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41.ザック・タルボット

「ザック、情報を遮断しろ。いいな、一切漏らすなよ!」

「了解!」


 スタンリー局長に直々に呼び出され、とある情報の漏洩防止と遮断を命じられたのは、ルーカスのお姫サマを無事に取り戻した……もとい、ヴィンセント・アンダーソンの身柄を拘束した1週間後の夕方のことだった。

 秘密の根源である情報の内容を見てみれば、成る程。

 山が動くどころの話では無い。山が跡形も無く崩れるほどの中身だ。


 俺の仕事はルーカスほど多岐に渡るわけじゃない。あいつが情報の入手と犯罪人の捕縛を主な任務とするのに対し、俺は入手されて来た情報を守り、操作し、時には偽の情報を流して敵を惑わせ陽動し、捜査官の任務の補助をする。

 別に仕事が楽しいとか楽しくないとか思う事も無く、日々淡々と過ごしている。


 それにしても………庁舎の廊下を歩きながら考える。

 〝淡々と〟の代名詞だった、とある男の変貌ぶりについて。

 そもそもルーカスは俺より3つ年下のくせに、出会った頃からあのままだった。

 昔っから溌剌感は皆無。無表情、無口で、全ての事が効率重視。

 一緒に仕事をするようになって瞬時に悟った。こいつはこの仕事に就くべく育てられたんだなって。

 まぁ結果は大当たりだった。

 どんな任務も淡々と、そう淡々と、何の感情も挟む事なく流れ作業のようにこなす機械の様な人間が……俺の知ってるルーカス・エドワーズのはずだった。


 執務室のドアノブに手をかける。

 この扉を開ければ、恐らく淡々と仕事をしている風に見えるルーカスがいる。

 だけどな、俺は知ってるんだからな。お前…時々何かを思い出しては顔を隠して何か呟いてるだろ。

 正直言ってキモいんだよ。対面に座る俺の身にもなれ。まあ頑張ったからな。何かしらの褒美はあったんだろうよ。

 だがもう1週間だぞ?いい加減うちのチームに鬼捜査官を返してくれ。


 一つ溜息をついて、執務室に足を踏み入れる。

 そして目の前に広がる光景にもう一つ溜息をつく。

 …ソフィアか。

 局長から預かった書類の原本を持って来たのがルーカスで、それを翻訳したのがソフィアである以上、二人が膝を突き合わせて仕事をするのも当然だが…。

 

 気持ちは分からんでも無い。出会った頃のルーカスは綺麗な顔したボンボンだったろうよ。でもルーカスを好きになるか?好きになってお前にどんな結果が得られるんだよ。

 お前この仕事向いてないんだよな……。

 隠せないならルーカスに近づくな。

 …超痛い目みるぞ。


 だが分かってはいても、俺は無視して話しかける。

「よう、二人とも。すげえ情報出てきたな。また忙しくなるぞ」

「あ、ザックお帰り。やっぱりザックに回ったんだ」

「まぁ同じチームだし、妥当だろ」

 いくら同期とは言え、お互い全ての任務内容を知っている訳では無い。機密性が高くなればなるほど取扱う人数も限られていく。

 今回の件も、俺の所に書類として回って来て初めて全容を知ったわけだ。


「…局長何か言ってたか?」

 俺が部屋に入って来ても顔さえ上げなかった生意気な男が口を開く。

「いや、とりあえず遮断しろ、とだけ」

「……そうか」

 その口振りはなーんかあるな。なーんか。

「ルーカス、何か気になる事でもあるの?」

 つつくなソフィア。……多分痛い目見るぞ。

「いや、早く終わらせて家に帰りたい」

「「家に……?」」

 しっかりと頷くルーカスを、ソフィアと二人でぽかんと見つめる。


「…念のため彼女の気が紛れるようにカーソン家の面々に頼んではいるが………」

 …何を言っているんだ?この男は。

「心の傷は根深いというからな。油断はできん」

 神妙な顔をする目の前の男…。

「…ちょっと待て。お前、何をした」

「何を?カーソン一家にクレア嬢と一緒に邸に住み込んでもらっている。家族ぐるみで彼女と付き合いがあるから適任だろう」

 カーソン一家……だと!?

「お前なぁ!大商会の会頭家族を子守みたいに言うな!」

「邸…邸って、ルーカスたち一緒に暮らしてるって事!?」

「そうじゃない。まだその許可は得ていない」

 同じ事だボケっ!

 ああ…でもこいつはこういうヤツだった…。

 参列した上司の葬式で勝手に一目惚れした上司の娘と勝手に見合いして勝手に婚約するようなヤツだった……。


 だがな、お前は分かってんのか?

 今回のアンダーソンの件、あの子が一人で解決するようなもんなんだぞ?

 あの子も結局、〝そうなるように育てられた〟んだ。

 …お前と同じなんだ。

 お前、耐えられるのか?


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