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77.パーティー中盤

 パーティーの中盤は、エドワーズ様が受ける挨拶攻撃をぼんやりと微笑みで受け流す事が仕事だった。

 恐らく貴族の面々だろう。メインホールに近づくに連れエドワーズ様を知った人達が増えていく。

 途中何度も、いわゆる男性の社交場とされる所への誘いがあったが、そのたびに微笑んで断りを入れる彼は……なかなかの演技派だという事がわかった。


「そろそろカーソン一家を助けに行くかな……」

 そう呟く彼とは、なぜか腕ではなく手を繋いでいる。

「クレ…アは退屈かもしれないが……」

「…あからさまに照れないで頂けます?私がものすごく恥ずかしい事を頼んだみたいではないですか……」

「…慣れないからな」

「はいはい、それは全く信じておりませんわ」

「なぜだ」


 彼への誕生日プレゼントは邸に置いてある。

 パーティー会場でも持ち歩けなくは無いが、邪魔になるかと思ったのだ。

 だからとりあえず言葉だけ先に伝える事にしたのだけれど…

「……言い出した君は一向に私の名を呼ばないではないか」

「それは…慣れませんので」

「ほう…それこそ嘘だな。オリバーオリバーとそれはもう仲良く…。セドリック殿も、そう言えばザックですら名を呼んでいたな」

「…気にされてた?」

「私はそんなに狭量では無い」

「……………。」


 レイチェルさんとの出会いで、どうしても頭の中に残って仕方なかった事が、彼女がエドワーズ様を〝ルーカス〟と呼ぶ事だった。

 …親しいのだな、とすぐにわかる呼び方が、正直言って羨ましかったのだ。

 だから先ほど、『私の事は、クレアと呼んで欲しいのです。私も、ルーカス様とお呼びしてもいいですか?』と申し出てみたのだけど……。

 私たちはどこか順番がチグハグなのだろう。…キス以上に恥ずかしい。



「…お二人さん、何なのその甘酸っぱい空気…。気色悪くて見てらんないわ」

 そんな事をぐるぐる思い出していた時に、突然背後から掛けられた声に肩がビクッと震える。

「…ああ、ザックか。どうだ、そっちは」

「とりあえず一通り納めた。…面白いもん撮れたぞ」

 振り向けばそこには、首からカメラを下げた、まるで新聞記者のような姿の……

「…ザックさん?」

「お久しぶり、クレアちゃん。おぉ…これまた神々しい」

「見るな」

「無茶言うな。害虫を駆除する前のような目やめろ」

「ザックさん…今日はどうして?」

「ん?俺、新聞記者だから」

「…え?ザックさん、記者の方でしたの?」

「そうだよ。ほらお二人さん並んで並んでー」

「えっ、え?」

「ルーカス笑え」

「お前の顔見て笑えるか」

 本当に手慣れた様子で写真を撮るザックさんを見ても、さすがに騙されはしない。

 だって彼もまた…エドワーズ様と同じ仕事のはず。

 そしてこの2人がいるということは、つまりこのパーティーには何かある。


「クレア、行こう。いつまでもこの男の目に触れさせられん」

「お前…酷くない?」

「え、ええ?…それではザックさん、またお会いしましょう。失礼します!ル、ルーカス様、歩くのが早いですわ!」

「お前の写真、等身大に引き伸ばして的にでもするかなー。スッキリしそうだなあ」

 などと後ろから聞こえて来る声を無視して、彼はズンズン歩いていく。

「ザックに関わると大嘘の記事が出来上がるからな。特に私に関してはよくもここまで…というほどの創作をする」

「まあ…!どんなお話ですの?少し興味が……ございません」

 …眉間の皺が酷いですわ。


 

 メインホールに足を踏み入れた時、エドワーズ…もといルーカス様が口を開いた。

「そろそろカーソン一家は高位貴族達と接触する」

「…社交界の不文律ですわね」

「さすがよく勉強している。そうだ。爵位の高い人間ほど遅くに挨拶に行く。今夜のパーティーの参加者はほとんどが商家から中位貴族まで。この辺りまでだと爵位の上下はあるにしろ、財力的にカーソン家は何ら引け目を感じなくていい」

「よくわかりましたわ。…これより先は、貴族の世界…ですのね」

「ああ。私は一応後見だからな。彼らの側に付く。君は私の側にいればいい」

 貴族のルールは独特だと聞く。彼に任せるのが賢明だろう。

 こくりと頷くと、彼が少し微笑んで、私の頬を指でくすぐった。

「そうは言っても退屈だからな。2人で…ああ、オリバー君も加えて競争しよう。挨拶に訪れる人間の名前と特徴を誰が1番覚えられるか…だ」

「まあ、それでしたらルーカス様はすでに面識がお有りなのでしょう?ズルいですわ」

「オリバー君には事前に各家の写真付き名簿を渡してある。…頑張るんだな」

「ええっ!私だけ事前知識無しですの!?」

「私に勝てたら金鉱山でも贈ろう」

「い、いりませんわ!」

「ははは!」


 貴族の世界…。

 私には隠されて来た世界。

 父は、本当にこの世界で生きていたのだろうか。

 

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