64.晩餐
「すぐ行く!準備してくるから!」
こういうのを二つ返事というのだろう。
オリバーの手本のような返事を聞きながら、隣に立つ彼は一体どうやってオリバーをこんなにも手なづけたのかと考えていた。
本当ならば使用人にでも手紙を持たせるのが礼儀というものであろうが、そこは勝手知ったるカーソン邸。
堂々とエドワーズ様と二人でオリバーを迎えに来た次第である。
「……ピンクだな」
玄関ホールでオリバーを待つ間、しげしげと邸内を眺めていたエドワーズ様が一言漏らす。
「そうですね。すっかり目が慣れてしまいましたけど」
「…ここは別名白磁邸と言って、そこそこ由緒ある建物だったのだが……まあ、あれだな。時代の流れ………」
なるほど、ピンと来た。やはりこの邸はエドワーズ様の息の掛かったものだったと。
まあ…本当に今さらだわ。
彼にとって想定外の出来事ってあるのかしら。
それこそ、偶然、思いがけず、みたいな……。
「お待たせー!ちょっと母さんは来なくていいからっ!」
「何よ!私だってクレアちゃんと喋りたいのよ!」
「ほとんど毎日グチャグチャ喋ってるじゃないか!」
「違うわよ!勉強してるんです!」
ホールがガヤガヤと騒がしくなり、向こうからシンシアさんとオリバーがやって来るのが見える。
「こんばんは、カーソン夫人。突然オリバー君を誘って申し訳ない」
エドワーズ様がシンシアさんに挨拶をする。
「あらエドワーズ様、ご無沙汰しております。ここで会ったが100年目ですわね。……例の件、私納得しておりませんので」
「…いや、こちらも譲れない」
「「……………。」」
二人は……仲が悪いのかしら。
「あ、でもあの小物は流石でしたわ。よろしければお店を紹介して下さらない?」
「ええもちろんです。紹介状をお持ちしましょう」
…仲がいいのかしら。
二人の様子を見ていたオリバーが溜息をつく。
「……はぁ。うちの母さんって怖いものとか無いのかな…」
「…無さそうね」
「で、今日はどうしたの?せっかくの再会に僕が水差しても大丈夫?」
「ええと……実は二人では煮詰まっちゃって……」
「なるほど。僕は断頭台に上がるんだね」
「え?」
エドワーズ様との会話を終えたシンシアさんが私の方にやって来る。
「クレアちゃん、これ食後にでも食べてちょうだい。…フワッとしたのとスッとしたのどっちが好き?」
……お菓子の話かしら。
シンシアさんから手渡される包を見て考える。
「ええと…食後ならスッとしたものでしょうか?」
「あーそう……チッ」
チッ?チッ…?
「二人とも帰ろう。それでは夫人、また後日」
「はいはーい」
シンシアさんに見送られて、カーソン邸を後にした。
邸に戻ると、晩餐の準備が整っていた。
「…最後の晩餐てことね」
オリバーがブツブツ言っている。
「オリバー君は飲めるのか?」
エドワーズ様が尋ねる。
「あー…やめときます。失言は避けたいので」
「そうか。ならば私もやめておこう」
どうにも噛み合っていない会話を交わしながら食事は進む。
「オリバー君は読書が好きだろうか」
メインディッシュの鴨肉がテーブルに並んだ頃、エドワーズ様がようやく本題を切り出した。
「読書ですか?そうですねぇ…。雑読ではありますけど、時間があれば本を読んでます」
…やっぱり。
「そうか。あー……詩集を読んだりは…」
「詩集ですか?うーん…正直言って味わう系の本はちょっと…。5年前ぐらいに一冊読んだかな…程度ですね」
「そうか……」
そうよね、私でさえ実用書の方が……
「確か、バートリー夫人の……なんだったかな。砂の…なんとか」
…!!
「砂の……降る都か?」
「ああ、それです、それ。確か彼女って隣国の……どうしたんですか?二人とも」
私とエドワーズ様がどんな顔をしていたかなんて、お互いに確認しなくったって明らかだ。
オリバーあなた、本当にすごい人物なんじゃないの…?




