あれ?退学?
皆は自分が無能だと感じたことはあるだろうか?
誰しもがぶつかる壁はどこかに、いや、どこにでも存在し、聳え立っているものではあるだろう。しかしそれは努力をすれば必ずと越えられる。越えられなくとも、壁を低くすることはできるはずだ。
時間をかけ、ゆっくり登れば越えられない山はないように。
壁もまた、同じようなものなのだと私は思う。
努力の方法を変えて、泥臭く地面を掘って壁の下をすり抜けてもいい。壁に穴を開けるなんて力技もある。
現実に置き換えれば、受験も時間かけてコツコツ準備して備えれば、時間と引き換えに知識が手に入り、受験に勝利する。
ゲームはどうだろうか?
同じだ。
時間をかければ、ゴールは必ず近くなる。
少々荒技だがお金をかければ装備で優勝だ。
人を頼る、物に頼る、お金に頼る、運に頼る。
壁は、自分の努力次第でよじ登れるのである。
そう思って生きてきた。
そう思って生きてきたのだ。
「ステラ・セナード」
長い長い廊下で、私の名前を呼ぶ声が静かに響いた。
石造りの廊下の壁には誰か上級生が作ったのだろう、額縁に入れられた絵の中で毒々しい色合いのヘンテコなキノコが、コソコソ話している。
なんの言語かは不明だが、キノコに目をやると気まずそうに天を仰ぎ奇妙に揺れ動いているので十中八九私の事を話していたに違いない。
そうに違いない、と思い込んでしまう私の自意識過剰な被害妄想も大概な物である。
しかしそう思い込むのも仕方がないと思うのだ。
なぜならば、私は今、誰がなんと言おうと、まさに“無能”。
そう。
無能だと痛感しているからである。
やる気は満点。
学生としての若さと気力と体力と魔力は十分。
しかしながら、事魔法において、残念な事に私は無能だった。
「ステラ・セナード」
再度、私を呼ぶ声が先ほどよりもほど近い場所から聞こえてきた。
たった数センチ首を上げれば。
たった数センチ瞳を動かせば、その声の主が見えるだろう。
しかしそれすらも億劫で、未だ視界には自身のつま先が地面に縫い付けられている。
「ステラ・セナード……」
再び聞こえた声には、呆れたような、悲しそうな色が混じっていた。
「残念だが、君はこの学園には居られないようだ。荷物をまとめておくように」
「……はい。先生」
「よろしい。失礼するよ」
「はい、先生......」
悔しくて、悲しくて、涙が溢れたが、幸い声が震えることはなかった。
たった2ヶ月だけだが、様々な魔法を丁寧に指導してくれた先生は、私の落ち切った肩に優しく手をそえた後、ゆっくりと静かに去っていった。
あと数日もたてば、氷魔法が役に立ってくる季節がやってくる。
そんな季節の移り変わりの狭間の出来事だった。
うう、私だって氷魔法......使いたかったな......。
私の長い長い人生の中で、決定的に、衝撃的に、これでもかと言うほど自分の無能さを痛感した瞬間である。
起こったことを包み隠さず話そう。
私は退学になったのだ。
入れば誰でも卒業できると言われている『シャルム魔法学校』で初めて“退学”になった生徒に、私はなったのだ。
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