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75.船上パーティー

 御伽噺の舞台でも、これほど光り輝く船は出て来ないだろう。

 一体どれほどの電飾が灯されているのか、海に浮かぶ船全体が、まるで一つの街の夜景のように浮かび上がっている。


「…言葉になりませんわ……!」

「ああ、さすがはカーソン商会だな。中途半端だと足元を見られる。ここまでやれば敵商会もちょっかいかけては来るまい」

「はあ…。そういうものなのですか?」

「そういうものだ」

 駆け引きって難しいのね…。

 そんな事を思いながらエドワーズ様のエスコートで船内へと入る。

 

 船の中は外観と違って、高級ホテルをそのまま移築したかのような造りで、これまた度肝を抜かれる。

「私…カーソン家の財力について、よくわかっておりませんでしたわ…。確かにこれでは釣書の塔ができても仕方ありませんね」

「釣書の塔?」

「ええ。オリバーってすごくモテるんですよ。お見合いもすでに30回ほど行ったそうですし、家にはまだ釣書の塔ができていると……」

「なるほどな。まあ確かにカーソン家と繋がりたい家は多いだろう。だが、彼を射止めるのはなかなか難しそうだがな」

「本人も似たような事を言っていました。勉強よりも楽しいと思える女性が現れないとか……」

「それはまた面倒な趣向だな。さっさと身を固めれば良いものを」

「え?」

「ああ噂をすれば…。さ、主催者に挨拶に行こう」


 エドワーズ様の腕に手を取られ、彼に付き従いながら歩みを進める。

 エントランスホールの大勢の人だかりの中心には、今夜の主役のご一家が。

「あ、ベゼルとエドワーズさん!今日はお忙しいところありがとうございます」

 オリバーがニコニコと挨拶をする。

「ルーカス殿、よくぞいらっしゃって下さいました。準備段階からご助力頂き感謝しております」

「いえ、こちらこそ船上でのこれほどの規模の催しは初めての事で、色々と勉強になります。それにしても見事なパーティーだ」

 エドワーズ様とセドリックさんがガッチリと握手を交わしながら何やら難しい話を始める。

「ク、クレアちゃん……!なんて…なんて綺麗なの……!」

「シンシアさん…!今夜はお招き頂きありがとうございます。本当に素晴らしいパーティーで、私言葉になりませんわ!」

 瞳をウルウルさせながら私の前で両手を組んで何やら興奮気味のシンシアさん。

 主役らしく品のいいゴールドのAラインドレスに、シンプルなまとめ髪といういでたちだ。

「あーんもう、クレアちゃんが羨ましいわ!私もあと10センチ背が高かったらそのラインのドレスに挑戦するのに…!」

「まあ!私は小柄な女性に憧れますわ。一時期よりはましですけれど、私、ヒョロヒョロして枯れ木のようでしょう?」

「枯れ木……?枯れ木にそのドレスが着こなせるわけないでしょう!?お胸もお尻も……何ですの、エドワーズ様。頭痛でしたら、救護所はあちらですわよ」

「…カーソン夫人、あなたとは色々と話し合わなければならないようだ……」

「…受けて立ちますわ」


 相変わらず仲の良い2人が理解不能な話で盛り上がる中、オリバーが私の隣で耳打ちする。

「ベゼル、あそこの給仕係見て。…わかる?」

 オリバーがそっと指差す方には、最近よく見るモデルのような男性が。

「…リーさん?まあ…!どうやって溶け込んでいるのかしら」

「ね、不思議だよね。となると、どこかにローさんもいるはず……」

「確かにそうね。今夜は会場で〝ローさんを探せ〟をやるわ」

「ははは!まあ楽しんで行ってよ。…お金だけはすっごくかけてるから。母さんが」

「…でしょうね」


 オリバーからお勧めの料理や催しについて聞いていると、シンシアさんとの話し合いを終えたらしいエドワーズ様から声がかかる。

「クレア嬢、そろそろ場を空けよう。御一家への挨拶待ちができている」

「あら、本当ですわね。それでは皆さま、また後ほど参ります」

 軽く腰を落として挨拶をし、エドワーズ様と歩き出す。

 ご一家に背を向けて数十歩で思い出した。

「エドワーズ様!私皆さまに叙爵の御祝いを述べるのを忘れておりました!」

「ああ…いや、いいだろう。彼ら全く喜んでないからな」

「ですが形だけでも…」

「フ、まあ見ているといい。祝いよりも彼らが喜ぶ言葉がいずれわかる」

「…そうなのですか?」

 不敵に口の端を上げるエドワーズ様を見ながら、そういえば自分がもう一つ大切な事を忘れていたという事にようやく思い至ったのだった。

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