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54.そもそも

「こうして、タングル王国の黒鬼は、お姫様を手に入れました……と」

「…ザック、お前……何を書いている」

「んあ?あー…広報誌に載せる記事」

「は?」

「〝今月の捜査官〟のコーナー、お前だから」

「…………貸せ」

 私はザックから記事の下書きを取り上げると、グシャグシャに丸めてヤツの顔に投げつける。

「てめぇコラ!何すんだよ!」

「黙れ」 


 もぎ取った3日間の休暇も早々に過ぎ去り、今日から通常勤務に戻った矢先、私は危うく三文芝居の主役にされかけていた。

 ブツブツと私の名前を呟くザックを背後から覗けば、よくもまぁ作り話がスラスラと出て来るものだ。

「べーつに完全に創作って訳でも無いだろ。結果、そうなってんだから」

「いや、創作だな。今回の件、私は特に何もしていない」

「…お前は本当に恐ろしいヤツだよ。計算尽くでやったとしても怖いし、無自覚でやったなら余計怖いわ……」

「…無視」


 3日間はあっという間に過ぎた。

 最終日の昨日は、彼女の部屋の好みを聞いたり、庭を散策したりと主に邸内で過ごす事となったが、私にとってそこは大した問題では無かった。

 彼女は…明らかに変わって来ている。

 微笑み以外の表情が出るようになった。一日中彼女を観察したから言える。

 間違いなく、彼女の瞳には私が映っている。

 そして夜、真面目な彼女が今日から邸でどう過ごすかプレゼンするのを聞いている時、それは起こった。

『…次は、いつ帰られますか?』

 そう尋ねる瞳から…一粒の……


「お前今相当気色悪い顔してるぞ」

「…無視」

「よっぽどいい休暇だったみたいだなぁ、おい。…局長のアドバイス…実践したり……」

「阿保か。あの脳筋に教えを乞う事など無い」

「まあいいけどよ。万事上手くいってよかったじゃないか。どう考えても…お前の邸に置いておくべきだ」

「…そうだな」


 そもそも、彼女は……護衛対象者だ。

 アンダーソンの件が無くても、その事実は一切変わらない。

 もし見合いをしていなければ、影から彼女を見守っていただけの事。

 そして…20才の誕生日に彼女に告げるのだ。

 自分が何者であるのかを。

 ハワード殿がそうしたように。

 …父の死の翌日に、私に真実を告げに来たように。


 彼女にはあと半年…できれば穏やかに、最後の少女時代を過ごして欲しい。

 だけど私は彼女を少女だとは思えない。

 本人は世間知らずだと自分を責めるが、それを自覚できるのは精神が大人だからに他ならない。

 だからその役目はカーソン一家に託した。

 私は……ハワード殿が残した最後の任務を遂行するのみ。

 

「ルーカス、お前…そんなに入れ込んで大丈夫なのか?」

「…さあな。経験に無い事は想定しづらい」

「だよなぁ…。まあ一目惚れなんて普通の人間でもそうそう無いしな」

「…一目惚れ?」

「だろ?」

「いや…そんな記憶は……」

「はぁ?お前ハワードさんの葬式の時に彼女に惚れたんじゃないの?」

「…いや、違う」

「はー!?じゃあどこで……」

 お前に言うか。

 彼女には悪いが、彼女を美しいと認識したのはついこの間だ。一目惚れではないだろう?


「お前らは似た者同士だからな。何か感じるものがあったんだろうよ」

 似た者同士……

「でもな、傷の舐め合いだけはするなよ。それは…愛じゃない」

 …………。

「ザック…お前…本当に…気色悪いな」

「よしわかった。お前の記事は決まった。あの黒い鬼と呼ばれるルーカス・エドワーズも、愛しい婚約者の前では真っ赤になって指一本触れられず……」

「なるほど。遺書は局長に預けてあるな」


 傷の舐め合い…

 私は…彼女に慰めを求めている?

 それとも、自分なら、彼女を慰めることが出来ると心のどこかで思っているのだろうか。

 そもそも…愛かどうかなど、どの段階で判断できる。

 愛に至る前には彼女を望んではいけないのだろうか。

 

 執務机を見下ろせば、休暇中に積まれた書類の山が目に入る。

 努力すると約束した事を積み重ねる…それでは足りないのだろうか。


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