52.手の平の上
「まあ…!ものの見事に…薄桃色ですわね………」
「そうなの!可愛いでしょう!」
「ええ…確かに」
昨日初めて聞いた新しいカーソン邸の事実。
こうなると最早、全てがエドワーズ様の手の平の上なのではないかという気がしてくるが、シンシアさんの様子を見るとそうとも言い切れないような……。
「私ね、夢だったの…!白亜の豪邸、大きなシャンデリア、アーチ型の階段…!これこそお姫様のお城よ!!」
「まあ!」
確かにエドワーズ邸の真向かいは、白亜の豪邸である。
「ベゼル…母さんを止めてくれない?」
「オリバー?」
「そこまではまぁ許容してもいいよ。100歩譲って。…でもさ、家中の壁紙をピンクにするってどういう事だよ!こんなにファンシーな家、恥ずかしくて友だち呼べないだろ!?」
「……そんな事、無いわよ?素敵な…」
「やめてやめて!正直に言って!どう考えても地味な顔した僕らにこんな家…!!」
「だまらっしゃい。地味なのはあんたとセドリックでしょ。早くこの家が似合うお嫁さん見つけて来なさい!」
……夢を叶える事は素敵な事よね。
「はぁ……。うちの母さんは何でああなのか……」
内装工事途中のカーソン邸から一先ずエドワーズ邸に戻り、居間でオリバーの溜息を聞く。
「素敵じゃない。自分の好みが明確だなんて羨ましい限りだわ」
「…好みねぇ」
オリバーが何かしら含みを持たせる。
「…何?私変なこと言ったかしら」
「君も早く自分の好みをエドワーズさんに伝えた方がいいんじゃない?」
「…どうして?」
「この邸にも内装工事入るよ。…君の部屋の」
「えっ?」
私の…部屋…?
「僕は100パーセントそうなるだろうと思ってたけどね。エドワーズさんが今さら君を自宅に帰すわけないし」
「ええ!?」
「遅かれ早かれ春には結婚するんでしょ?」
「え…ええ、そのつもりだけど、早すぎないかしら。…展開が」
「…頑張って追いつきな」
昨日初めてデートに至った相手の家なのに…あ、キスしたわね。ちょっとだけ。
それにしても、仕事が早すぎないかしら。
私にも色々と準備が……無いわね。よく考えたら。準備するほど何も持ってなかったわ。
「僕はいい考えだと思うけどね。あの屋敷を貸し出すの」
「…どうしてそう思うの?」
「不動産には詳しく無いけど、あのあたりの地価を考えたらおそらく賃料は……」
オリバーが頭の中で算盤を弾いているようだ。
「うん、そうだね。1ヶ月分で学費2年分ぐらいかな」
………………え。
「君はアルバイト生活から抜け出せて、学業に専念できる。エドワーズさんって本当に頭いい……」
「ちょ、ちょっと待ってオリバー!あの屋敷…そんなに高いの!?嘘でしょう!?古いし、寒いし、暑いわよ…!?」
「はあ?……ああ、君は世間知らずだったね。本当によかったよ。相手がエドワーズさんで」
「ど、どういう意味…?」
「そのぐらい自分で考えて」
「オ、オリバー!」
オリバーからもたらされた情報でようやく解けたのは、信じられない桁数の固定資産税の謎のみ。
そして次に浮かび上がって来たのは……この邸、いったいいくらするのかしら…!
私の屋敷より首都中心部にあって、私の屋敷の4倍は広い……!
怖い…怖いわ…!床でも傷つけたら弁償できない…!
今日からヒールはやめましょう。ええ、そうしましょう。
「…君はまた下らない事を考えているな」
大混乱の頭の上に、低い声が降って来た。
「エ、エドワーズ様…!」
見上げればそこには無表情だけれど、何となく呆れ顔の彼がいた。
「オリバー君、一つ訂正しておこう」
唐突に話しかけられたオリバーがきょとんとする。
「彼女の屋敷の賃料は、1ヶ月で学費3年分だ。まあ…国立大に限るが」
「ああ、そうでしたか。後で計算方法を教えて頂いても……ベゼル?ちょっと?ベゼル!?」
その日もう一つ知った事。
人は、目を開けたまま気絶することができる。




