40.新しい日々
エドワーズ邸に来て2週間。
私の回りでは色々な変化があった。
まず、パン屋を解雇されていた。
なぜかエドワーズ邸へと転送されていた手紙の一つに、解雇通知書が入っていた。
理由は言わずもがな。連続無断欠勤だ。
大いに言い訳をさせて頂きたいし、出来れば籍を残しておいて頂きたいが、もうそんな事を言える立場でも無いだろう。
…いつ復帰できるか正直わからないから。
そして、シンシアさんの家庭教師は週に3日だったものが、お察しの通り毎日になった。
恐ろしい事にこの2週間、私は一度も同じドレスを着ていない。
車での移動と、護衛の男性に囲まれる事が条件ではあるが、外出だって出来る。
叙爵の祝賀パーティーを控えるシンシアさんと、とにかくあちこちに出かけ、衣装やカトラリー、料理や菓子など、沢山のものを見て回った。
エドワーズ様とセドリックさんの姿を私が邸で見かけることは無い。
邸に帰って来ているのかどうかも定かでは無い。相当忙しいのだろうとは推察できる。しかもエドワーズ様は、別の所に住まいもある。
つまり……私はこの2週間、彼に会っていない。
私のせいでシンシアさんが気を失ってしまった事から、あの夜は大変だった。
オリバーには地球外生命体を見るような目つきで見られ、セドリックさんには苦笑いをされた。
エドワーズ様には生物の亡骸を彼の見えない所で全て燃やすように言われ、彼らを包んでいた紙は回収された。
他に何か隠しているものがあるなら出すように言われて、彼にコソッと打ち明けた。
『排水管の工事の方には、お酢をたくさん流すように伝えてください』と。
色々とバタバタした結果、本当ならその夜にでも聞けていたであろう、〝彼は何者なのか〟は、聞けずじまいとなっている。
「…別にもうどうでもいい気がしてきたわ」
「は?何言ってんのベゼル。君ね、分かってんの?こんな成績で僕の友人を名乗るつもりなわけ?」
……実は頭痛の種が一つ…。
「オリバーの求める水準が厳しすぎるのよ!」
「へ〜え…。読みあげよう。可、可、可、可、可可可可可可可…可。可!!」
「…単位は取れたじゃない」
「そうだね、君の目標は卒業だ。目標まで最小の努力で到達するだろうね」
「……………。」
やはりなぜかエドワーズ邸に転送されていた期末試験の結果通知。それを見てからというもの、オリバーがとにかく厳しい。
「君はエドワーズさんの力になりたいとは思わないわけ?」
「え…?」
「あれだけ忙しい人なんだよ?手助けができるようになりたくないの?」
「オリバー…彼のこと何か知ってるの?もしかして、仕事内容とか……」
「知るわけないだろ。世の中には知らない方がいい事もあるんだよ。だけど彼が凄いのはわかるだろ?あの人と結婚するって事は、ある程度知的水準が一緒じゃないとしんどい事になるよ」
知的水準…確かにそうね。
彼はオリバーと話してる方が楽しそうだわ。
「彼は……あまり私と話すのは好きじゃないみたい。きっとつまらないのだわ」
「…いや、そうじゃなくて、このまま猫可愛がりされるだけの女でいいのかって事だよ。ベゼルそういう性格じゃないだろ?」
猫可愛がり…?
「誰が…誰を……?」
「エドワーズさんが、君を。甘やかしすぎだと思う」
甘やかされ…た?私甘やかされてる?
「ちょっとオリバー…あなたの現状認識おかしいわ。私、彼に笑いかけられた事も無いのよ?…嫌われてるとは思わないけど、いえ、その、好意的なものは…それなりに……」
「…そこだよ。君の駄目なところはまさにそこ。……ボソ…どこの世界に婚約者のために一家丸ごと引越しさせる人間がいるんだよ………」
「…え?オリバーもう一度お願いできる?」
「とにかく!君はあと2カ国語習得するんだよ!それから国際政治学はみっちりやるんだよ!」
「えっ?どうしてその科目なの?2カ国って…どうしてそんなに!?」
「必要だからに決まってるだろ!さっさと教科書開いて!夏休みがあると思うな!」
こ、怖いわ…!オリバーが怖い!
エドワーズ邸での私の日々は、明るく、楽しく、賑やかだった。




