服?」
誰かがそう呟く。
彼らの制服のジャケットには見たことの無い刺繍、ネクタイの色は漆黒。
制服は寮ごとに色が違うが、それはどこの寮に属するものでも無かった。
「あれ、女じゃないか?」
「おい見ろよあの髪」
「髪で言えばあの男もだろ」
新入生のうちの1人が着ていたのはズボンにしては膝上と短すぎる丈の漆黒の布。顔には宝石のような大きな水色の目がはめ込まれていて、シルクのように白い髪は胸まで伸びていて緩くウェーブがかかっている。もう1人は形こそ自分たちと似ているもののどこの寮に属するものでも無く、白い肌にはより一層漆黒の髪が映え、その対照的な2人は遠くにいた生徒でもその異質さに容易に気付くことが出来る。
新入生はもとより、先輩たちの中にもやはり多くの疑問と疑念を抱かせた。
その2人の生徒や教師たちに向かってヤジを飛ばし始める。
そして戸惑いを隠せない他の生徒たちは説明を学園長に求めた。
「今年から既存の4寮に加え、新たに第0寮を増設することになったの」
彼はそんなヤジに応えるように話始める。
疑問符が浮かびまくっている生徒たちは学園長の話に聞き入り、ついぞ今年の新入生歓迎会では乱闘騒ぎどころが1つの問題も起こらなかった。
教師たちはその後の職員会議で、「この後寮ごとに打ち上げでもして問題起こしてくれないかな」と少し名残惜しそうにそれぞれの武器や魔法薬を眺めながら言った。