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86.お前もだろ

「てめぇルーカス……今何時だと思ってんだ」

「4時…38分か」

「38分か…じゃねえだろが!お前のせいで俺はさっき寝たとこなんだぞ!」

「そうか、それは悪かったな。さっさと扉を開けろ」

「ったくどこのジジイだ、お前は」



 明け方うっすらと目が覚めた時、自分が何かを抱きしめている事を認識して、正直心臓が止まるかと思った。というよりも、自分が他人の気配を認識しながら眠りについた事実に戦慄が走った。

 …これは再教育プログラム行き案件だ。

 だが結局心臓は止まらずに、戦慄は安堵に変わり、こうしてザックの官舎を訪ねている。

 昨夜の総括のために。


「お前なー、早朝からゴソゴソするなよ。使用人が可哀相だろうが」

「彼らは心得ている。慣れたものだ」

 そう言いながら邸から持参した朝食とコーヒーをザックに渡す。

「……だから、こういうところだっつーの。これだからお坊っちゃんは……」

「…うちは今日からしばらく外食禁止だ。お前も」

「ああ…。は?俺も?」

「お前の奥方が薬の成分分析を担当してる。当然だ」 

 ザックの目が見開かれる。

「お前…いつから知ってた」

「知っていた訳じゃない。どう考えてもお前が見ず知らずの女と結婚するわけないから、気になっただけだ」

「…怖えな、お前」

「お前もだろ」


 種明かしをするならば、優秀なベゼル家のスパイが暗躍した。…言わずもがな、カルロスだ。


「んで、お前は俺を信用に足る人間だと判断したってわけか」

「半分は…な。だがその件が無くとも、お前をこの道に引き摺り込んだのは私の父だ」

「何だお前、覚えてたのか?」

「全く。子どもの頃2、3年いたかどうかもわからない同居人の顔など覚えていない。邸に何人の人間が住んでいると思っている。あるのは、いけすかない茶髪の陰謀論好きが住み着いていた記憶ぐらいだ」

「あっそ。…それが俺だよ馬鹿野郎!」


 ザック・タルボット。

 薄ら記憶にある限りでは、3番目の母の連れ子だった男。母とは言っても私と養子縁組をした訳でもない、ただの父の妻だった女性の子ども…だ。

 就職したその日にぼんやりと存在を思い出したが、今までお互いにその話に触れた事は無い。


「お前の親父さんには感謝してるよ。おふくろと別れた後にも色々世話してくれてな。俺を大学まで出してくれた」

「…そうか」

「お前が就職したら手伝ってやってくれって随分昔に推薦状出されて……可愛くも何ともないお前の世話を何くれと焼く羽目になった」

「そうか。それは災難だな」

「………可愛くねえんだよ、お前は」


 父はそういう人間だ。

 使い道がありそうな人間を長年かけて懐に入れ、自分の手足のように使う。

 …まさにエドワーズの体現者のような人間。


「お前は親父さんそっくりだ。とにかく過保護。無意識レベルで過保護。クレアちゃんに対する態度はまさに生き写しだ」

「…彼女がそれでいいと言っている。私はハワード殿のようには出来ない事を悟った。…彼女に愛人ができたら間違いなく相手を抹殺する」

「はあっ!?」



 昨夜彼女から紡がれた言葉は、私にとってはあまりにもショックが大きいものだった。

 ハワード殿が命をかけて貫き通そうとしたベゼルの血の宿命が、よもや足元から崩れかねない事態が起ころうとしていた事に。

 彼は私にとっては、ほぼ完璧な人間だった。

 一分の隙もなく、家族にすら真実を悟らせず、孤高を貫く、まさに人生の師…。


 そして私は急速に理解した。

 私はハワード殿のようには生きられないと。

 そしてハワード殿が、娘を自分のようにはしたくなかったのだと。

 人生の師がなぜ彼女を私に託したのか、その意味がようやく氷解した瞬間だった。


「私は私のやり方でこの件に片をつける。だから使えるものは全て使う。お前には迷惑をかけるが……」

「きもっ!お前は誰だ!?上司でも貴族でもアゴで使うのがお前だろうが!?」

「…………ならばさっさと出せ。朝っぱらから思い出話をしに来た訳ではない」

「おまっ…あーもう、わかったよ。ちょっと待ってろ」


 そう言いながらザックが風呂場へと向かう。風呂場とは名ばかりの…暗室へ。


「ほれ、夕べの招待客の写真だ。徹夜で現像したんだぞ。感謝しろ」

 そう言いながら簡素なテーブルに写真を並べていく。

「従者の写真が欲しい。目ぼしい貴族はだいたい会った」

「そうかい。んじゃこっちだな……」

 ザックが再び並べ直した写真には、確かに貴族の付き人の服装をした面々が写っている。

 付き人の出自まで洗うのは手間がかかる。だが非常に役に立つのは間違い無い。

 高位貴族の付き人は、大抵どこかの貴族の子弟だ。家同士の繋がりがよくわかる。


「確か…面白いものが撮れたと言っていたな。どの写真だ?」

「見たらわかる。…お前の勘は正しかったよ」

 ザックが1枚の写真をテーブルの真ん中に放る。

「…そっくりだろ、ソフィアに」

「ああ……そうだな」


 そこに写るのは、真っ直ぐな金髪を肩で緩く結んだ、青い瞳の男。

 クレアの…記憶の中の男……


「お前がいつアイツが黒だって気づいたかは知らんがな、大した推理力だよ。さすが鬼のルーカス。感心した」

「…お前もだろ」


 お前は結婚した事をソフィアに一度も話さなかっただろうが。

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