48.デート…?
「クレアちゃん、それはデートのお誘いよ!」
「デート?」
「そうよお!お休みを取ってまで婚約者を連れ出す…。デートよデート!いいわねぇ…若いって……」
うっとりと空中を見つめるシンシアさんに、私の頭の中は混乱の極地だった。
デートのお誘い…?いえ、全くそんな感じでは無かったわ。だから私もあんな所を指定して…。
昨日唐突に邸に帰って来たエドワーズ様は、今日から3日間の休暇を取られたそうだ。
本人曰く、『勝ち取った休み』らしい。
…誰と勝負したのかしら。
覚書の修正が済んだあと、彼はこう言った。
『せっかくの休みだ。普段行けない場所へ出かけるのも悪くない。君はそういう場所があるか』
…あれがデートの誘いなら、わかりにくい事この上無いわ。ちゃんとおっしゃって頂けたら……何も出て来ないわね。
「さ、これでいいわ!う〜ん完璧!初々しさと少しの色気…これよ、これ!これが若さなのよ!」
よくわからない事で盛りあがるシンシアさんにかれこれ10着目の服を着せられた時、客間のドアがノックされた。
「クレア嬢、そろそろいいだろうか」
…はっ!私かれこれ小一時間は彼を待たせてるわ!
「は、はい!申し訳ございません!今参ります!…シンシアさん、ありがとうございました!」
バッと頭を下げて小走りでドアへと向かう。
「がんばって〜!」
ヒラヒラ手を振るシンシアさんを背に、ドアを開く。
するとそこには…
「ーーー!」
「急かしてすまない。あの辺りは道が混むから……クレア嬢?」
「エ、エドワーズ様……!ご褒美覚えていてくださったのですね!!ありがとうございます!!」
「…は?」
「か…可愛いですわ〜!お久しぶりでございます〜!」
「は……はっ!!」
そう、そこには髪を下ろしたエドワーズ様が立っていた。
「眼鏡は無いんですの?眼鏡があれば完璧ですわ!」
「……無い。もう出る」
「待ってくださいまし!可愛いですわ〜!」
行き先の選択は誤ったかもしれないが、今日はいい日になりそうだ。
「…見るな」
「えっ!?そんなもったいない事出来ませんわ!次はいつの事になるか……」
彼の運転する車の助手席で、ハンドルを握る彼をとにかく凝視していた。
時折鬱陶しそうに前髪をかきあげる仕草も、真っ直ぐに前を向く横顔もまたいい。
「…はぁ。君は少し変わっていると思う」
「そうですの?私、自分は四角四面のつまらない人間だと思っておりました」
「…………。」
年頃の御令嬢のようにドレスの話には興味が持てないし、お化粧だってお金の無駄だと思ってる。
「ところで、君が行きたがった場所は……」
「ああ…申し訳ございません。デートのお誘いとは思いもせずに、つまらない場所を選んでしまって…」
「デ…デート。…いや、構わない。私は観劇も音楽会もたいして興味はない」
「…なるほど。普通デートというのはそういった場所に行くのですね。勉強になりました」
「…………。」
私はエドワーズ様に、郊外の外れにある湖の近くへ連れて行って欲しいと頼んだ。
ここにはいずれ来るつもりだったから。
何もない思い出を、処分するために……。
「…ここに母上が?」
エドワーズ様がやや遠慮がちに尋ねる。
「ええ。私一人で来るには少し遠くて、なかなか足が向きませんでしたの。…静かな所でしょう?」
車を降りて見つめる先には、小洒落た一軒の白壁の家。
屋根は青く塗装され、手入れされずに荒れてしまってはいるが、ぐるりと花壇に囲まれた、女性が好みそうな…いえ、きっと母が好んだ家。
「私、あの屋敷と同時にこの家も相続しましたの。……母から」
「母上はここに一人で?」
「………男の人と暮らしておりましたわね。今さら死人を貶めるつもりはありませんわ。そういう事実があったというだけのこと」
「……そうか」
「ええ」
私は静かに玄関扉を開ける。
未だに漂う、亡き人の残り香を覚えながら。




