57.オリバーの青春
午後の授業はオリバーが一緒だからとにかく彼を探しましょう。
彼の顔を見れば、心が落ち着く気がするわ…。
レイチェルさんと別れた私は、キャンパスを縦断しながらオリバーの姿を探していた。
特徴的な髪型だからいつもはすぐに見つかるのに、今日はなぜだか視界に入って来ない。
…先に講義室に行けばいいだけの話よね。
講義開始まではまだ15分あるが、ウロウロするのも時間の無駄である。
オリバーを探すことを諦めて、講義室の扉を開こうとした時だった。
「オリバー今日飲み行こうぜ」
「あー…無理。今日は直帰」
「何でだよ。お前付き合い悪いぞ?」
オリバーと…お友だち?
「あ、あれだろ?ベゼルさん」
私…?
「お前相変わらず子守してんの?はー!青春の無駄だな!」
「んじゃベゼルさんも誘おうぜ!一度喋ってみたい…」
「駄目。彼女まだ未成年」
「固い事言うなよ!」
「駄目」
開けようとした扉を閉めて、くるっと体を反転させる。
立ち聞きした私が悪い。
…私が悪い。
でも…。
私…オリバーの青春を無駄にさせてる?
子守…させてるの?
レイチェルさんの件だけでも、もう頭も胸もいっぱいだった。
それに加わるオリバーの件で、私の頭は限界だった。
もはや正常には何も考えられなかった。
…この場で正しく振る舞う方法がわからなかった。
結局授業を休む事ができない貧乏性で小心者の私は、講義開始ギリギリに講義室に滑り込み、ポカンと空いていた席に座った。
前にオリバーがいない席はいつもよりハッキリと黒板が見えて、私が見ようとして来なかったこれまでの日々を、目に焼き付けろと言われているようだった。
「…ベゼル、何かあったでしょ」
講義の間何とかやり過ごしてオリバーから逃げ回っていたものの、大学からの帰り道、とうとう彼に捕まった私は、エドワーズ邸から派遣された車の中で彼の詰問を受けている。
「…何もないわよ。どうして?」
「僕の事避けてるでしょ」
オリバーは……鋭い。
「避けられるような事した覚えない。理由ちゃんと話して」
「…ごめんなさい」
「別に謝らなくていいから、ちゃんと話して」
「…話したくないの。うまく…伝えられそうにないから」
まだ何もまとまってないの。自分の中から一つも答えが見つからないのよ…。
沈黙の車内の中に、オリバーの溜息が落ちる。
「うまく伝えるって何?」
「え…?」
「綺麗な言葉で説明するってこと?自分の感情を?」
「オリバー…」
「君は機械かなんかなわけ?それとも文豪?」
「そういう事を言っているわけでは…」
「じゃあ君は僕の事馬鹿にしてるわけだ」
「オ、オリバー!そんな訳ないじゃない!」
「同じ事だよ。綺麗に包まれた言葉じゃないと僕が嫌がると思ってる。…そして、君から離れて行くと思ってる」
「………!」
「…馬鹿にしてるだろ。僕は君とは対等なつもりだよ。本当の友だちだと思ってる。…綺麗に加工された言葉じゃないと続けられないような関係じゃないと思ってるんだけど」
綺麗に加工された言葉…
私の言葉は…いつも…いつも…加工済…
わからないの…知らないのよ。
それ以外の伝え方を。
でも、それじゃあ駄目なのも、わかってるの…。
「…オリバー、私、オリバーの青春を…無駄にさせてる…でしょう。…本当は友だちと遊んだり、お酒を飲みに行ったり…したいのに、私がいるから、エドワーズ様があなたに…頼んだから……」
駄目…泣くのは卑怯者のする事だわ…。
こういう時に泣くのは…相手の思考を奪うから…。
わかっているのに……一向に視界が晴れない。
「ああ…昼の聞いてたんだ。ふーん……」
「立ち聞きする、つもりじゃ、なかったの。ごめんなさい……」
「わかった。ちょっと付き合って」
「…え?」
オリバーが運転手に何事かを告げる。
頷く運転手が、帰り道とは違う方向にハンドルを切る。
「どこ行くの…?」
「君が世間知らずだって思い知る場所だよ」
「え…?」
「怒られついでだ」
怒られついで…。
オリバーは怒られるような事をしてるの?
などという余計な心配をした私は、やっぱり世間知らずで、頓珍漢なのだと思う。




