第15話:秘密の訓練
「ぶべびばっ!!」
ゴドゴド グッォ ドーン
強烈な圧力に、俺は壁に叩きつけられた。
体中に痛みと衝撃が走る。強く意識しないと呼吸さえ出来ない。
そんな苦痛を通り過ぎるのを俺は、地べたにのたうち回りながら耐えた。
「うーん、そんなに、今のは強くしてないぞよ」
俺をふっ飛ばした本人は困ったように、そして、少し面白そうにぼやいた。
「い、今のは、私が、失敗したのです。申し訳ありません、アカリ様」
「そうだろう、やっぱり。ルーはまだまだだな」
アカリは嬉しそうに答えた。
俺をすっ飛ばしたのは、アカリ・チューゴゥフォー。
シーの正式な個人秘書だ。
正式というのは、俺と違い党員であり、党幹部の日常業務を補佐する中央弁公庁に所属しているということだ。
つまり、エリート中のエリートだ。
その中でも、次期総書記を狙うシーの個人秘書なのだ。化け物クラスに優秀ということだ。
しかも……、
(……俺の娘と同い年か……)
アカリは十二歳。
少女と言うにも幼い年齢だ。
ただ、この国、いやこの世界は、エリートなら14歳で一人前。シーは歳でフラワーナインになった。
だから、十二歳で、中央にいるのも珍しくはない。
(とはいえ、飛び級のエリートには初めて会ったな。)
強力な思力を持つ者は、どんどん飛び級していくので、この国で育っても実際に会うなんて滅多にない。だから、知識としては常識なのだが、実際に会うと驚かされる。
見た目は本当に幼い少女なのだから。
そんなアカリに俺は、定期的に思力の稽古をつけてもらっている。シーの指示だ。
俺の相手の思力を消すことができる能力は、珍しいというか、シーもテイも始めて見たというレベルだ。
さらに上手く使えば、あのボアのような強大な思力を持つものにも通用する。
だから、俺の能力は、限られた者しか知らない重要機密になっている。
知っているのは、シー、オウ、テイ、そして、今目の前にいるアカリだ。
「うーん、しかし、本当にこんなレベルで、ボアの思力を消せたのか。信じられんな」
そう、俺の能力は、とても限定的だ。
相手の思力様式を物理現象と見なし、その物理現象を相殺するような物理現象を思考実験によって再現する。すると相手の思力が消せるのだ。
ただし、なんでも消せる訳では無い。
まず、俺自身が出来ないと思うようなことは、思考実験が再現できず、相手の思力を消す事は出来ない。
例えば、反物質。これさえ作れれば、恐らくほとんどの思力様式に対抗できるだろう。
俺は、物理学専攻だったから、数式レベルでイメージできる。だが、反物質を生み出すために必要な途方もないエネルギーの大きさも知ってしまっている。
当然、反物質を生み出すことは出来なかった。
だから、相手の思力様式に合わせた対抗策を考えなくてはいけないのだ。
アカリはテイ同様、器用で、様々な思力様式を真似できる。
今日は、フーの思力様式である水に対抗する方法を試していた。
「い、いえ、ふっ飛ばされはしましたが、アカリ様の思力自体は、防ぐことが出来ました」
「む……。確かに、思力の影響は受けてなさそうじゃな」
「は、はい。思力様式は、私まで届いてないです。そこは成功しました。ただ、圧力に耐えられず、ふっ飛ばされはしましたが」
「うーむ、どういうことじゃ」
アカリは、その柔らかそうな銀髪をかきあげながら困ったように聞いてきた。
アカリは、他の支配者クラスと同様、ぐうの音もでない美少女であるが、何故か口調が大人というより、おばあちゃん的である。
「フー様は、水の思力様式を津波のように使って闘うと聞きました。津波の一番怖いところは溺死でなく圧死です。ただ、その水圧に対抗するのは、簡単です。水圧は中が空洞なら金属でも押し潰しますが、水が入っていれば、ペットボトルでも潰せません」
「そうか、ならルーは自分の周りに水を纏ったということじゃな」
「はい。本当に大きいペットボトルを想像しました。ただ、そうすると、流されはするので、ふっ飛ばされたという訳です」
「ハハハッ! そうか! なら心配ないな。十分ではないか。シー様ならふっ飛ばされないし、相手の思力が無効化されている状態で、攻撃に専念出来る。」
「で、ですが、フー様とシー様が闘うなんて想像も出来ません。」
「万が一ということじゃ。あらゆる可能性に対策を持っておくのが大切なのじゃ。ルーも、そう甘い考えでは党員にはなれないな。いつまでも正式な仕事は掃除と茶汲みじゃ!」
「そ、そうですね……。精進します」
「まあ、そう落ち込むな。大半の役に立たない男と違ってルーは役に立つし。シー様に捨てられたら、ワタシが拾ってやるから、安心するのじゃ」
「は、はぁ……」
アカリは、何故か嬉しそうに笑い続けていた。
どうやら気に入られてはいるるらしい。
アカリは、フラワーナインであるシーの正式な個人秘書なのだ。その仕事は、多岐に渡り、とてつもない業務量のはずだ。
だが、こうして時間を作って、俺の思力の使い方を一緒に試してくれる。思力の基礎トレーニングも含めてだ。
見た目だけでなく、本当に幼い子供であるのだが、俺にとっては、面倒見のいい上司のような存続だ。
娘と同い年なので、会えない娘を思い出さされ、俺《克樹》としては、寂しさも感じてしまうのだが。
「じゃ、今日は終わりにするぞよ。ルー、今日はなかなかの出来じゃ。ご褒美にパフェを奢ってるぞよ。付いて来い」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言って、アカリと俺は、この体育館のような広い室内トレーニング場出口に向かった。
当然俺の能力が機密なので、このトレーニング場も貸し切りで、この時間は立ち入り禁止だ。
もっともそんなに使われはしないらしいが。
意気揚々と上機嫌に歩くアカリの後ろを付いていこうとした瞬間、とてつもない悪寒が俺を襲った。
ドガーン!!
頭上から轟音が轟いた。
次の瞬間には、天井から爆音と衝撃が、襲ってきた。
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場面は変わって、ルーの訓練回です。指導するのはなんと、このシリーズ初の幼女属性アカリちゃんです。
幼女なのに何かとルーの面倒を見てくれます。
流石に幼女はな、お姉様はよ派の方ブックマークよろしくお願いいたします。




