58.モテる男
「ここって…個室のレストラン?」
「そうだよ」
「高いところ…?」
「気になるのそこなわけ?」
「いえ…その……」
オリバーが私を連れて来たのは、高級なブランド品の路面店が軒を連ねる通りにある、いかにも高そうな瀟洒なレストランだった。
私が働いていた所とは格式が違う……。
「予約…したの?」
「しない。しなくても入れる」
「ええっ!?」
「常連だから」
「じょ…常連…なのね。まさか……」
「そうだよ。相手は女の人。男同士で来る訳ないだろ、こんな所」
「!!」
ど、どうしましょう…!オリバーのそういう話は…聞きたいような、聞きたくないような……
「はぁ…。とりあえず座って。君に現実というものを教えるから」
「げ…現実ね。あまり生々しいのはちょっと……」
「馬鹿な事言ってないでよく聞いて」
「は…はい」
本当に慣れた様子で何品かの料理を注文したあと、オリバーが口を開いた。
「僕はオリバー・カーソンで、カーソン商会の会頭の一人息子」
「そ、そうね。知ってるわ」
「多分、国でも上から数えた方が早いくらい家は金持ち」
「そう…だったわね。ご両親があまりにも気さくだから、忘れかけてたわ」
「そう。両親…特に母さんは落ち着きがなくて正直息子の僕でも扱いに困ってるけど、事実として、平民の中では群を抜いて金持ちなわけだ」
「ええ……」
オリバーが溜息をつく。
「その飛ぶ鳥を落とす勢いの商会の一人息子に、見合いの話が来ないと思う?」
「…見合い」
「そうだよ。家には崩れそうなほど積み上げられた釣書の塔が建ってる」
「塔…!」
「君のお見合い伝説はとりあえず第7章だろ?僕はそろそろ30章を超える」
「さん…じゅう…」
「他人に心配されなくても恋人が欲しいと思えば何とでもなるし、はっきり言って君よりは充実した青春時代を過ごしてるんだけど」
「………!」
オリバーは…モテる男の人だったのね…。
「でも恋人はいらない」
「え?…どうして?」
「楽しいと思えないから。今僕は勉強してる時間が幸せだし、どうせ時間を割くならそれをわかってくれる人間と過ごしたいって思ってる」
「…そうなのね。私は…あまり勉強は……なんだけれど」
「でもそんな僕をよくわかってるからエドワーズさんを紹介してくれただろ?僕にとってあんなに衝撃的な人は金輪際現れないよ」
「エドワーズ様が?」
「そうだよ。きっかけはどうあれ、彼に会わせてくれた君には感謝してるし、あのエドワーズさんが選ぶ女性だよ?何で君はそんなに自分に自信が無いんだよ。僕が腹が立つのはそこなんだよ!」
オリバーが…怒ってる。
「君は僕が優しい人間だとか夢見がちな事言ってるけどね、僕は付き合う人間はかなり厳選する性格だ。そうじゃないと商売の世界ではやっていけない」
「…………。」
「その僕が君といるのは何でだと思う?」
「…………。」
「楽しいからに決まってるだろ?エドワーズさんに頼まれたから?僕は彼に出会う前から君と一緒にいるじゃないか」
「オリバー……」
「次に余計な事考えたら、友だちから知り合いに格下げするから」
「…ええ、ええ、そうして。もう、二度と言わないわ…。ごめんなさい…ごめんね……」
ありがとう…オリバー……。
「はぁ……。君とこういう話をする事って無いと思ってたんだけどね」
オリバーが行儀悪く椅子の背もたれに身を預ける。
「…そうなの?」
「そうだよ。あと、君がそんなに泣くとも思ってなかった」
「…最近変なのよ。年取ったのかしら…」
「未成年が何言ってんだよ。…人間らしくなったんだよ」
「人間らしく…?」
コンコン
「あ、料理来たね。…普段は何食べてるか味すら覚えてないから、今日はしっかり食べよっと」
「…どうして?」
「…早く人間になりな。わかるようになるから」
オリバーは、きっと私に大切な事を教えてくれた。
綺麗な言葉で隠さなくても、壊れない関係もあるという事。
けれど…自信を持つにはどうしたらいいのかしら。
何が必要なのかしら。




