表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/161

89.車内

 一体何台の車で移動するのだろう。

 というか…あの邸には何台の車があったのか。

 

 私とルーカス様が乗り込んだ車は、いつも送迎してもらっている車より大きくて重たそうだ。

 そして運転席には黒服姿の目つきの鋭い男性、助手席にはこれまた黒服姿の目つきの鋭い男性。

 私たちの車の前方には先導車が数台。そして後続にも車列がずらり。

 あまりの光景にしばし声も出ない。

「道幅が広ければもっと面白いものを見せられるのだがな。首都圏ではなかなか難しい」

 ルーカス様がそんな事を言う。

「さ、左様でございますか……」


 ルーカス様って…何者なの…!?

 いえいえ、侯爵様だったわ。

 侯爵って、こんなに経済力が…?

 いえ、確かに言ったわよ。結婚に望むのは経済力だって。

 でも…なるほど。あの条件に怯まないだけの経済力…という名の圧倒的な権力を感じるわ…!


「どうした?神妙な顔をして」

「いえ…。あの、ルーカス様?どうして急に、こう、いかにも貴族!みたいな感じになられたのです?普段のルーカス様は、勤め人っぽさに親近感が湧くというか…」

「ああ…普段は地味に大人しく暮らしているからな。たまには使えるものを使おうと思ったらこうなった」

「こうなった……」

「ああ、気にするな。君は私だけ見ていれば良い」

 そう言って彼が私の右手にキスをする。

「!!」

 ど、どうしたのかしら…。

 今は夜会服姿では無いのに…!!


 長い車列を引き連れて、私たちは首都ストックブロスを南下する。

「ルーカス様、侯爵領はどのような場所なのですか?」

 地理の勉強では、大きく15に分かれた国内の各州と、そこから細かく別れる各都市について学ぶ。

 もしかすると都市の数だけ貴族の家名があるのかもしれないが、さすがに細々とした所までは覚えていない。

 ただ、私が学んだ中にはエドワーズを冠する地方名や都市はなかったと思う。…それはベゼルも然りだけど。

「どのような所…。そうだな、この国の南にあるグラント州はわかるか?」

「それは当然ですわ。王国で1番広い州ですもの。山あり海ありで…」

「早い話、そこだ」

「そ……こだ?」

「ああ。中は細分化して他の伯爵や子爵、男爵に任せてはいるが、グラント州がエドワーズ侯爵領だ」

「へー……………そう…ですか」

 もう何も聞かないでおきましょう。

 脳が処理できる規模を超えているわ。

 

「聞いておいて随分な反応だな。まあ…このくらいで驚いていてはこの先大変だからな」

「え?」

「ああ…こちらの話だ。私も領地には年に数えるほどしか帰れない。普通ならば父が引退した後に暮らしたのだろうが、思いがけず早くに亡くなったからな」

「ああ…。確かルーカス様が成人してすぐだと……」

「深刻に捉える必要は全く無い。…単に不摂生が祟ったのだ。好きなものを食べ、好きなものを飲み、女好きで華やかに生きた人だった。君のお父上とは正反対だな」

 そう言ってルーカス様が口端を上げる。

「…どちらが正解かなんてわかりませんわね。どちらにしろ早くに亡くなるのならば、ルーカス様のお父様のように生きるのも幸せなのかもしれません。……私には無理そうですけれど。貧乏性はなかなか根が深いのですわ」

「ははは。私も立って寝ないだけマシな生活をかれこれ7、8年だからな」

 

 ルーカス様が私の右手を取る。

「…クレア、私はこの件が終わったらしばらく内向きの仕事に専念しようと思う」

「…そうなのですか?」

「ああ。…君を妻に迎え、家族として暮らす基盤を整えたい。仕事は……縁が切れなければまた降って来るだろう」

「ルーカス様…。ふふ、嬉しいですわ、とても。でもどうしてでしょうね。私にはブツブツ言いながらも仕事に出かけるあなたの姿が目に浮かびますの」

「……実は私もだ」

 そう言って大きく溜息をつく彼を見て、私は彼の左腕にくっついた。

「…72時間に一度、ただいまを聞かせてください。難しければ、愛してるの一言でプラス12時間の猶予を差し上げますわ」

「…なかなか計算高いでは無いか。その言葉は相当酔わないと言えないな。だが私は酒には酔えない。参ったな……」

 彼の真面目な返しがおかしくて、私は心の底から笑った。

 そしてそんな私を見て、ルーカス様も少し喉を鳴らした。

 運転席と助手席の鋭い目がまん丸になっているのがミラー越しに確認できたが、そんな事お構い無しだった。

 ほんのひと時、緊張の解けた車内で、私は幸せを噛み締めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ