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81.戦うカーソン一家

 湾を一周する事になっているこの船が、残り3分の1まで来た時だった。

 ルーカス様が重い口を開いた。

 ローさんが放ったカイとレンという男性達から、給仕係の姿の男性が特等船室のフロアに入って行ったという報告を受けた直後だった。


「……状況はあまり芳しくない」

 ルーカス様の言葉に、私はただ黙って俯いた。

「…ふーん。ま、私たちは別にどうってことないわよ?」

「…え?」

 シンシアさんの言葉に、今度はパッと顔を上げた。

「私たちはこのまま最後まで堂々とパーティーを続けるわ」

 オリバーとセドリックさんも、うんうんと頷いている。

「夫人…それは……あんな事があったのにか?」

「そうですわ、シンシアさん。このまま部屋から出ずにやり過ごす方がよろしいのでは?」


 私とルーカス様の言葉に、シンシアさんはケラケラと笑い出した。

「なーに言ってんのよ2人とも。いつも言ってるでしょう?私たちに敵が多いのは百も承知なのよ!」

「ルーカス殿、シンシアの言う通りです。アンダーソン商会の件だけでは無い。我が商会はあまりにも早く成長しすぎたのです。自分たちでは真っ当に商売をしているつもりではある。しかし古参の商会から見れば、我々は縄張りを荒らす盗賊のようなものだ」

「ベゼルはまた自分のせいでパーティーが台無しだーとか思ってんだろ?」

 オリバーが私の鼻先で指をクルクル回す。

「まあ君には言ってなかったからね。そもそも父さんにエドワーズさんを紹介したのは僕なんだ。君の婚約者としてじゃない。僕の先輩に会ってみない?って言ったんだよ」

「そうなの…?」

 オリバーが頷く。

「父さんのところには、随分前からそりゃもう沢山の脅迫状が来てたんだ。そしてそれと同じぐらい、庇護を申し出る貴族の接触もあった」

「…そうだったのですか?」

 

 セドリックさんを見ると、彼が眉を下げて微笑む。

「オリバーの言う通りなんだよ。うーん…オリバーへの釣書の3倍は届いたかな」

「まあ……」

「庇護を申し出て来た多くの高位貴族に会ったし、実際にシンシアともかなりの数、彼らの集まりに参加した。…けれどうちのシンシアは…あれだろ?その…なかなか難しい価値観の持ち主で……」

「エドワーズ様はねぇ…」

 言いかけたシンシアさんの言葉をルーカス様が遮る。

「夫人………それは…秘密のはずでは…………」

「もういいじゃない!クレアちゃん、エドワーズ様はね、すっごくドレスが好きなのよ!!」

「………はい?」

「違うでしょう!!」

 ルーカス様が取り乱す。

「あ、そう?じゃあ言い直すわ。エドワーズ様は絵が凄く上手なのよ!そりゃもう綺麗な絵を描くの。見た事ある?見事なのよ〜!…ね?」

「まあ!それは今度ぜひ…!」

「………………ああ」

「ウフフ。どうせなら趣味が合う人とお近づきになる方がいいじゃない?」


 オリバーが続ける。

「要はそういうこと。カーソン商会はエドワーズさんの庇護下に入って今日という日を迎えた。そしてエドワーズさんの隣には君がいた。僕らは本当に運がいい」

 セドリックさんが力強く言う。

「その通りだ。とにかく、この控え室の飲食物から毒物が出たという事は、今回の標的は間違いなく私たちだ。クレア嬢のお母上の件は関係無い。何も引け目に思う必要は無いんだ」

「…僕らは想像以上に一連托生ってこと」

「オリバー……」


 彼らは何て懐が深いのだろう。

 そして何て強いのだろう…。

 他の道を選ぶことだってできるのに。

 …より危険のない道を歩むことができるのに……。


「あなた方の覚悟はしっかりと受け止めた。エドワーズはカーソン家を必ず守る。そして、守るためにも皆に話しておかねばならない事がある」

 ルーカス様が静かに、だけれどよく通る声で皆に話しかける。

 今度はやや緊張した面持ちでカーソン一家がルーカス様を見つめる。

「話とは単純。この国の爵位についてだ」

「爵位…ですか?叙爵の前に粗方の事は勉強したと思いますが……」

 セドリックさんが疑問を口にする。

「わかっています。先ほどの挨拶も卒のない、素晴らしい対応だった。私が話すのは……具体的に言うと、公爵家についてだ」

「「公爵家……」」

 オリバーとシンシアさんの声が重なる。

 

「公爵家と一括りで呼ばれるが、各家によってその成り立ちは違う。過去の功績によって陞爵された家もあるが、ほとんどは……」

「元王族、という事ですね」

「ああ。さすがオリバー君だ。確認できている限り、この船に乗り込んだ公爵家は2つ。レアード公爵家とマクミラン公爵家。…両家とも老舗商会の後ろ盾になっている。そして、特等船室にいるのもこの2つの公爵家だ」

「…そうですね」

 セドリックさんが答える。

「この2つの家は、今は元王族だが……」

「…彼らは、未来の王になる可能性がある」

 私は彼の言葉拾って、ポツリと呟いた。

「その通りだ。公爵家の面倒なところはここだ。同爵位内での序列はあくまでも叙爵順。古い方が格が高いが、場合によっては彼らは王族に戻る」


「嵐…ね」

 シンシアさんが呟き、カーソン一家全員が目を合わせて頷き合う。

「ルーカス殿、私たちはいかにいたしましょう。二公爵家と仲良くしろとおっしゃるならそれもやぶさかではありませんし、上っ面の付き合いでいいならば、それは得意とするところです」

「セドリック殿…」

「私は正直言って、会社を売ってまた新しい事をしたっていい」

「そうよ、クレープ屋でもいいわ」

「いやだから、もう少し原価率の低い……」

「お前たち静かにせんか。…ゴホン。私たちはあなたの指示に従います」


 カーソン家の躊躇無き意思表示に、ルーカス様が目を見開いた。

 …そして、笑った。不敵に。

「そうか…。では堂々と喧嘩でも売りに行きましょうか。商会らしく」

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