65.名探偵オリバー
「うわー…!これ、全部ベゼルのとこから運んで来たの?」
「ええ、私は何もしていないのだけど……」
オリバーの発言以降、食事どころではなかった私とエドワーズ様ではあるが、それでもきちんとデザートまで食べ終えて、訳の分からない顔をするオリバーを引き摺るようにして別棟まで来ていた。
「オリバー君、急かしてすまない。どうしても君に知恵を借りたい」
エドワーズ様が正直にオリバーに告げる。
「僕にですか?エドワーズさんに分からない事が僕にわかるとは……」
「いや、私では余計な事が頭に浮かんで埒が明かないのだ」
「はあ」
エドワーズ様が私の目を見る。
私は一つ頷き返した。
「実はねオリバー、亡くなった父がこの本の中に隠し物をしたようなの」
「隠し物?この大量の本の中に?」
「そう。…迷惑な人でしょう?それでね、その隠し物を探す手がかりが……この本なの」
私はオリバーに本を差し出す。
中身が入れ替わった、表紙だけが詩集の本。
「…バートリー夫人の『砂の降る都』……えっ!ええっ!?なんか…ちょっと怖くない?僕って予知能力でもある!?」
「…そうだと大変ありがたいのだが」
オリバーが信じられないような目つきで本を捲る。
そして…手が止まった。
「…中身が違うんですね」
「ああ。カバーと中身が入れ替わっている。…入れ替えられている。私たちは昼間、その詩集を手掛かりにこれらの本を探し出した」
エドワーズ様が4冊の本を示しながらこれまでの経緯を簡潔に要点を押さえて説明する。
説明を聞きながら、オリバーの目は見開いたり上を見たり下を見たりと忙しなかったが、やはりそこは優秀な彼のこと。ほとんど間違いなく事情を理解した。
「君だったら…最初にこの詩集から何を連想するだろうか」
エドワーズ様の問いに、腕を組んで頭を傾けながらオリバーが考える。
「うーん……そうですねぇ…。僕も最初は2人と同じ事をするでしょうね」
私とエドワーズ様が同時に頷く。
「でも本の中身が入れ替わってなかったら、僕だったらアレックス・シモンズの本を探すかなぁ……」
え…確か彼の名前は教科書でよくみたわ。
「アレックス・シモンズ?化学者の?」
エドワーズ様が問い直す。
「あ、ご存知でしたか?」
「ああ。それは知っているが、バートリー夫人とどんな関係が……」
オリバーが不思議そうな顔をする。
「関係も何も…アレックス・シモンズはバートリー夫人の事でしょ?」
「「…………え?」」
「えっ!?2人とも知らずに詩集読んでたの!?意味わからないだろ!?」
「ええ。さーーっぱり………」
何度読んでも全く意味のわからない詩集だった。
父の遺品じゃなければ1ページ目で放り投げたと思う。
「私は……暗号だと思って読んだ」
エドワーズ様がポツリと呟いた。
…ああ、余計な事ってそれですのね。
オリバーが微妙な顔をする。
「そっかぁ。あんまり有名じゃないのかなぁ?バートリー夫人……アレックス・バートリー夫人ね、彼女は元々隣国トラウトの化学者だよ。名前が紛らわしいから男の人だと思われてるけど、結婚してタングルに来る前の旧姓はアレックス・シモンズ」
「まあ!私、全く知らなかったわ…!」
「私も知らなかった…。化学者が女性である事も、結婚して姓が変わる事も、この国で詩集を出すなんて事も、全く思いつきもしなかった」
エドワーズ様も正直に感嘆の声を上げる。
「いや、エドワーズさんは別として、ベゼルは知ってないとおかしいだろ」
「え?」
「受験勉強でやっただろ!?語呂合わせ!バートリー夫人の詩は、化学反応式を詩に書いたものじゃないか!」
「ご…語呂合わせ…?水に火かき棒をなんとかかんとかが…?」
「…あー…そうか、なるほど。君、受験してないね。エドワーズさんは……聞くまでもないか」
「…そうだな。一度見て覚えられる事をあえて語呂合わせするなんて…脳の容量の無駄…というか」
オリバーがヤレヤレといった顔で言った。
「僕たちって……誰が一番効率よく脳みそ使ってるんだろ」
……それは今の私ではない事は確かね。




