61.尋問
父には秘密があった。
母にも秘密があった。
エドワーズ様にも秘密があって…そして私もいつか何かを秘密にする時が来るのかしら。
誰に隠すのかしら。
…何のために隠すのかしら。
新年度初日から色々あった週末、私はエドワーズ邸の別棟に来ていた。
別棟の使われていない応接間。
ここに私の屋敷から運び込まれた荷物が置いてあるからだ。
貴重品などは与えられた自室に置いてあるが、それ以外のものを処分するかどうか、そろそろ仕分けに入らないといけない。
…本当は1年半前にやっておくべき事だった。
だけど私は両親の事を何も知らなくて、大切なものが何なのかもわからなかったから、何となく手をつける事を躊躇った。
エドワーズ様は邸を取り壊したとおっしゃったわね。
大切なものはちゃんと取り出せたのかしら……。
それにしても、1番の難点はやっぱり本だわ。
どれをとって置くべきか…いやそもそも誰も二度と読まない可能性が…売ってしまう?
箱詰めされた大量の本の前でしばらく座り込んで考えていると、突然応接の扉が開く。
なんとなくそうではないかという予感を持って、ゆっくりと扉の方へと顔を向ける。
「…おかえりなさいませ、エドワーズ様」
そこに立っていたのは、やはり、彼。
鋭い灰色の瞳にきっちりと上げた黒髪。
その彼が、一言も何も発せずにズンズンこちらへ近づいて来る。
「エドワーズ様?」
とうとう私の目の前に立ちはだかると、ストンとその場に膝を付いて、私の目を覗き込む。
久しぶりに見る彼の瞳は相変わらず鋭いけれど、その鋭い瞳になぜかとても安心した。
「…もう、止まっている、か」
「え?」
そしてやはり無言のまま私をぎゅっと抱きしめた。
「…何があった」
「何が、でございますか?」
「泣くほどの何があった」
ああ…あの件。誰が報告を……
「執事から報告があった。…君が目を腫らして帰って来たと。帰るのが遅くなって……」
「いいえ、何でも無いのです。…私にも青春時代が訪れたというだけの事です。気にされる必要は……」
ふと顔を上げてエドワーズ様を見る。
「……は?」
「は…とは?」
「何時代が…何だと?」
眉間に筋が…
「ええと…何時代も来ておりませんわ。勘違いでした」
…こうやって人は秘密を持つのかしら。
「ほう…。私相手に隠し事とは、なかなか面白い」
え。
「君が否認することを見越して証拠は抑えてある」
え。
「先日君を送迎した運転手の証言によると、『大学からの帰宅途中にクレア様の様子が変化。後部座席から涙声が聞こえ始める。その後オリバー・カーソンの指示でレストラン・スティングレイへ送迎。二人は2時間半滞在』…オリバー・カーソンと何があったか話すんだ」
「お断りしますわ」
「なっ!」
何なのかしら、この人。
仕事内容を隠す気あるのかしら。
頭が良くて顔が怖いだけで、少し変わり者なのかしら…。
「はぁ…。私も経験がありませんので聞きかじりで申し訳ないのですが、こういう時は抱きしめて頭を撫でたりすれば十分なのでは?」
「それで足りるわけないだろう。泣かせた相手の血飛沫でも浴びねば、君の涙と釣り合いが取れん」
ちしぶき…
「仕方ありませんね…。エドワーズ様、ご起立を」
「!?」
「侯爵ともあろう方が、床に座り込んで何をなさっているのです。さ、早くお立ち下さい」
ポカンと目を丸くして、エドワーズ様が立ち上がる。
「他には…ございませんの?」
ジー…っとエドワーズ様を見つめる。
「…そうだったな。すまない。…ただいま」
「はい、おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
言いながら、私は彼の体をぎゅうっと抱きしめた。
彼は私の頭をポンポンと撫でた。
これにて大団円…のはずが、彼はなかなかしつこかった。
オリバーに何を言われたのか、なぜ喧嘩になったのか、なぜあの店なのか、何を食べたのか……
そんなに心配ならばこれを伝える他あるまい。
私は彼に笑顔で向き合う。
「ふふふ…オリバーにはちゃんと振られましたから、ご心配なく!」




