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87.事件の裏側

「ザック、お前はいつからこの件に絡んでる」

 

 何だかんだ小言を言いつつ、邸から持参した朝食に齧りつく同期…昔一時期だけ同居人だった男に問いかける。


「最初からだ。……ハワードさんの葬式の夜」

 最初から……。

「お前の事だから気づいてるだろうが、ハワードさんの事件は一度も正式な捜査チームが作られてない。極秘扱いにしたっておかしい。…だから、局長が個人的に捜査してた」

「スタンリー・クルーズが?」

「ああ。お前とは気が合わないが、あの人はずっとハワードさんの右腕だった。10年以上。…あの人はキレ者だぞ。ハワードさんの側近なんて、普通は胃が何個あっても足りんだろ?」

 スタンリー・クルーズ…仮面を被るタイプの捜査官だったか。しかしなぜ馬鹿の仮面を被るのだ。

「葬式の後、局長大荒れでな。酔えない酒を浴びるように飲んで泣いてたよ。不甲斐ない、申し訳ないって」


 あの日、ハワード殿の葬儀の後、私はベゼル領に向かった。

 ……訃報を届けに。

 主人を亡くした彼らの嘆きと怒りは凄まじく、まるで戦の前のような雰囲気だった事を思い出す。

 ベゼルとエドワーズ、お互いに何かあった時には両家の家臣を抑えるために、古い盟約に従い主人の言葉を伝え合う。

 ハワード殿から預かった言葉は至ってシンプルだった。

 『ベゼルの本分を忘れるな』…ただ、それだけ。

 だがその一言で、ベゼルの家臣は一瞬で冷静さを取り戻し、ひたすら淡々と…そう淡々と、今後の領地の経営と、クレア嬢の護衛について話し合っていた。

 私はその様子を見つめながら、ハワード殿の無念は私が晴らすのだと、そう思ったのに……。


「…私は葬儀の翌週から、スクイド国の大使館に研修に行かされた。なぜあの大切な時期にと随分恨みに思ったものだ」

 10か月もの間何もできず、戻ってみればベゼルの次期当主はボロボロの姿で見合いの真っ最中。あの時の焦燥は筆舌に尽くし難い。

「…だな。俺はこの件で嫁さんと知り合った訳だが、彼女もすぐに国外に逃がされた。…局長の指示だろうよ」

 

 ザックがこちらをジッと見る。

「ここからは俺の推測でしか無いが、お前…警察組織に使われているように見せかけて、何かもっとデカいモンと関わってるだろ」 

「…なぜそう思う?」

「集まる情報を精査するのが俺の仕事だ。ハワードさんが殺された。なのに組織は動けない。ルーカスは安全な場所へ逃がされて、戻ればすぐにクレア嬢にこだわった。…導き出せるのは、王家、ベゼル家、エドワーズ家の関係性…だ」

 末恐ろしい男だな…。

 父の声がかりじゃなければ消さねばならんところだ。


「ザック、お前には感心する。だが、中には話せない事もある。お前も知っての通り私たちの所属する組織は国王直轄だ。ハワード殿の事件を追えないのは、通常であれば陛下からの指示だと思うところだが、今の状況下、そうではないと考える」

「…クルーズ局長もそれに気づいて捜査を打ち切ったってところか?それでお前を呼び戻した」

 ザックがまだあるだろ?という顔をする。

「……スタンリー・クルーズは、この事件の裏に王族がいる事を見抜いた。王族がベゼルに手をかける……」

「……エドワーズにしか解決出来ないってか」

 ザックがヤレヤレといった顔をする。


「ルーカス、お前は自分の立場をわかってないな」

「…どういう意味だ?」

「お前に何かあったら、エドワーズ家は終わるって事だよ」

「…ああ、そうだな。父は再婚を繰り返した割に子どもは私1人だ」

「それはベゼル家にも言える。ベゼルの後継者は…クレアちゃんだけなんだろ?」

「……ああ」

「2つの家が1つになるのって、許されるのか?」

 その疑問は最もだ。

 その最もな疑問は、ベゼル家とエドワーズ家の特殊な事情を知らねば出て来ないはずだ。

「…私がソフィアを疑った理由は、まさにその質問にある」

 そう言葉にすると、ザックがなるほどな、という顔をする。

「アイツ…お前の相手がハワードさんの娘だってところに異様な反応してたもんな。まるで……」

 …まるで、2つの家が交わることが有り得ない事を知っていたかのような…


「ザック、お前はどうなんだ。なぜソフィアを警戒していた」

「…気づいてたか。言ったろ?俺の仕事は情報の精査だって。アイツ、2年間のトラウトでの任務中ほぼ毎月こっちに帰って来てる。……組織に内緒で」

「!!」

「……規律違反で済む話じゃないなって思ってさ」

「…情報の精査はお前に任せる。必要なら情報局の人間を紹介するが…」

 ザックが少しだけ顔を歪める。

「いや……俺たちでケリ付けよう」

「………………。」


 

 あの本探しからの一連の流れで、この国を蝕みつつある事件の輪郭がようやく見えて来た。

 ハワード殿が命を懸けた、そして彼の娘がその命を見事に繋いだ結果だ。

 これだけの情報を得られたのに、クレアは捨て駒を一人だって作らなかった。

 そう、まるで在りし日のハワード殿のように。


「………ザック、お前の身柄は私が預かる」

「は?」

「護衛が必要だ。新婚夫婦に無用な波風を立てぬような人選をせねば」

「はっ!?」

「そうだな……お前はしばらく私の邸で暮らせ。ただし、クレアには近づくな」

「はあー!?」

「話は以上だ」

「てめぇ、ルーカス!いい加減にしろよ!!」


 背中からザックの喚く声がする。

 お前は永久に生き駒にする。

 私が決めたのだから仕方がない。

 恨むなら無駄に優秀な自分を恨むんだな。

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