同身怪異
この世には星の数ほどに怪奇なことがある
祖母が今朝話した内容を何回も繰り返しては、毎回違う回答をすること
妹がわたしの事をジッと見つめては、今日の予定をしつこく確かめてくること
母がテレビのチャンネルを変えると、天気予報だけが流れてくること
わたしがどんな姿をしているのか分からないこと
同じクラスの真理子がわたしに、新しい都市伝説を教える
担任の真木先生がわたしに、人を探すように頼んだこと
その相手は化学準備室にいること
その場所は酷く憂鬱な雰囲気で満たされていること
そこで深い焦げ茶色の嗜好品を嗜むひとがいること
『真木先生がメールを読むように伝言を承りました。」
「読んだが?・・ああ、はいはい。かのじょに言ってくれたまえ、直接来いと。」
『それは無理な内容だと思いますが?』
「なに、怪我をするだけさ。自己回復力をなめちゃいけない。」
『私には理解が出来ません。』
「・・・最後の生徒だから、この部屋に入れたのになぁ。」
真理子の言った都市伝説。この学校の化学準備室にいるにんげんは『鏡に映ってしまうんだ』と。
「とうとう君もダメになったか・・」
『・・・頭を掴んで何をするつもりですか?』
「なに痛くはしないさ。わたしが生きるためだからな。」
部屋に差し込む茜色の光とそれを反射する鏡の破片が私には酷く眩しかった
この世には星の数ほどに怪奇なことがある
「例えばこの世界のどこかで、自分に擬態「なにか」が自分を取り込んで生活しているとか。そいつらの特徴と言えば、記憶を維持できないことと鏡に映らないこと。おっと、ドアの外が酷くうるさいな。ノックなんか強くやる必要なんて無いだろうに・・・さてこの場所に迷い込んだ人間へ、茜色で満たされた部屋で鏡に飛び込むと良い。私のようになりたくなければな。」
この世には星の数ほどに怪奇なことがある
それは茜色で満たされた憂鬱が流れる部屋で、映らない筈の姿見に映る私と同じ顔をした女とか