第26話:妄想と希望。そして決心
「そっか、やっぱり死んだんだよな、俺……」
転生したと認識した時、あまりに記憶がごっちゃになったので、これまで、死んだ時の記憶を思い出そうとはしてこなかった。
ただ、転生したのだから、前の世界では死んだのはよく考えれば当然だ。
俺が最後に記憶しているのは、政治家の事務所で、側頭部に衝撃を受けたところまでであった。
おそらく誰かに襲われ、そして、それが原因で死んだのであろう。
何のために誰がしたのか分からないが、間違いなく、俺が政治家の先生に持ち込んだデータが原因だろう。
「そっか、死んだんだよな、俺……」
もう一度、自分しかいない部屋で同じことを一人呟いた。
その瞬間、目から涙がこぼれた。
もう二度と、妻や娘と会えないことを理解したからだ。
ここ数日、前の世界の記憶があると言え、俺は、ルーとして生きている世界にいるのだから、あまり前の世界の家族については考えないようにしてきた。
しかし、やはり飛田克樹も俺なのだ。
そして、飛田克樹にとって、家族は自分のすべてであり、人生そのものであった。
それが失われて二度と手には戻らない。
なぜ俺は、死んだのか……。
鶴見先生のところにいかなければ……。
個室ビデオでデータを確認しなければ……。
陣さんに会わなければ……。
いや、そもそも中国が台湾侵攻をちらつかさなければ……。
アメリカが、もっと台湾を守ると明確に示していたら……。
日本が中国の封じこめをもっと上手くやっていたら……。
中国の指導者がもっと弱い権力者だったら……。
俺は、自分の死に対するタラレバを何個も思い浮かべ、関係ないのも含めすべてを呪った。
それでも家族と会えないという喪失感は拭い切れない。
ルーとしてこの世界で強く生きていかなくてはならないのに、この喪失感を抱えたまま、俺は生きていけるだろうか。
ルーとして生きているこの世界が前の世界と大きく違うは、思力の存在と、その思力の強い女性が世界を治めているという点だ。
そして、思力を前提に社会、生活システムがあり、思力の弱い男は消耗品のように扱われる。
一方、奇妙なほど一致している点もある。
例えば、今俺が住んでるこのツバキ市の状況は2011年から2012年の状況にそっくりだ。
華の国の政治システムもかの国と似ている。
華の国だけでない。
この国では世界の情報はあまり入ってこないが、俺が知っていることだけでも一致点はたくさんある。
例えば、世界一の大国、合星国は、自由と平等を信条にする国で、直接選挙で選ばれた大統領が国の元首となる。
そして、今、合星国の大統領は、歴史上始めて黒人人種が務めている。
また、日ノ元という俺が前の世界で住んでいた国とそっくりな国は、昨年大きなな震災に見舞われていた。
飛田克樹が死んだ時から十年以上前の状況とルーとして生きているこの世界の状況は、偶然とは言いきれないくらいに酷似している。
何かこの世界と前の世界繋がりがあるのか……?
いや、きっと人知を越えた何かしらの繋がりがあるのだろう。そうとしか思えない。
この世界と前の世界の繋がりを意識した俺は、ある妄想が頭に浮かんだ。何の根拠もない、ただの願望だ。
その願望は、この世界が変われば前の世界も変わるのではというものだ。
この世界は前の世界から十年間以上遅れている。そして、これから起こることは前の世界と一致していくのではないだろうか。
しかし、何かの拍子でこの世界の流れが前の世界の流れと変わったら?
もしかしたら、前の世界の流れも変わるかもしれない。
俺は、先程、飛田克樹の死に対するタラレバを思い出した。
どれかひとつでも歯車が狂えば俺は死なずに済んだ。
なんとか世界の流れを変えたい。
とは言え、この世界で、ルーというちっぽけな存在である俺の力では無力だ。
しかし、昨日の事件のおかげで、次期総書記候補のシーの役に立つ機会がもらえる可能性が出た。
おそらく俺が何もしなくても、シーはボアを排除し、その後の権力争いも勝ち、圧倒的な権力者になっていくのであろう。
俺は、なんとかシーの役に立ち、シーの側近になり、最終的な衝突を防ぐよう立ち回るのだ。
そうして、世界の流れを変える。
もし、この世界と前の世界が繋がっているのであれば、前の世界の流れも変わり、飛田克樹は死なないかもしれない!!
この妄想は、この世界でルーとして一人で生きる俺を奮い立たせてくれた。
ルーとしての俺にとっても、この世界で男が歴史に関与するような機会があるなんてとても愉快なことだ。
この世界では歴史は常に女性が作ってきたのだから。
テイに思力で、トゲを植えられているからボアに味方するようなことは出来ない。
仮に出来ても、大きくこの世界の流れが変わるとは思えない。
直感だが、この世界の流れを大きく変えられはしないであろう。
少しづつ、少しづつ、ベクトルをそらすように変えなければならないのであろう。
全部妄想だ。でも妄想が、希望を、勇気をくれる。
家族にもう一度会いたい。
消耗品になんかされずこの世界で存在を認めさせたい。
飛田克樹としての願望とルーとしての野望を胸に、俺はこの世界を生きていく。
そう決心した。
ここまで読んでくださった方本当にありがとうございます☆
ルーの世界と飛田が生きていた世界は、出来事に年表にしたりプロットにしたら似てるなーというくらいの設定です。
人物のつながりは霊的、魂的な事も含めて一切ないです。
また、事件の、起こる原因や背景も詳細は当然違います。
いずれにせよ、飛田の過去回は、今回が最後です。
そう、次からは美女登場回。
ここまで我慢しておっさんの話を読んでやったんだぞ、次は期待していいんだなと思った方は、ブックマークよろしくお願いいたします。
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