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45.父と私

 怒涛のパーティーから一夜、エドワーズ邸には久々にセドリックさんの姿があった。


「んもう、セドリック!そうならそうとちゃんと言っておいてよ!」

「そうだよ父さん!僕と母さんがどれだけ心配したと思ってんの!?」

「悪かった悪かった。まさか足止めをくうとは思わなかったんだ」


 夕べのパーティーでは、参加していた貴族のほとんどが逮捕されるという前代未聞の事態となっていた。

 目の前の光景に凍りついて動けなくなっていたシンシアさんとオリバーに声をかけ、とりあえず邸に戻りましょうと告げたのは私だ。

 

 邸に戻ったシンシアさんとオリバーは、一緒にパーティーに参加していたセドリックさんがいつまで経っても戻らなったことで、真っ青な顔をして一睡もせずに夜を明かしていた。


「それで?呼び止められた理由って何だったの?」

 オリバーがセドリックさんに問う。

「ああ、仕事の話だよ」

 セドリックさんが何でもない風に言う。

「仕事ぉ?あなたまさか…裏でいかがわしい商売でもやってるんじゃないでしょうね?」

 シンシアさんが思ったことを素直に口にする。

「ば…馬鹿者!お前は自分の夫を何だと思ってるんだ!今日からの国の物流に差し障りが無いように、流通量をどれだけ増やせるか相談されたんだ!」

「「ふ〜ん………」」


 セドリックさんの話はおそらく本当のことなのだろう。

 …あの場にいた貴族の当主の中には、おそらく商会を経営する者がいたはずだから。


「…ったく。家族ぐらいは私を信用して欲しいものだな!」

 

 セドリックさんのぼやきに、私は思った。

 いいえ、シンシアさんとオリバーは、セドリックさんを信じて疑うことなんて知らないのです、と。

 そして知った。これこそが、家族の姿なのだ…と。



 3人の掛け合いを聞きながら、私は遠くへと旅立った父の事を思い出していた。

 話す機会すらほとんどなかった母と違い、父とは少ないながらも交流があった。

 よくわからない知識を披露してくれる事もあったし、時々は外に連れ出してくれる事もあった。

 だけど私は…父に何かを尋ねたことは無い。


『お父さまのお仕事はなに?』

『お父さまはどこで寝ているの?』

『お父さまはお金持ちなの?』

『お父さまはさびしくないの?』

『…どうしてお母さまと暮らさないの?』


 屋敷で留守番をしながら、次に会ったらこれを聞こう、今度こそあれを聞こう、次こそは、次こそは……

 でも結局勇気が出なくて、いつも父を迎える時はこう言った。

『おかえりなさい、お父さま。クレアはいい子にしていました』と。

 聞かなかったのではない。聞けなかった。

 …私は父が、嘘をつくと思っていたから。


 一つでもちゃんと聞いていたら、例え子どもの戯言だと思っても、何か答えてくれたのかしら。

 …話せないまでも、何かを見せてくれたのかしら。

 ………彼のように。



「…それにしてもエドワーズ様は警察官だったのねぇ…」

 シンシアさんの呟きに、ハッと現実に戻る。

「侯爵の仕事と掛け持ちなんて、体がいくつあっても足りないだろうな」

 セドリックさんがシンシアさんに続く。

「外で働く必要なんてあるのかしら?こーんなお邸で暮らしてて、宮廷貴族って訳でもないでしょうに」


 ご夫婦の会話にオリバーが沈黙を保つと言う事は、彼もきっと私と同じところに気づいたのだろう。

 いや、オリバーの方がもっと深く事情を理解したに違いない。

 エドワーズ様は、間違いなく市中の警察官では無い。

 この国での国家反逆罪は裁判所の管轄では無いから。

 …この国では、国家はすなわち…国王そのものだから。

 反逆罪は…国王への叛意。


 だけどあなたは一つだけ、私にちゃんと教えてくれた。

 そう…『話せない事もある』と。

 だから私はあなたに何だって聞くことができる。

 何でも聞いて、あなたが答えに詰まったら、一言こう言えばいい。

 『これは話せない事ですか?』と。


 あなたと父はよく似ている。

 いいえ、きっと同じ所にいる人なのでしょう。

 だけど父とは正反対。

 だから…たくさん話をしましょう。

 次に会える時を、楽しみに待っています。

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