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乾坤一擲待ったなし3




「かもねって話なんだけどね」



 一般的に穏やかな時間が流れる時刻。通学している学生にとっては放課後を楽しんだり、帰路に着く時間だろう。


 昼間働いている大人たちはようやく愛する家族の待つ家に着き、夕飯の準備に取り掛かる頃合い。

 やや日も暮れ始め、あたりは薄暗くなり、街灯がポツポツと顔をのぞかせ始めた。


 王都にある店は、飲食店を除く大概の店舗は夜の19時までに閉店していく。

 道具屋、魔具屋も同じ様に早い時間に閉店して、夜間は商品の補充や制作の時間を取る事が多い。

 魔具は「魔法」の入った道具であり、ボタンを押すなり、魔力を込めるなりすると相応の反応を起こす。

 道具も試作を繰り返し大量生産するが、その工程はあまり変わらない。


 製作者の魔力を込めるので、その分集中力も必要となる。

 短時間で魔力を大量に消費すると危険な事もあるので、長い時間をかけて制作をする事が推奨されている。というよりかは常識として存在している気がする。


そのため、寝る時間を惜しんでまで開発に、という発想はない。

 ダイレクトに寿命を削る行為だという事が幼い頃からみんな体に染み付いているのだ。



 閉店時間を迎えたばかりの店、セナード魔具堂も例によって18時を迎える頃、閉店した。

 しかし、まだあかりの灯った店内では、小さな椅子に優雅に足を組んだディオが、愉快そうに笑っている。その表情は遊びに似た逸楽的な物が垣間見えた。



 ニヤつく様子に、言葉に過剰に反応して少し近づきすぎた距離を正そうとして一歩後ろに足を引いた。

 だが、一般的な程よい距離、パーソナルスペースの確保、もとより危険回避可能な距離間の確保は失敗した。


 ディオは慣れた手つきで、私の手を掬い上げ、機敏な動作でグッと腰を支えて固定し距離を取るのを許さなかったのだ。




「ちょっ......」

「まぁまぁまぁ。」




 半分以上が刺青で隠された顔の、唯一地肌の色が見える唇が、くい、と吊り上がった。


「僕が思うに、君はどうも魔法の量の調節が上手くいっていない。先日の魔法もかなりの量の魔力を感じたから流石の僕も終わったなと思ったよ。失敗してくれて本当に良かった。ありがとう。ともかく、原因は不明だし僕もそんな症状は聞いた事がない。僕もそこそこの体験を経験してきた自負がある。だが試した事がない事もあるはずだ」



「試した事が、ない事......?」




 頑なに私の腰にひっついていた手が離れ、ディオの人差し指がちょこんと鼻先にあたる。


「そう」


 鼻先を占領していた指が次第にゆっくりと時間をかけて反対方向を向く。



「例えば......魔力を使い果たすくらいの力で魔法を使うとかね」




 ディオは含みある流し目でうっとりする様に私を見た。




 

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