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49.母の宝物

「ええと、これとこれは持っていった方がいいわね。ドレス……サイズが合わないわね、あの人小柄だったから。宝石……は持ち帰るべきかしら」


 私はここに連れて来てくれたエドワーズ様をほったらかしにして、埃っぽい家の中で家捜しをしていた。


「日記…書くような人じゃなかったと思うわ。いえ、でも念のため探しましょう」

 ブツブツ言いながら家中を動き回る私を、出窓に浅く腰掛けながらじっと見ていたエドワーズ様だったが、とうとう口を開いた。

「あー…何か探し物か?手伝える事があれば手伝うが…」

「まあ!頼んでしまってよろしいのですか?」

 …実は手伝ってもらいたかった。

「ああ。探し物は得意だ」

 ですよね!そうですよね!そうだろうと思います。


「ええと、では、家の中にあったら困りそうな物を探して頂けませんか?」

「家にあったら…困る?何だそれは謎かけか?」

「違いますの。…ええと、日記とか、手作りのよく使い道がわからない物とか、あとは……」

 私の拙い説明をどうやら彼は汲み取ったらしい。

「…なるほど。何となく察した。この部屋に集めればいいのか?」

「え、ええ。お願いしますわ」

 …伝わったのかしら。すごい推理力……。


 母が暮らしたこの家は、父の屋敷ほどは広くは無い。だけど暮らした年月の分だけ物はある。

 私はその中から母の思い出を拾い集めていた。

 …いえ、母の、個人的な、思い出を。


 ぐるりと家の中を見渡す。

 中はこういう風になっていたのね……。

 白と青を基調とした家具。全て2人分揃ったカトラリー。

 今となってはもうかなり前、会えない母を慕ってここにこっそり来た事がある。

 父に内緒で、渋る爺やを脅して連れて来てもらった。

 着いた時には母は留守だった。でも諦めきれなくて、車の中で一言も口を利かずにじっと帰りを待っていた。


 ………来なければ良かった、そう思ったのよね。

 母が知らない男の人と一緒に帰って来たから。

 私や父の前で見せる作り物のような笑顔ではなく、まるで少女のように笑う母が帰って来たから。

 サラサラの金色の髪を背中に流した、青い瞳の王子様と微笑み合っていたから。



 リビングでぼんやり立っていると、エドワーズ様がどんどん物を運んで来る。

 何かの契約書や領収書、手書きの料理のレシピ……。

 なるほど、確かに彼は探し物が得意だ。

「あらかた集めては見たが…どうだろうか」

「さすがですわ。私では思いつきませんでした。…こんなものではないかと思います」

 彼の方を見ると、顎に手を当てて何かを考えている。

「…足りない気がするな」

「足りない…ですか?」

「ああ。長年暮らした家には大抵あるんだが……」

 大抵ある…。

「クレア嬢、これまでに家の中に入ったことは?」

「…ありませんの。今日が、初めてです」

「そうか…。ならばわからないかもしれないな」


 エドワーズ様はやはりどこか納得がいっていないようだ。

「クレア嬢、もう一度家の中を回ろう。気になる場所があれば言ってみてくれ。…やはり、足りない気がする」

「…わかりましたわ。宝物が出て来るかもしれませんものね」

 心にも無い事を言ったあと、彼と一緒に屋敷中を回る。

 応接、リビング、台所。風呂場と食堂を巡り、そして2階へ。

 客間、寝室……。

「寝室………」

 ボソリと呟く声をエドワーズ様が拾う。

「何か気になることが?」

「え、ええ。でもまさか……」

「気になるなら見ておく方がいい。…そうだろう?」

 ああ…彼は全てわかっているのね。

 素晴らしい洞察力だわ。


 彼に促され、私は寝室のベッドの周りをゆっくりと歩き回る。

 母も…父の妻だったのだもの。

 もしかしたら……もしかして………。

 靴を脱ぎ捨てる。

 足の裏に集中し、慎重に、ゆっくりと床板を踏みしめる。


「信じられないわ……」

 ギシッミシッと音のなる床板の中にあって、一箇所からだけ固い感触が足の裏に伝わる。

 立ち尽くす私の元へエドワーズ様がやって来る。

「…そこにあるんだな?」

 彼は…何でもお見通しなの?

「クレア嬢、開けないのか?」

 開ける…べきだとは思うけれど、何かよくないものが出てきたら……

 躊躇する私の肩を、エドワーズ様がそっと支える。

「…怖いものが出てきたら、身代わりになって下さいませ」

 彼の方を少し見て、少し冗談を言う。

「当然だ。だが……あの虫は勘弁願う」

 彼が真顔で冗談を言う。

「ふふ。その時は私がスパーンですわ」


 一歩後ろに下がり、スッとしゃがみ込む。

 細長い板の目の端を少し押して、縦に滑らせる。

 まるで当然だと言わんばかりに開く床。 

 

 細長い空間から出て来たのは、薄布で包まれた写真立て。

 小さな赤ちゃんに頬を寄せて、自然に微笑む父と母がいた。

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