59.もう一つ
「で?もう一つは何?」
あらかたの料理を食べ終わり、最後に運ばれてくる飲み物を待つ間、オリバーが唐突に口を開いた。
「もう一つ?」
「今さら僕に隠し事できると思わないでよ。昼休み…何があったの?」
「……!」
どうして…わかるの?
私、何も…一言も……
「君の行動はね、ほんっとうにワンパターンなんだよ。どうせ今日も邸からサンドイッチか何か持って来たんだろ?そして最後に注文したのはアイスティー」
「オリバー…探偵になれるわ…!」
「君がわかりやすすぎるんだよ。そのワンパターンな君が、中庭以外の場所で昼食を取る…。つまり、誰かと一緒に食堂に行った」
「…本当にお見通しなのね」
「別に監視してる訳じゃないけどね。相手と場合によっては僕の命も…」
ごにょごにょしているオリバーの茶色い瞳をジッと見つめる。
「オリバー、私、あなたに聞いて欲しい事があるの。……あなたにしか話せない」
オリバーの顔がやや緊張した事がわかる。
さっき怒っていた時よりも、もっとずっと、目が鋭い。
「…婚約者にも言えないこと?」
私は頷く。
「彼が私に…隠している事、だから」
「!!」
「その事で彼を責めるつもりは無いの。時が来れば…という気もしているし、一生聞かされない変な覚悟みたいなものもあるの」
けれど、私だけではどうしても……いい方向に考えられない。
「エドワーズ様の事で間違った選択をしたくないの。私に理解が足りないところがあったら教えて欲しい。…知恵を、貸してもらえないかしら」
オリバーの目が大きく開く。
「ベゼル…エドワーズさんの事、本気で好きなんだね…!正直言ってビックリ!」
「……変かしら」
「いやいや、いいと思うよ!君、いい顔してるよ」
「…ありがとう」
他人から聞かされる自分の恋心が恥ずかしくて、それを誤魔化すように、そっと運ばれて来たアイスティーをストローでクルクルと回した。
「オリバーは、エドワーズ様の仕事のこと…気づいているでしょう?多分、私以上に」
「…そうだね。あのパーティーの日に……ね」
私は頷く。
お互い具体的な事は口にしなかったけれど、それで十分だった。
「…おそらく、私の父も……同じ仕事をしていたと思う」
「!!」
「…ずっと、父には隠し事があることはわかっていたの。エドワーズ様と接するうちに、何となく気づいたのだけど…」
「だけど…?」
「今日それを、私に伝えに来た人がいたの」
「…え?」
「すごく上手に会話に織り交ぜて…。でも明らかに私を誘導していた」
オリバーの顔が焦りの色を映す。
「その人…普通じゃないよ!何でそんな危険な話を食堂なんかで!」
「そうね…。でもそれはいいの。それはいい。聞かされた所で、やっぱりねって思っただけだから」
一口アイスティーを飲んで、気持ちを落ち着ける。
「オリバー、父とエドワーズ様に共通点があったとして、私が彼の仕事に関わるような事って何かしら。何度考えても……わからないの。今日私に会いに来た人は、エドワーズ様は……仕事で私の側にいるんだって、そういう事を言ってたの。…多分」
「…仕事で?」
「ええ…。私みたいな世間知らずは、自分が特別だって勘違いする……みたいな話だった」
オリバーの眉がへの字に曲がる。
「…ベゼル、つかぬ事を聞くけど、今日君に会いに来た人って…女性…だったりする?」
「どうしてわかったの…?オリバー、本当に探偵?」
オリバーがガクッと首を項垂れる。
「何やってんだよあの人…!まずは足元を固めろって話だろ!」
「オリバー…?」
「ああ…構図は何となくわかった。君は勘違いしたままでいい。それが一番うまく纏まる。けれどそれじゃあ君の気が済まないだろうし、悪い方へ考えてこじれてもいけないから、話を二つに分けよう」
私は深く頷く。
私一人で考えていたら、こんがらがっていただろうレイチェルさんの話。
オリバーが紐解いてくれる言葉を、私がどう受け止めるのか、きっとそれが問われている。




