46.打ち上げ
「いえ、私は結構です。一刻も早く邸に……」
「なーに言ってんだ!今回の立役者のお前が打ち上げに来なくてどうする!何に乾杯しろってんだ!?」
「…国にでも乾杯すればいいでしょう」
「馬鹿やろう!そんなものに盃かざしてどうすんだ!さ、行くぞ!今日は飲むぞ!!」
この男は、今自分がとんでもない事を口走ったという自覚が無いのだろうか。
誰だこの男をハワード殿の後釜に据えた人間は。
膨大な時間と人員を割き、必死に追いかけ続けた事件が、今日、終わった。
我々の執念がようやく結実した悦びに湧く庁舎において、誰かがこれを言い出すのは必然ではある。
それはわかっている。
そしてそれを言い出すのがスタンリー・クルーズだという事も読み切っていた。
…だから面倒な事になる前に裏口から出ようとしたのだが、相手もただの筋肉馬鹿ではなかった。
てこでも動こうとしない私に、スタンリーが片眉を上げて持ちかけて来る。
「ふむ、ルーカス。ではこうしようではないか……」
「……………。」
「あれ、ルーカス珍しいじゃん。お前が打ち上げ参加するなんて」
「…不本意だ」
私は酒席が好きでは無い。別に飲めない訳では無い。ただ同僚と酒を飲む事に意味を見出せない。
なぜならば……誰も酔わないからだ。
「さすがに今回は結構な人数が集まったな。局長も嬉しそうにしてまぁ……」
ザックの言葉に四つ向こうのテーブルで大騒ぎするスタンリー・クルーズを見る。
「素面でもあそこまで騒げるのは才能だな」
「ははは!たまにはグデングデンになりたいもんだよ」
「ザック…再教育プログラムは地獄らしいぞ」
「知ってる」
結局いつも隣にはザックが座るし、仕事の話がタブーである上に順風満帆な私生活を持つ人間がほとんどいない場所など、楽しむ要素が無い。
「んで?ルーカス、今回は何と引き換えに参加したんだ?」
「…休暇だ。3日間」
「みっかぁ!?お前…やったじゃないか。風邪の時といい、局長お前に甘くないか?」
「そうか?そもそもは1週間申請した」
「そりゃ無理だ」
「わかっててやった」
ただ時が過ぎるのを待つだけの場に、わざわざ出向いたのには理由がある。
休みが欲しい。それだけだ。
「なるほどな。そりゃクレアちゃんへの論功行賞だな」
「……………。」
「しっかり尽くせよ!」
ザックに言われなくてもわかっている。
今回の件、影の立役者は間違い無く彼女だ。
危険な目にも合わせた。
本来ならば、局長直々に御礼に出向いてもいいぐらいだ。
「…どうやって労えばいいだろうか」
ふと口をついた言葉に、ザックが戦慄する。
「…お前は…誰だ!!」
「は?」
「ルーカスが他人を労う訳がない!お前は……誰だ!」
「………………。」
ザックの叫び声を聞いて、人がどんどん集まって来る。
「お、ザックとルーカス面白そうな話してんな。何々?あの紫ドレスのお姫様の話?」
「あー!あの子!まさかハワードさんのお嬢さんがあんな御令嬢だったとはな!」
「なー。鬼の顔が崩れるわけだよ」
なぜ皆寄って来る…。
「ルーカス頭おかしくなったんかと思ってたけど、普通にベタ惚れなだけだったな」
「違いない!この男が今にも溶けそうになってる姿をハワードさんに見せたかったな!」
「いやいや、そしたら今頃ルーカスの失踪届が出てる頃だな!」
「ぎゃっはっはっ!そりゃ間違いない!」
「………………。」
「お、何だ何だ?楽しそうだな。俺も混ぜろ」
散れ……全員消えろ。スタンリーは特に消えろ……!
「あ、局長お疲れさんです。今ルーカスがどうやってクレアちゃんを喜ばせようか悩んでんですよ。ここは人生の先輩として、コイツに何かアドバイスしてやってください」
ザック…後で覚えてろよ。
「そうさなぁ…。女は口ではああしろこうしろ煩いもんだがなぁ…」
そして真面目にアドバイスなどいらん!どこか行ってくれ!
「ま、押し倒せ。それで万事解決だな。ま、ルーカスのようなお子様にはわからんか」
「おおー!」
「さすがバツ2は言う事が違う」
「3つ目も近いですね、局長!」
「んなんだとぉ!?」
「ははは!局長は相変わらず……ルーカス?うわっ!やめろ!フォークじゃ無駄に苦しめるだけだ!」
私はこの日の屈辱を一生忘れない。




