93.写真
「ほーん、なるほどなるほど。人払いまでして何事かと思えば……お前らイチャついてたな」
「……どうでしょう、ルーカス様」
「誰だこんな下世話な人間をここに連れて来たのは」
「お前だよ。お ま え !」
応接間でエドワーズ家の私兵の皆さんとまたもや小難しい話をしていたザックさん。
彼はルーカス様とは随分雰囲気が違うけれど、すごく頭の回転が早い人だと思う。
時として、ルーカス様の一歩先を読んだような台詞が出てくる事もあるから。
「ったく…。私たちの高尚な会話はお前にはわかるまい」
「あーはいはい。クレアちゃん、ルーカスのどこがいいわけ?愛想は無いし、性格は陰険だし、爽やかさも若々しさも無けりゃ、庇護欲そそるタイプでも無いだろ?年上だろうが顎で使うし、俺様万歳で我が道を…ててててていってーな!髪を引っ張るな!!」
「……今決めた。大好きな筋肉に包まれて過ごすといい。ジェイコブ!」
そしてザックさんの前では、ルーカス様はすごく子どもっぽい。
ほら今も、ものすごく大きな男の人にザックさんを突き出して…大きな…大き……過ぎないかしら…?
「…ルーカス様……お呼びでしょうか……」
ひ、低い…!そして声がとても低いわ!!
「ルーカスふざけるな!俺より頭2つデカい男がどうやって隠密行動するんだよ!俺に的になれってか!?お前護衛選ぶ気無いだろう!?」
ご、護衛!?
「ルーカス様!ザックさんにも護衛が必要なのですか?何か危ない目に遭われたの!?」
私の叫び声に、じゃれ合っていたルーカス様とザックさんが目を見合わせる。
「……彼女には話しておく必要がある…か」
「…そうだな。あんま楽しい話じゃないだろうけど」
ルーカス様が侯爵の顔になって指示を飛ばす。
「お前達、仔細は後ほど伝える。持ち場に戻ってくれていい。グレース、昼食を私の執務室に頼む」
「畏まりました」
ルーカス様に先導され、広大な邸の2階をずんずん進む。
「入ってくれ」
こくりと頷き、おそらく彼の執務室であろう部屋へと足を踏み入れる。
「殺風景だな。お前らしい」
ザックさんの呟きに思わず笑みが溢れる。
「ふふ、私も同じ事を思いました」
彼は終始一貫して几帳面で綺麗好きなようだ。
家具の一つ一つは重厚でとても趣のあるデザインなのに、無駄な飾りも雑多な小物も一切無い部屋。
だけどこの部屋は広い。
数十人が集まって会議ができるほどの長机まである。
「座ってくれ」
ルーカス様がその長机を手で示す。
私とザックさんはそれぞれ頷いて示された席へと着いた。
先ほどの居間で、私とルーカス様はいくつかの決め事をした。
敵の油断を誘うため、相手との交渉を有利にするため、理由は色々あるけれど、要はエドワーズとベゼルが1つになる事をしばらくは秘密にするという事だ。
私達はここに来て初めて、2人で共通の秘密を持つ事になった。
秘密を知る人間は、少なければ少ないほど情報の統制がしやすいらしい。
…難しい事は私にはわからないけれど、要は信頼できる人間の目利きが必要ということだ。
この席に呼ばれた…というか、彼がいる事が当然のように振る舞われているということは、ザックさんはその目利きにかなう人物であるということ…。
「クレア、この写真を見て欲しい」
ルーカス様が私の目の前に並べたのは2つの写真。
サラサラの金髪と青い瞳の男性と女性……。
「母の恋人と…レイチェルさん?」
バッと顔を上げ、ルーカス様とザックさんを見る。
「…やはり間違いないな」
ルーカス様が呟き、ザックさんが大きく息を吐く。
「…この男の写真は昨夜のパーティーでザックが撮った」
「ザックさんが?あぁ、新聞記者を……」
ザックさんが頷く。
「そしてこの女は…ソフィア・ブロウズといって……」
「……俺とルーカスの同期だ」
「!!」
レイチェルさんが…お二人の同期…?
「大学の君の元へ女性が会いに行った事はオリバー君から聞いて知っていた。その時点でソフィアであろう事は大方の目星はついていた。そして…昨夜の君の言葉で確信に変わった」
ザックさんが続ける。
「…俺とルーカスは、それぞれ別の理由でソフィアを要注意人物だと思ってたんだが、夕べのパーティーで君が見た男が決定打になった。…こんなにそっくりな赤の他人、いるわけが無い」
指先が冷えて来るのがわかる。
「…お、お二人は、国家機密の組織で働かれているのでしょう…?」
「「!!」」
「同期って、そんなに前から身近に…そうよ、母の恋人を見たのも…8年前……」
そんなに前から父は命を狙われていたの…?
母を介して、部下を介して…
なぜ…なぜなの…!?




