42.パーティー
「パーティーに…ですか?私が?」
エドワーズ邸での暮らしにすっかり慣れた頃、シンシアさんが困りきった顔で私に告げた。
「ええ、そうなの。コソ…実はここだけの話、うちのカーソン商会には、ライバル…というか、はっきり言って大嫌いな商売敵がいるのよ」
「は、はぁ……」
その日の講義が終わった後、お茶を飲むシンシアさんから出てきたのは、私にはやや難しい依頼だった。
「ライバル商会には息子と娘がいるのよね。娘は22歳でブリブリドレスのブリブリメイク。息子はオリバーと同じでもうすぐ21になるの」
「は、はい……」
シンシアさんの口調がどんどん激しくなっていくところをみると、よほど馬の合わない相手のようだ。
「そこの馬鹿息子が婚約披露パーティーを開くのよ!さんっざんオリバーを虐めて泣かせてあんなに気の弱い子にしたあの馬鹿息子が!!」
「は、はい」
「なーにが婚約よ!息子よりまずは娘をどうにかしなさいよ!そうでしょう!?」
「は、はいっ!」
「クレアちゃん!私はあの馬鹿息子……違うわ、あの馬鹿親子をギャフンと言わせたいの!!…意味、わかるわよね?」
「は…は…?」
ええと、どういうことかしら。
ライバル商会の息子さんがわざわざカーソンご一家を婚約パーティーに誘ってきた…ということね。
その意味…その意味……。
「協力、してくれる、わ よ ね ?」
「はいっっ!!」
しまった、勢いに負けて返事してしまったわ!
ええと、だからその意味……。
「よかった!そうと決まれば採寸ね!オリバー!オリバ〜〜!?」
オリバー…採寸…?
「なにー?何か用?」
サロンにオリバーののんびりとした声が響く。
「オリバー!何か用じゃないの。クレアちゃんが一緒にパーティー行ってくれるんですって!ささ、二人で色を合わせておめかししなきゃ!」
「「………え?」」
「あ、二人はあのマーリン大で切磋琢磨する内に恋に落ちたっていう設定で行きましょう!大学ではいつも一緒なのよね?何も問題ないわね!」
「「…………えーーーっっっ!?」」
なんと、そういう展開になろうとは。
なるほど。ライバル商会の息子さんは、オリバーに婚約者をひけらかしたいのね。
でもオリバーに恋人…いない……わよね。ごめんなさい、オリバー。ってそうじゃないわ!
「シンシアさん、私パーティーには行けませんわ!まだ自分の屋敷にも戻れない身の上で、夜に外出などエドワーズ様がお許しになるわけありませんもの」
シンシアさんがニコっと笑う。
「何も問題ないのよ。私がエドワーズ様の許可を得ずにこんな事言い出すわけないでしょう?」
「え、ええ?彼…が許可を…?」
護衛付きで…とかそういう事かしら。
それとも会場が彼のよく知る場所だとか…?
チラッとオリバーを見ると、完全に顔から生気が抜けている。
「母さん…確認なんだけど、本当にエドワーズさんはそんな許可出したの……?」
「当然でしょ!…ボソ…代わりにドレスのデザインに物凄く注文がついたのよ?…信じられないわ。私の楽しみを奪うなんて…ボソボソ」
「母さん…?」
「だから!ちゃんと許可は取ったの!あの親子の鼻を明かすには、クレアちゃんじゃないと駄目なの!」
腕を組んでプリプリしているシンシアさんの意思は相当固そうである。
「オリバー、私はいいわよ。エドワーズ様がいいって仰るなら、何も問題は無いのではないかしら?」
「…うう〜む、こうなった母さんの説得は多分無理だから、詳細に事情を説明して、必要なら僕が一筆詫状を……」
「心配いらないと思うのだけど」
「…君は知らないんだよ。彼がどれだけ恐ろしいのか……」
あら、オリバーとエドワーズ様はあんなに仲良しじゃないの。怒られた事があるのかしら?
確かに見慣れるまでは本当に怖い顔なのよねぇ……。
「二人ともー!早くこちらにいらっしゃい!」
「ほんとごめん、ベゼル……」
「いいのよ、シンシアさんの依頼だもの。それよりもオリバーの相手が私だと、ライバル商会から逆にギャフンと言わされないかしら」
「………どうだろうね」
「困ったわ…。私、ちゃんとできるかしら」
「……………。」
請け負った以上は気合を入れて取り組まなければいけない。
これまでのパーティーというものは、参加する側ではなくて給仕する側だったのだから。
私はエドワーズ邸の図書館で、改めてマナーの学び直しに勤しむのだった。




