70.叙勲
「そうねぇ…確かに男の人への贈り物って難しいわよねぇ…。何あげても大して喜ばないし」
「そ、そうなのですか?」
「んな訳ないだろ。ちゃんと考えられた贈り物なら嬉しいに決まってるじゃないか」
「そ、そうなの?」
「どこがよ。あんたもセドリックも私が選んだプレゼントで喜んだ事ないじゃない!」
「…蝶ネクタイ柄物7色セットでどんな男が喜ぶわけ…?」
「ぶっぶー!虹+ピンクで8色ですー!宝石をまぶした特注だったのに!」
「……わかった?ベゼル、こういうプレゼント以外を選ぶんだ」
「わかったわ……」
エドワーズ様への贈り物の参考にと、人生の先輩にアドバイスを貰おうという試みは儚く崩れ去った。
エドワーズ様がピンクも似合う事は知っているが、喜ぶ顔は浮かばない。
「何でもいいのよ。エドワーズ様ぐらいになると買えない物なんてないんだから、欲しいものをあげようったって無理だわ」
「なるほど……」
「まあ…確かに母さんの言う事も一理あるね。物よりも、そうだなぁ…時間、とか意外性とか、そういう所で勝負すべきだね」
…その意外性の結果が蝶ネクタイセットのような気がするのだけど……そこは黙っておきましょう。
「シンシアさん、オリバー、ありがとうございます。参考にさせて頂きますね。ところで…いかがでしたか?初めての登城は……」
オリバーとシンシアさん親子が仲良くゲンナリした顔をする。
「もー、ほんっとに疲れたの何のって!みんな喋るの遅いのよ!歩くのも遅けりゃお辞儀は長いし、生産性上げていきなさいよね!税金むしり取ってんだから!」
「か…母さん、ほんとここだけにしといてよ?どこに耳があるかわかんないんだから!」
「わかってるわよ!」
「ふふ、シンシアさんにお変わりなくて何よりです」
昨日、カーソン家の面々は春から持ち越しの懸案だった叙勲の式典に参加した。
初めての王城と厳かな儀式にさぞや緊張したのでは…と思っていたが、そう言えばシンシアさんは私が心配する必要なんて無い逸材だった。
「クレアちゃん本当にありがとう。あなたのおかげで晩餐会も乗り越えられたし、つまらない話も何とか眠らずに済んだわ」
「まあ…!いえいえ、シンシアさんの努力の賜物ですわ。いかがでしたか?国王陛下への拝謁は……」
そう訊ねると、オリバーとシンシアさんが困ったように目を合わせて肩をすくめる。
「ベゼル…ここだけの話だよ」
そう言ってオリバーが声を落とす。
「…どうしたの?」
「陛下…だいぶ体が悪いみたいだった。顔色真っ青で目も虚ろ」
「まあ…。そんな状態で式典に?代理を立てる事はできないのかしら……」
私の一言にシンシアさんも声を落とす。
「クレアちゃん、やっぱり今……王宮には嵐が吹き荒れていたわ」
嵐…?
「私たちはエドワーズ様に着いて行けば間違いないとは思ってるんだけど……」
「そうそう。僕らじゃどの道吹く風に逆らうなんて土台無理な話だよ」
「駄目なら駄目でクレープ屋でも始めましょうか?」
「いいねぇ。けどもう少し原価率低い粉物の方が……」
2人が何だかよくわからない方に盛り上がっていく。
「あの、嵐…の内容を良かったら……」
私の声に2人がバッと振り向く。
「クレアちゃんが教えてくれたんじゃない!王位継承に纏わる諸問題!」
「そうだよベゼル!君が夕食の時に話してたんだろ?だから僕ら3人、昨日は下手打たずに済んだねって胸を撫で下ろしたもんさ!」
「えー…と、諸問題……」
「…陛下病気、王子小さい、どうすんのって話……」
「もしかして、3代前に王朝が移った話…?」
「そうよ、それそれ!私たちじゃ知りようが無い話だから助かったわー」
「だね。僕ら平民にとっては、国王っていうのは就任後にお披露目されるだけの存在だからさ。どうやって王になるかまでは知りようが無いだろ?学問として公にされている訳でも無いし」
「…そうなの?みんな知っている事では無いの?オリバーも知らなかった…?」
「全く」
王位継承方法なんて国民に広く知られていることでは無いの…?
次の王が誰になるかで、国が大きく変わるのに…。
私の頭に少し浮かんだ疑念を、カーソン親子が打ち破る。
「ま、僕らにとってはそういう大きな問題より、今週のパーティーの方が大問題だ」
「そうよお!船上パーティーよ!クレアちゃん、楽しみにしてて!すっごく気合い入れたから!」
シンシアさんが気合いを入れたとなると相当な出来上がりに違いないわね。
そうよね、色々気にしたって仕方が無いわ。
時間しか解決でき無いものもきっとあるのだろうし。
とりあえずは、エドワーズ様と参加するパーティーを楽しまなくちゃ。




