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37.大邸宅

「まあ…!ではここはエドワーズ様のご実家なのですね?」

「…実家では無い。私の…邸だ」


 私の邸…。

 とりあえずぐるりと辺りを見回す。

 広々とした寝室に豪華なベッド。備え付けの家具も趣味の良いアンティーク…。

「…まさか、私、主寝室を占拠しておりますの…?」

 だとしたらとんでもないことだ。主人のベッドを堂々と使うなど…!

「…いや、ここは客間で…」

「きゃ、客間…!」

 もしかしたら、私とんでもない方と婚約してしまったのでは……?

「…体が何とも無いなら、邸を案内するが…」

「…え?体は何ともございませんが……」

 案内…?

「…ならば、行こう」

「え、ええ」


 

「…ここが食堂で、ここを抜けると広間。反対側にサロンと……」

 とりあえず手を引かれるままに邸の案内を受ける。

 まあとにかく広い。広すぎる。

 そして行く先々で使用人と思しき人たちが頭を下げている。

「あの、エドワーズ様?案内して頂いてこう申し上げるのも失礼ですが、私、勝手に動き回ったりしませんわ。落ち着いたら自分の屋敷に……」

 そこで彼がピタリと止まる。

「…君はしばらく屋敷には帰れない」

「はい?」

「…説明がまだだったな。応接にカーソン家の面々も揃っている。…聞いて欲しい事がある」

 彼の灰色の瞳に少しの不安が見て取れる。そして…

「わかりましたわ。…ですから、いい加減にその手を顔から離して下さいませ!少年でもあるまいし!」


 そう、彼はずっと右手で目の下から口元を隠している。

 …経験豊富なのでしょう?たかがあの程度で……。

「…無理だ」

「……赤面しないで下さい」

「何で君はそんなに平気そうな顔を…!」

「色々経験豊富だからですわ」

「はっ!?」

「…ようやく手が離れましたわね。本当に世話が焼けますわ。さ、参りましょう?」

「いや、さっきは初めてだと…!」

「はいはい、参りましょう、参りましょう」

 ずっとごにょごにょ言っている彼を引きずりながら応接へと向かう。

 …私だって今にも頭から湯気が出そうなくらい恥ずかしかったのですわ!だけどあなたが信じられない程真っ赤になるから、驚いて冷静になったのです!


 などと心の中で悪態をついたものの、応接での彼は驚くほどに冷静だった。


「君も知っての通り、こちらはカーソン商会の会頭御一家だ」

「ええ…。セドリックさん、ご無沙汰しております。シンシアさんにオリバーも…。この度は大変なご心配をおかけして、まことに申し訳ございませんでした」

 心からの謝罪をこめて、頭を下げる。

「クレア嬢、顔を上げて下さい。今回の件に関してあなたには何の落ち度も無い」

「そうよ、クレアちゃん!全てはあの男が悪いのよ!いくらクレアちゃんが可愛いからって15も年下の女の子に手を出すなんて…!!」

「か、母さん!ちょっと口をつぐんで!」

 …困ったわ。多分カーソンご一家も勘違いしてるのね…。


「あの、シンシアさん、その、私……」

「いいのよ、クレアちゃん!エドワーズ様と上手くいかなくなったら、オリバーにあなたを娶らせるわ!」

「ひー!母さん!!やめて!前見て前!」

 …わかるわ、オリバー。とにかく隣から冷たい風が吹いてくるもの。

「シンシアさん、私まだ、清い体と申しますか、その…まだ手付かずと申しますか………」

 俯き加減にポソリとそう言葉にしチラッと彼らを見回せば、セドリックさんとオリバーがやや頬を染めて、気まずげに視線を宙に漂わせている。

 シンシアさんに至っては、目に涙を浮かべて今にも号泣しそうな勢いである。

「よかった…よかったわ…!別に違ったからどうって事は無いのよ!?でもエドワーズ様とがいいに決まってるもの!そうでしょう!?クレアちゃん!!」

 シンシアさん…勘弁してくださいませ。

 ご主人と息子さんが、本気で気まずい事になってます。

 隣のエドワーズ様に至っては、せっかく顔から離れた右手が、両手になってますわ……。


 結局シンシアさんのマイペースな演説が終わるまで、男性陣はしばらく誰も口を開かなかった。


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