第20話:転生前とこの世界の一致点
――飛田克樹。
それが日本での俺の名前だった。
俺は茨城県に生まれ、そこで育った。
父は地方公務員、母は専業主婦時々パート、弟一人という4人家族でなんとも平凡な家庭に生まれた。
小学校から中学校まで、運動も勉強も上の下くらい。なんとか高校は学区の進学校に入学できた。
ちょうど高校に入学した年、日本人女性初の宇宙飛行士が誕生した。
単純な俺はそれで、宇宙と物理が好きになった。
大学は物理を学びたいと思い、茨城の学園都市の大学を受験して、合格した。
なんとなく、物理学者になることを夢見たが、なんとなくでなれるほど物理学者は甘くない。
研究室に配属になった頃には、俺の貧弱な精神なんてポッキリ折れていて、さあ、物理学科を卒業してどこに就職しようという感じだった。
俺の所属した研究室は、教授が、戦後帰国できず、中国で育った経験のある人であった。
教授は、時たま中国でのつらい経験を話してくれた。
また、中国と関わりがあるのか研究室には、中国人の留学生が多かった。
その中の1人に、とても可愛い女の子がいた。
俺はその子とお近づきになりたいだけで中国語を猛勉強した。
そして、完全に黒歴史だが、中国語でラブレターを書き、中国語で告白した。
結果母国に恋人がいるからと(きっとフッた理由は彼女の思いやりだと思う)あっさりフラれてしまった。
なんとなく、下心だけで中国語を覚えたと思われたくなく(実際は下心だけなのであったが)、俺はその後も中国語の勉強を続けた。
その過程で教授や中国人と仲良くなり、日中交流に関わる仕事がしたいと考えるようになった。
その結果、俺は外務省に入りたいと思うようになった。
ただ、いわゆるキャリア採用は俺の経歴、語学レベル、学歴どれを取っても入れそうにない。
俺はノンキャリを選んで入省を試みた。
物理学専門に、中国語、異例の経歴が目に止まったのか、俺は入省できた。
入省後は、様々なことを経験した。
現地スタッフとして、中国で働く経験も得られた。そして、結婚し、娘も二人生まれ、なんとも絵に描いたような平凡だが幸せな家庭を持った。
四十歳過ぎの俺は、日中交流の事務屋として、キャリアからの命令をひたすらこなす日常を送っていた。
実年齢ほど、精神年齢が成長しなかったのは、ノンキャリアで、部下を持つという仕事を経験出来なかったからであろう。
俺の精神年齢は、三十歳くらいで止まってる。
上から命令はたくさん受けるが、俺はそれを関係者にお願いする立場だった。
人に命令するという行為は、よくも悪くも精神を鍛えるなと痛感していた。
(2012年だったかな。)
そう、そんな経歴だから俺は隣国の状況にそこそこ詳しかった。
この華の国は社会主義を謳う一党独裁という点で隣国に似ていた。
そして、党の少数の選ばれた者が国を支配する構造も同じた。
それが、中央政治局常務委員。
九人のエリートが党を先導することで国を支配するシステムだ。
2012年は、その後長らく独裁者として、中国を支配することになる者が初めて総書記になった年だ。
その者は、党首になる前は全く存在感もなく、まさか熾烈な権力闘争を勝ち抜いて、独裁者として君臨するなど誰も予見してなかった。
(実績がなく、七光ってとこはシー様に似てるんだよな)
もちろん、似ているのは見た目ではない。
シー様は、完全無欠、この世のものとは思えない美女(美少女)だ。
ただ、同じような政治システムのなかで、実績がないのに権力闘争の狭間でいつの間にかトップを狙える位置に付いているというのはそっくりだ。
そして、2012年が俺の記憶に残っているのは他にもあった。
地方公安幹部がアメリカの領事館へ駆け込んだ事件が起こったのだ。
駆け込んだ理由は、その者が幹部を勤める地方都市を支配している党幹部から命を狙われているからというものであった。
その地方の状況は、今俺がルーとして住んでるこのツバキ市と状況がそっくりだ。
その地方都市を支配する幹部と、その地方を爆発的に発展させ、その過程で自分の富と支配システムを作り上げ、そして、国を支配する権力を狙っていた。
その地方には、日本企業もたくさん誘致されており、俺も現地の視察に同行したことがある。
そこで、遠目だか、その地方を支配する党幹部を見たことがあった。
遠目でも決して日本人が持てないような存在感を持っていたのを記憶している。
アメリカ領事館に駆け込んだ公安幹部、そして、その地方の党トップ、状況は、オウとボアにそっくりだ。
その二人もまた、二人三脚で不正と腐敗と戦っていた。
まだ、オウは、ボアに命を狙われている訳でない。しかし、すでにオウは、ボアに反旗を翻すことを決心している。この事が、ボアに知られたら命を狙われるであろう。
この奇妙な一致に俺は寒気がした。
なぜ、こんなにも状況が似てるのであろうか……。
俺はこの世界を十八年間ルーとして生きてきた。
その間、この世界に対して何も疑問などもたなかった。
しかし、転生と呼んでいいかわからないが、日本人として暮らした約四十年の記憶も同居している今、転生前の世界とこの世界の奇妙な一致を考えると、この世界が本当に現実なのか、心が揺らいでしまっている。
(いや、この世界だけでなく、転生前の世界に対してもだな……)
数日前、急に転生前の記憶が頭に現れた。
なぜ、ルーとして生きた十八年の間、その記憶がなかったのか信じられないくらいに自然にだ。
何がなんだかわからなすぎて、これは転生だと勝手に自分を納得させていた。
しかし、転生前後の世界の共通点を見つけた今、俺はこの世界が現実なのか、前の世界も現実だったのか、両方に自信がもてなくなった。
日本の生活も娘や妻の存在もルーという俺が勝手に妄想しているものなのか。
それとも、今警官として働いており、一人寂しくここツバキ市で暮らしている俺は飛田克樹が見ている夢じゃないのか。
そんなぐちゃぐちゃした不安をなんとか取り除くため、飛田克樹としての最後の記憶が、どんなものか思い出そうとした。
何か転生するきっかけがあったかもしれない。
転生最後の記憶を思い出すことで、俺は今この世界も、そして、転生前の世界も現実にあるのだということを確認したかった。
ここまでで読んでくださった方本当にありがとうございます☆
転生前の世界とこの世界の奇妙な一致点にルーが気づく回です。
なお、設定上は、年表やプロットにしたら似てるなくらいです。
転生後の世界(=異世界)のキャラクターは、転生前の世界(=現実)の人物と一切関係ないので誤解しないでいただければと。
現実世界の話についてはできるだけ固有名詞を使わないようにしております。
活動報告の方に関係するネタを書いておりますので、もし興味ある方はそちらをご参考。
細かいことはいい。美女はどうした?と思った方、ブックマークよろしくお願いいたします。
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