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66.メッセージ

「あった………」


 私の小さな呟きに、エドワーズ邸別棟の応接間はにわかに色めき立つ。


 いつの間にか日付が変わろうとしていた事になど全く気づく事もなく、私たちは箱という箱を片っ端から開け、アレックス・シモンズの著書を探していた。

 エドワーズ様は大抵の本の在処を覚えていたのに、もう一度最初からやり直すと主張し、3人で手分けしてとにかく目を皿のようにして探した。

 何十箱分の本の中からようやく見つかったのは、たった一冊の彼女の本。

 ……『おいしい料理の作り方』だ。


「料理…料理って!化学と言われれば確かにそうだけど!」

「いや…よく考えられている。全てがクレア嬢のためのメッセージだ。本当に……よく考えられている」

 オリバーは納得いかない顔をしていたが、エドワーズ様は感心しきりだった。

 私はというと、分厚い料理の本を抱えながら胸騒ぎが止まらなかった。

 見た目は専門書並みの厚みがあり、ハードカバーであるこの本が……軽すぎるのだ。

 何かが隠されている事は、もはや疑いようがなかった。


「…エドワーズ様、オリバー…。私の代わりに開いて下さいませ。……私、手が震えて……」

 私の様子に2人の顔つきが変わる。

「どうした。何か……」

 私から本を渡されたエドワーズ様の言葉も詰まる。

「……場所を移そう。何か温かい飲み物でも用意させよう」

 雰囲気の一変したエドワーズ様に、オリバーの顔にも緊張が走る。

「…僕はおいとました方が……」

 私はブンブンと首を振る。

「オリバーも一緒にいて!」

「いや…でも……」

「オリバー君、私からも頼む」

「…ええ、あの、では……ご一緒します」



 エドワーズ本邸の居間には温かいミルクと小さな焼き菓子が用意されていた。

 夢中というか……半ば意地とも言える探し物は、気づかないうちに体を疲弊させていたのだろう。

 ミルクの温かさと、菓子の甘さが全身に染み渡る。


「……クレア嬢、開けさせてもらう」

 エドワーズ様が静かに声を出す。

 私は頷き、お腹の前で両手をグッと組んだ。


 エドワーズ様が厚い本の表紙を開く。

「…見ての通り……箱だな」

「ですね……」

「……………。」

 開かれた表紙の中には、くり抜かれた本の中にピタリと収まる形で小箱が埋め込んであった。

 何のためにこんなに手の込んだ事を……

 父に対する疑問が何度も何度も頭によぎる。


「取り出すぞ」

 エドワーズ様が器用にピタリとはまった手のひら大の小箱を本から外す。そして、音も立てずに箱の蓋を開いた。

 中から出てきたのは……また、箱。

 つるんとした表面の、立方体の箱……。

 エドワーズ様が眉間に皺を寄せながら、軽く箱を振る。

 チャポチャポと音が鳴るのを聞く限りでは、水が入っているような……。


「カラクリ箱ですね」

 オリバーが言う。

「カラクリ箱?おもちゃでよくある…あの?」

「うん。それよりもっと精巧だけど、僕…どこかで見た事がある。確かこれって正しい手順で開かないと……」

「中のものが取り出せなくなる」

 エドワーズ様が続ける。

「中には水で溶けるものが入っているのだろう」

「……厳重ですわね」

 もうそれ以外の感想は浮かばない。


「あ、待って、こっちの箱にまだ何か入ってるよ。……手紙かな?」

 オリバーが箱から小さく折り畳まれた紙を取り出し、少し躊躇いながらも私に差し出した。

「手紙……」

 私に、父からの、手紙…。

「…1人で読むといい。これはきっとお父上から君へのメッセージだ」

 エドワーズ様が言う。

 だけど、私は何となく違う気がしていた。

 ただの親子間の手紙のやり取りに、こんな大袈裟な仕掛けは必要ない。

 これはきっと、父が信頼する誰かへ宛てたメッセージ。

 そして、私が出会う事になっていた誰かへのメッセージ。


 私は折り畳まれた紙を開き、目で文字を追った。


『クレアへ

 よくこの本を見つけたな。少し簡単だっただろうか。

 お前がこの手紙を開いたならば、私は最後まで父親らしい事は何もしてやれなかったのだろう。

 そして死してもなお、それは変わらない。

 クレア、今から書く事は願い事では無い。

 ベゼルの人間であるお前への、最初で最後の命令だ。

 見つけたもの全てを、お前を迎えに来る男に渡しなさい。

 彼は必ずお前の元に現れる。会えばすぐにわかる。

 手紙は読み終わったら燃やすように。 

 

 追伸 長生きするように。 父より』

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