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36.何も気にしない

 1022号室から助け出された私は、なぜかカーソン商会の配送車に乗せられて、どこかへ向かっている。


「あ、あの、エドワーズ様……」

「なんだ?」

「…おろしてくださいませ」

「なぜ?」

「なぜって…」

 …少なくとも6人の方と同乗しているからですわ。

 

 私は歩ける、ずっと掃除をして鍛えていたと主張しても、彼は頑として受け入れなかった。

 ホテル最上階から地上まで、途中エレベーターがあったにはしても、終始抱えられたままのこの状態。

 閉じかけた意識も一瞬で戻るというものだ。

 

 屈強そうな男性たちに生温い視線を向けられながら車は走る。

「エドワーズ様、この車はどこに向かっているのですか?」

「そうだな…。着けばわかる…と思う」

 わかると思う…。

「…どうしてカーソン商会の車に?」

「そうだな…。着けば、わかると…思う」

「………左様でございますか」


 何を言っても、何を聞いても、今はどうにもならないようだ。

 私はとりあえず諦めて……目を閉じた。




 次に目を開いた時最初に目に入ったのは、私を覗き込む4つの目。薄い茶色でお揃いの…

「!!」

 思わずガバッと起き上がる。

「ベゼル!」「クレアちゃん!」

 一瞬クラッとするが、頭を振って目の持ち主をもう一度見る。

「…オリバーに…シンシアさん…?」

 そう言えば、お揃いの4つの目が潤み出す。

「ベゼル!どこか痛いところは無い!?体大丈夫!?」

「クレアちゃん!…よく、よく頑張ったわね……。私、もう…生きた心地がしなくて…うぅぅ……」

「…シンシアさん……」

「僕、エドワーズさんに知らせてくる!」

「え、あ、オリバー…」

「クレアちゃん、もう大丈夫よ…。怖いことはもう終わったの。もう大丈夫、大丈夫よ……」

 終わった…。

 私の左手をぎゅっと握りしめて涙をハラハラと流すシンシアさんをどこか夢心地で眺めていると、足早に近づいてくる靴音がする。

 見慣れない部屋の見慣れない扉から現れたのは…

「エドワーズ様……」

 やや疲れた顔の、彼だった。


「…クレア嬢、体は…大丈夫か?」

「え、ええ。おかげさまで何ともございません」

「……そうか」

 私たちの微妙なやり取りを聞いて、シンシアさんが声を出す。

「わたくし、応接に控えておりますね。…エドワーズ様、クレアちゃんの気持ちを汲んであげて下さいまし。……お願いします」

「…ああ、もちろんだ」

 どうしたのかしら……。

 皆にすごく心配をかけたであろう事は理解している。

 だけど、再会を手放しで喜んではいけないような…そんな雰囲気。


 彼がベッドの側に近づいて来る。

 そして先ほどまでシンシアさんが座っていた椅子に座って、私の顔をじっと見る。

「エドワーズ…様?」

「クレア嬢、何も心配する事は無い。私は何も気にしない。君が戻ってくれた、その事だけで十分だ」

「…え?」

「君との婚約を解消する事も無いし、予定通り春になったら結婚する」

「え、ええ…。それは、嬉しいですわ」

「…本当に?」

「こんな私で良ければ…ですが」

「だから何も気にする必要は無い。私はそんなに狭量では無いし、それに今はもうそんな事を気にする時代では……」

 気にしない…。

 そんな事…時代。

 やたらと皆が体の心配を…………

 なるほど、完全に理解しましたわ。


「…エドワーズ様は、何も気にされない」

「当然だ。露ほども」

「私は気になりますわ」

「……そんな必要は…」

「エドワーズ様が一体どれほどの女性とお付き合いされてきたのか、非常に気になりますわ!」

「…はっ!?」

「これは新たな発見ですわ。私…今ならシンシアさんの言葉がとてもよくわかりますもの」

「い、いや、何を…」

「だって、そんな事、なのでしょう?そんな事と言えてしまうほどのご経験が?」

「そ、それは…いや、だから、そうではなくて…!」

「冗談ですわ」

「はっ!?」


 ベッドの上でしっかりと起き上がり、狼狽える彼のシャツの襟をぐっと掴んだ。

「!?」

 そして、戸惑う彼の灰色の瞳を一瞥して、そのまま彼の唇に口付けた。

「お生憎ですわ。わたくし、今のがファーストキスでしたの。一生詰め寄りますので、そのおつもりで」

 

 そして最後にニッコリ微笑んだ。

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