第11話:オウの奥義
古戦場を思わせる荒野の中で、無数の炎の虎が空間を泳ぐように、踊っている。
その中心にはひときわ大きい炎虎。
オウはこの空間全体を炎で蹂躙し、なぎ払うつもりだ。
(ヤ、ヤバい……)
俺は自分の置かれた状況を理解した。
テイはともかく、巻き込まれた俺には完全に致命的だ。
何か方法はないか。
昼間の時のように空気の壁は今回のオウの規模では到底太刀打ちできなそうだ。
水で消火するというのも、男の俺の弱い思力では、文字通り焼け石に水であろう。
俺は、転生前の世界の知識を思い出しながら、何か手はないかと考えた。
走馬灯のように、転生前の人生とこの世界での人生の記憶が流れる中、俺は転生前の人生で、娘とやった実験を思い出した。
(一か八かというより、藁をもすがる方法だけど……。やるしかない!!)
この方法なら理屈上オウの炎を消火出来る。
この出来るというイメージは思力を使うにおいて非常に重要だ。
そして、俺は 理屈が通ることに対しては、自信が持てる。
俺は、オウの炎を消す物理現象を数式レベルでイメージして思力として解放した。
ブオーン ブオーン
辺りには場違いな重低音がこだました。
一瞬オウの炎はさらに燃え盛ったがほどなくして消えた。
――気柱の共鳴。
この現象を利用することで、炎は、音波によって消せるのだ。
娘が小学生の時、夏休みの自由研究で一緒にやった。そのときは小さい筒を使ってロウソクの炎を消しただけであったが。
思力であれば現実では用意できない実験環境を用意出来る!
俺は思力で、オウの炎を消せるような音波をイメージして具現化したのだ。
「!?」
オウの思力が消えたためか思界も消え、辺りは元の景色に戻った。
オウは突然自分の思力が、消えたことで固まっているようだ。
それはおそらく俺と同じ死の覚悟をしていたであろうテイもだ。
この瞬間、三者の間に沈黙の間が入った。
そして、一番早く動けたのはテイであった。
すでに思力で蔓を出していたのだ。それで、無防備なオウを拘束した。
オウは、体中緊縛された状態で宙に持ち上げられた。
無防備な状態で、ボロボロとはいえテイの全力の思力を受けたのだ。
これはテイの勝ちであろう。
俺にとっては、オウよりはテイが勝った方がなんとか生き延びれるような気がする。
この後どうなるかまったく確証はないが、根拠のない安心感を俺は持った。
オウを拘束したテイは、呼吸を整えながら、俺とオウを見比べ言った。
「何が起こったのか分かりませんが、私の勝ちですね」
戦闘前の余裕のこもったしゃべり方だ。
オウは、そのセリフに反応するかのようにテイを、睨み付けながら拘束解くためもがいている。
しかし、まったく無防備な状態でテイの思力を受けたのだ。そう簡単に拘束は解けそうにない。
「そんなに暴れないで下さい。オウ様には、協力いただきたいだけなのです。党のために……」
「やはり中央のものか!!」
「そう邪険にせず、少し落ち着いてお話しを聞いていただければ」
「腐敗まみれの中央の言葉など誰が聞くものか!!」
オウは、そう言ってさらに抵抗しようともがいた。
生身の人間が金属のワイヤーで拘束されているようなものだ。まったく無駄だろう。
どうなるものか。俺は事態の推移を見守った。
もちろん、逃げる機会を伺うためだ。
「それは、あなたが仕えているボア様も同じでなくて」
テイはこの市のナンバーワンである、ボア・シー・ライの名前を出した。
犯罪組織や汚職撲滅など、ボアが市の書記長になってからの功績は高く、オウと並んで、いや、オウ以上に市民からは人気があった。
一方で汚職の噂は絶えたことはない。
「中央のものに何がわかるものか」
オウは、ますます怒った。
気のせいか、オウを拘束するテイの金属の蔓が少し赤みを帯びてきたように見える。
(いや、気のせいでない!?)
明らかに金属の蔓は赤く輝きだした。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます☆
なんとひ弱な主人公のルーがオウを抑えたしまいました。
このお陰で様々な人の運命が変わります。
圧倒的なオウの思力の前に呆然自失となっているテイや縛られたオウを脳内補完でヴィジュアルできる方ブックマークよろしくお願いいたします。
また、ぜひ↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!